研究成果

直接観測された物質物理学の謎「隠れた秩序」


2014年06月19日

  • 理工

2014年6月19日

 笠原成 理学研究科助教、芝内孝禎 東京大学新領域創成科学研究科教授(元京都大学理学研究科准教授)、水上雄太 同助教 (元京都大学理学研究科大学院生)、松田祐司 理学研究科教授らは、杉本邦久 公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)研究員、芳賀芳範 独立行政法人日本原子力研究開発機構主任研究員らと共同で、ウラン化合物URu_2Si_2におけるこれまで未解明であった電子状態を、SPring-8における放射光を用いた超高分解能結晶構造解析により直接解明しました。この電子状態は「隠れた秩序」と呼ばれ、物質物理学の30年来の謎でした。今回の研究で結晶構造がわずかにひずむことを発見し「隠れた秩序」がどのような空間的な 対称性を持った電子状態なのかを明らかにしたことにより、物質中の電子が示す新しい秩序状態の理解へつながると期待されます。

 本研究内容は、2014年6月19日付けで、英国科学誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。

研究者からのコメント

 本研究成果は、磁場をかけない状態における回折実験という直接的な方法で、回転対称性が破れていることを初めて実験的に明らかにしたものです。この結果により、これまでは間接的な証拠によって類推されていた隠れた秩序状態の空間対称性が決定されたことになります。また、得られた2回回転対称性は、通常の物質で簡単に予想される対称性の破れ方とは異なり、自明でないタイプのものであり、今後なぜこのような相転移が起こるかを明らかにすることにより、物質中の電子が示す新しい状態の理解へとつながることが期待されます。

ポイント

  • ある種のウラン化合物が示す新しい電子状態は「隠れた秩序」状態と呼ばれ、物理学の長年にわたる大きな謎であった。
  • 最近、間接的な証拠に基づいて菱形状の秩序が類推されたが、結晶構造は正方形状であると報告されており、結晶構造の変化を直接的に観測することが最重要課題であった。
  • 放射光を用いた超高分解能測定と純度が非常に高い結晶を組み合わせることにより、結晶構造のわずかな変化を初めて直接的に観測し、菱形状の秩序が決定的になった。

概要

 物質の状態は、さまざまに変化すること(例えば、水から氷への変化)が知られていますが、物理学においては、このような状態の変化は「相転移」とよばれており、相転移において対称性が変化することが知られています。対称性とは、ずらしたり回転したりした時に見え方がどう変わるかによって決まるもので、例えば正方形は90度回転させても同じように見えますが、菱形では180度回転させないと同じに見えないことから、これらは回転対称性が異なるということになります。したがって、物質が示す状態そのものの理解は、相転移によってどのような対称性が変化したかを明らかにすることが最も重要です。

 電子同士の相互作用が強い「強相関電子系」物質として知られているURu2Si2では、17.5ケルビン(約マイナス256度)という低温で相転移を起こすことが1985年にオランダ、ドイツ、アメリカの三つの研究グループによりほぼ独立に発見されましたが、URu2Si2は新しい電子状態である「隠れた秩序」を示し、物質物理学の30年来の謎でした。2011年に研究グループが間接的な証拠により、菱形状の秩序であることを類推しましたが、これまでの結晶構造解析では正方形状であると報告されてきており、本研究で菱形状の結晶構造が直接観測されたことは、「隠れた秩序」がどのような空間的な対称性を持った電子状態であるかを示す決定打です。

 長年の謎であった「隠れた秩序」が、単純には予測できなかった電子状態を持つことが示されたことにより、物質中の電子がとり得る新しい状態の理解へとつながることが期待されます。

図:X線回折ピークの温度変化

青線は従来の純良でない試料。丸印は今回の超純良試料の結果。隠れた秩序相転移温度より高温(黒丸)では単一のピークであるのに対し、低温では二つのピークに分裂する様子が観測された。

詳しい研究内容について

直接観測された物質物理学の謎「隠れた秩序」

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/ncomms5188

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/188534

S. Tonegawa, S. Kasahara, T. Fukuda, K. Sugimoto, N. Yasuda, Y. Tsuruhara, D.Watanabe, Y. Mizukami, Y. Haga, T.D. Matsuda, E. Yamamoto, Y. Onuki, H. Ikeda, Y. Matsuda & T. Shibauchi
"Direct observation of lattice symmetry breaking at the hidden-order transition in URu2Si2 "
Nature Communications 5, Article number: 4188 Published 19 June 2014

掲載情報

  • 日刊工業新聞(6月20日 27面)に掲載されました。

直接観測された物質物理学の謎「隠れた秩序」
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