成熟した脊髄内での神経細胞新生に成功 -神経組織再生の高効率化に期待-

ターゲット
公開日

2014年5月16日

武井義則 薬学研究科特定助教らの研究グループは、脊髄での神経細胞産生を亢進して脊髄損傷による下肢の麻痺を大幅に改善することに成功しました。成熟した脊髄では神経細胞産生は厳密に阻害されており、治療には細胞移植が必要と考えられていました。今回の結果は、内在神経幹細胞の神経細胞産生能力を活性化するだけでも損傷を治療できる可能性を示しました。

本研究成果は、2014年5月15日10時(英国時間)に英国科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」誌に掲載されました。

研究者からのコメント

武井特定助教

脊髄は背骨の中の神経組織で、脳からの信号を体の各部位へ送り、また、体からの情報を脳へ送る働きをしています。脊髄を損傷すると損傷部位以下との情報のやり取りが出来なくなり、麻痺が生じます。脊髄損傷は、背骨への強い圧迫、外傷などによって生じます。交通事故や高所からの転落、若年期ではスポーツ外傷、老年期では転倒がその原因となりえます。つまり、誰もが脊髄損傷を患う可能性があります。

脊髄は脳とともに中枢神経組織に分類される組織で、自己再生能力が非常に弱いため、脊髄損傷によって引き起こされた麻痺は自然治癒することはありません。現在は、細胞移植による治療法の開発が進められています。

今回の報告は、脊髄組織の中にある内在の神経幹細胞から神経細胞を産生でき、移植を行わなくても簡単な脊髄損傷モデルを治療できることを示しました。これから、どの程度の規模の脊髄損傷まで内在幹細胞の活性化で治療できるかを検討する必要がありますが、軽度の脊髄損傷であれば、細胞移植を行わずに内在幹細胞の活性化だけで治療できる可能性が期待されます。

概要

神経幹細胞は神経組織を形作る神経細胞とグリア細胞を産生する細胞です。成熟した脊髄の神経幹細胞は、損傷部位に集まりグリア細胞を産生しますが、神経細胞を産生しないので損傷された神経回路が自然治癒することはありません。この神経細胞産生を阻害しているメカニズムは解明されていませんでした。

本研究グループは、神経組織再生を阻害するタンパク質NgRの細胞外部分をリン酸化すると、その活性化を阻害できることを以前に報告しましたが、今回の研究成果では、NgRが神経幹細胞に発現しており、その神経細胞産生能力を抑制していることを見い出しました。ラット脊髄損傷モデルで脊髄のNgRを抑制したところ、損傷部位近くで神経細胞が新生され、下肢の麻痺が大幅に改善されました。成熟した脊髄での神経細胞産生能力を亢進できること、亢進された内在神経細胞産生能力は損傷を治癒できることが示されました。

詳しい研究内容について

成熟した脊髄内での神経細胞新生に成功 -神経組織再生の高効率化に期待-

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/srep04972

Kenji Suehiro, Yuka Nakamura, Shuai Xu, Youichi Uda, Takafumi Matsumura, Yoshiaki Yamaguchi, Hitoshi Okamura, Toshihide Yamashita & Yoshinori Takei
"Ecto-domain phosphorylation promotes functional recovery from spinal cord injury"
Scientific Reports 4, Article number: 4972 Published 15 May 2014

掲載情報

  • 朝日新聞(5月22日 22面)、京都新聞(5月16日 30面)、産経新聞(5月16日 28面)、中日新聞(5月16日 3面)、日刊工業新聞(5月16日 21面)、日本経済新聞(5月16日 42面)、毎日新聞(5月16日 27面)および読売新聞(5月16日 1面・33面)に掲載されました。