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世界初のプロジェクションマッピングを応用したリアルタイムナビゲーションシステムの手術臨床応用


2015年10月20日

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 医学部附属病院は、「世界初のプロジェクションマッピングを応用したリアルタイムナビゲーションシステム」を用いて、臓器の変形、移動にリアルタイムで追随して切離線等を臓器に直接投影する手術ナビゲーターの臨床応用を目指して研究開発を行っています。

 同病院の肝胆膵・移植外科では、難治とされている肝胆膵がんに対して治癒を目指して高度な外科手術を数多く行ってきました。特に肝臓手術は、年間200例以上行っています。しかし、肝切除にはリスクを伴うことが知られています。事実、全国の手術のデータベースであるNational Clinical Databaseによれば、肝切除術の術後30日死亡率は1.9%で90日以内の手術関連死亡率は3.8%と報告されています(日本消化器外科学会雑誌 2013;46:952-963)。

 肝切除の際、外科医は、肝臓の切除する領域への流入血管を確保、遮断し、肝表面の色調の違いにより切離線を設定し、肝実質を切離していきます。安全な肝切除には、出血のコントロールと肝機能の温存が必要ですが、肝実質内部には切離をすすめていく目印がないのが現状です。

 高齢者や肝機能の低下した患者さんでの肝切除には、不要な出血を予防し、残すべき肝機能を温存することにより、安全で正確な肝切除を追求することが必要です。その目的に対して、肝切除の術前3Dシミュレーションや近赤外光で蛍光を発する色素インドシアニングリーン(ICG)を用いた蛍光ナビゲーション手術の開発が繰り広げられています。

 術前3Dシミュレーションは、術前のCT画像のデータをもとにモニター上や時には3Dプリンターを用いた模型を作成して肝臓内部の情報を術前に共有できるものですが、術中の臓器の変形や移動には追随できないので真のナビゲーションとは言えません。ICGを用いた蛍光ナビゲーション手術は、乳がんの手術のセンチネルリンパ節の同定に一般的に用いられるようになり、さらに肝臓外科領域にも臨床応用されようとしています。しかし外科医は、赤外線カメラで撮影した映像をモニター上で観察し、術野との間で視線移動しなければなりません。また無影灯からの赤外線と蛍光発光の波長が重なりますので、観察時は無影灯を消して暗い術野の中での手術となるため、安全で正確なナビゲーションシステムとしては道半ばの技術です。

 このたび、文部科学省 平成26年度「橋渡し研究加速ネットワークプログラム シーズA」の活動の中で、京都大学とパナソニック株式会社AVCネットワークス社との共同開発で「可視光投影装置」Medical Imaging Projection System(MIPS)を開発しました。

 Medical Imaging Projection System(MIPS)は、これまでエンターテインメントとして用いられてきたプロジェクションマッピング技術を応用して、カメラでICG画像を撮影し、その画像を患者さんの臓器に直接投影します。カメラとプロジェクターは、光学系の軸を誤差無く合わせているので、ICG発光位置にずれなく投影できます。つまり、臓器が動いたり、変形したりしても、リアルタイムでの追従が可能です。さらに使用しているプロジェクターは近赤外線を出さないので、ICG撮影に影響することはありません。

 ちなみに、本研究成果として、京都大学とパナソニック株式会社AVCネットワークス社とで特許の共同出願を完了しています。

 同病院では、「京都大学大学院医学研究科・医学部及び医学部附属病院医の倫理委員会」の承認のもと、2014年9月より臨床試験を行ってきました。

 肝切除において

  1. 実物に投影するので、視線移動が不要
  2. 明るい術野での手術が可能となり、今までの無影灯のon/offも不要
  3. ICG発光をリアルタイムで肝切離面に投影可能なので、真のリアルタイムナビゲーションが可能
  4. ICGが肝腫瘍に取り込まれる性質があり、術前画像検査や術中に認識できない微小な腫瘍を検出

などの効果が期待されます。

 本開発プロジェクトでは、世界初の手術用プロジェクションマッピング装置を開発することを目標としています。肝切除のみならず、さまざまな外科手術に応用可能と思われます。明るい術野で、臓器に投影されたICG発光を直視しながら切り進むリアルタイムナビゲーションを実現することで、外科医がストレスを感じることなく、患者さんに安全で正確で短時間の手術を提供することを目指しています。

MIPSの応用

 MIPSでは、次のような疾患、外科手術への応用が期待されています。

肝腫瘍に対する肝切除、肝移植(肝胆膵・移植外科)

 原発性肝癌において、最も治癒が期待できる治療は外科手術です。しかしながら、肝炎や肝硬変を伴っていることが多く、大きな肝切除は術後肝不全をもたらします。腫瘍を含んだ正確な肝切除が術後の肝機能の維持にも必要です。MIPSを用いての正確な手術が可能となります。

 転移性肝癌もしばしば肝切除の適応になります。そのなかでも大腸癌肝転移は、切除可能であれば治癒が期待できます。最近は抗がん剤の治療を行って、切除不能が切除可能となり、肝切除を行うこともしばしばです。その際、抗がん剤で腫瘍が縮小して肝腫瘍が同定困難となることがあります。ICGを用いて肉眼的にも術中超音波検査でも指摘できなかった腫瘍を切除することが期待できます。

 また肝切除後の胆汁漏の検出、生体部分肝移植での応用にもMIPSの応用が期待されています。

乳癌に対するセンチネルリンパ節生検(乳腺外科)

 乳癌では、転移しやすいリンパ節を同定し、そのセンチネルリンパ節の生検により、不必要なリンパ節郭清を省略することが一般的におこなわれています。これまで、センチネルリンパ節の生検には、アイソトープ法および蛍光色素法によるセンチネルリンパ節検索が行われてきました。MIPSを用いることにより、被爆なしで、生検の正確性がより向上することが期待されています。

肺腫瘍に対する肺切除、肺移植(呼吸器外科)

 肺腫瘍に対する肺の部分切除においては、肝切除と同様に正確な肺切除を行う指標としてMIPSは期待されています。さらに、肺移植術において、グラフト肺の移植後の血流の状態を観察するためにMIPSを応用する予定です。肺移植後の合併症の一つとして、吻合された肺動脈や肺静脈の屈曲や狭窄があります。また、脳死マージナルドナーや生体肺移植の反転移植や自己肺温存移植などにおける、移植肺や自己肺における血流の分布を観察することにより、移植成績の改善が期待されています。

今後の診療体制について

 同病院では、各診療科の医師、看護師、臨床工学技士、診療放射線技師で構成される医療体制の強化により、各診療科に関わるような悪性腫瘍疾患などの治療をチームで担当し、より安全な治療を患者さんに提供できる体制が確立しています。今回のMIPSでも、ひとつひとつの手術で、さまざまな医療業種のプロフェッショナルがより良い医療を目指し、協力して臨床研究を進めていきます。

 

開発したシステムの概要


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