導電性を持つ酵素の触媒メカニズムを解明―テーラーメイドな第三世代型バイオセンサの開発に向けて―

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 府川江央留 農学研究科修士課程学生、鈴木洋平 同博士課程学生、足立大宜 同特定研究員、宋和慶盛 同助教、北隅優希 同准教授、白井理 同教授、宮田知子 大阪大学特任准教授、牧野文信 同招へい准教授、難波啓一 同特任教授、田中秀明 同准教授(研究当時)らの共同研究グループは、Gluconobacter japonicusという酢酸菌由来のフルクトース脱水素酵素(FDH)について、触媒メカニズムの詳細を明らかにしました。

 FDHは酢酸菌の呼吸鎖電子伝達系を構成する膜結合型タンパク質で、電極を基質として認識することで「直接電子移動(DET)型酵素電極反応」という非常にユニークな反応を実現できます。本反応は生体・環境への適合性が高く、生体物質の検出に適した理想的なバイオセンサ(第三世代型バイオセンサ)としての応用展開が期待されています。また、FDHをモデル酵素としたテーラーメイドなセンサ開発が可能となれば、第三世代型バイオセンサの課題である酵素の稀少性を解消することもできます。

 本研究グループは、本酵素の触媒メカニズムを解明するために、ドッキングシミュレーションや相同性検索による計算科学を活用した変異体を作製しました。その特性の電気化学的評価やクライオ電子顕微鏡観察による構造解析を実施することで、FDHの触媒メカニズムの解明に成功しました。さらに、基質認識機能を持つ重要なアミノ酸残基を異なるものに置換すると、タガトースという別の糖に対する反応性が向上することも発見しました。また、実際の構造と予測構造の間でシュミレーション結果に差異が生じることも突き止めました。以上の成果により、テーラーメイドな第三世代型バイオセンサの開発をする上で、学術的かつ社会的な波及効果が期待されます。

 本研究成果は、2024年4月14日に、国際学術誌「Electrochimica Acta」にオンライン掲載されました。

文章を入れてください
FDHをモデル酵素としたテーラーメイドな第三世代型バイオセンサ
研究者のコメント
「バイオ、電気化学、計算科学という一見無関係な学問を組み合わせることで、大きなブレイクスルーに繋がると感じています。今後も、大きな可能性を秘めた酸化還元酵素の研究に取り組み、グリーンケミストリーや次世代ヘルスケアなどの領域に貢献していきます。」(府川江央留)

「卓越した活性を持つFDHをモデル酵素としたセンサ開発は、これまでのボトルネックを一気に解消する可能性を秘めています。今回の成果により、合理的で戦略的な酵素創出が期待できます。今後、自然が創り出した高度な触媒機能を利活用することで、人類と地球を豊かにする革新的な技術を実現し、研究成果の社会実装に取り組みます。」(宋和慶盛)