量子カオスとスクランブリングの非同一性の発見―複雑な量子多体ダイナミクスの量子情報的理解―

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 中田芳史 基礎物理学研究所特定准教授、手塚真樹 理学研究科助教は、様々な量子多体系のダイナミクスによって量子情報がどのように符号化されるかを詳細に解析し、量子カオスが引き起こす量子誤り訂正の性質を明らかにしました。複雑に相互作用する量子多体系において創発する物理現象の理解は現代物理学の最先端の研究テーマで、近年、量子情報の手法を用いた研究が精力的に推し進められています。その中で、スクランブリングと呼ばれる複雑な量子多体系に特有の時間発展ダイナミクスが量子誤り訂正という量子情報技術に関連する可能性が指摘され、スクランブリングが引き起こす情報と物理の共創現象が大きな注目を集めています。本研究では、スクランブリングを操作論的に特徴づけるHayden(ヘイデン)-Preskill(プレスキル)の思考実験を様々な量子多体系で数値的に検証し、量子カオスのダイナミクスが必ずしもスクランブリングではないこと、および、スクランブリングで特徴づけられる量子系のクロスオーバーを発見しました。本研究は、複雑な量子多体系における非平衡ダイナミクスを量子情報の観点から特徴づけ、スクランブリングの物理を通じて、量子カオスやブラックホール等の複雑な量子系を普遍的に理解する突破口になると期待されます。

 本研究成果は、2024年4月25日に、国際学術誌「Physical Review Research (Letter)」にオンライン掲載されました。

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量子多体系におけるHayden-Preskillの思考実験の概念図:多くの粒子から構成される量子多体系の一部部分系に量子情報を書き込み、十分長い時間発展後に、他の部分系からその量子情報の復元を試みる。単純な系ではうまく復元できないが、複雑な系であれば高精度で復元できる。
研究者のコメント

「ここ数年、量子多体系の複雑なダイナミクスと量子情報との関係が盛り上がりを見せつつあります。本研究での誤り訂正以外にも、量子系のベンチマーキングに用いられる等、様々な応用が模索されています。その中心にあるのが、カオスという概念。カオスと聞くと一定時間後に全てがごちゃ混ぜになる印象を持ちますが、近年、その複雑性を制御できればとても役立つことが分かってきたのです。複雑さは力なり。今後の研究発展にご期待ください。」(中田芳史)

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