農地土壌の微生物叢から作物病害リスクを診断する―日本列島全域の網羅的DNA分析―

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 藤田博昭 生命科学研究科助教、東樹宏和 同教授、吉田重信 農業・食品産業技術総合研究機構グループ長、鈴木健大 理化学研究所開発研究員で構成される研究グループは、日本列島全域から収集された2,000以上の農地土壌サンプルを「DNAメタバーコーディング」という手法で分析し、細菌(バクテリア)・アーキア(古細菌)・真菌(カビ・キノコ類)の多様性を網羅的に解明しました。その結果、土壌に生息する微生物種の組成によって、その農地で栽培されている作物に病害が発生するリスクが変化することを統計的に示しました。

 また、今回のDNA分析で検出された26,868種/系統の細菌、632種/系統のアーキア、4,889種/系統の真菌の中から、病害発生リスクの指標生物として利用できるものを統計学的にスクリーニングしました。さらに、微生物種同士の関係性をネットワークとして分析したところ、共存しやすい種で構成されるいくつかのグループに分類されることを見出しました。

 これらの成果は、土壌中の膨大な生物多様性を迅速かつ網羅的にDNA分析する技術を基にして、農地土壌の健康度を診断できることを示しています。土壌中の微生物叢に関する情報を経時的にモニタリングする技術が普及することによって、農地生態系を最適な状態に設計・管理し、農薬や肥料の使用を最小限に抑えた持続可能な農業が拡大していくと期待されます。

 本研究成果は、2024年4月3日に、国際学術誌「mSphere」にオンライン掲載されました。

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調査地と微生物叢解析の結果。各土壌サンプルの微生物叢の構造を原核生物叢(細菌・アーキア)と真菌叢に分けて表示。点の色は、調査地点において栽培されていた作物種を示す。
研究者のコメント

「土の中では、無数の生物種たちが織りなすシステムが拡がっています。多様な土壌微生物たちは、食料生産の安定化に向けた人類の取り組みにおいて、欠かすことのできない資源です。今後も複雑な微生物叢の構造に関する情報を蓄積していき、生物がもたらす機能を生態系レベルで最大化する科学研究の領域を開拓していきたいと思います。」

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