微生物生態系の崩壊は予測できる―医療・工業・農業における微生物叢制御の基盤情報学―

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 藤田博昭 生態学研究センター博士課程学生と東樹宏和 同准教授らの研究グループは、多様な微生物種で構成される生態系の構造が劇的に変化する現象を実験室内で再現するとともに、そうした「崩壊」現象を理論に基づいて事前に予知できることを世界に先駆けて実証しました。

 近年、腸内の微生物叢がヒトの健康と密接に関わっていることが明らかになってきています。また、環境工学や持続可能な食糧生産の面で、微生物叢の機能が急速に注目を集めています。その一方で、多種の微生物で構成されるシステムは、極めて複雑な動態を示し、安定的に管理するための基礎技術の構築が課題となってきました。

 本研究では、微生物学やゲノム学を元にして得られる微生物叢の動態に関する膨大なデータを、理論生態学と統計物理学・非線形力学を融合したアプローチで分析し、微生物叢が崩壊する危険性を事前に察知可能であることを実証しました。本成果は、多種の微生物が存在するシステムであれば対象を問わず応用することができ、ヒト腸内細菌叢だけでなく、環境・養殖分野における浄化槽管理、環境保全型農業における土壌管理、自然生態系の再生を通じた生物多様性保全、といった分野での技術実装が期待されます。

 本研究成果は、2023年3月29日に、国際学術誌「Microbiome」にオンライン掲載されました。

文章を入れてください
多種の生物で構成されるシステムの時系列動態を俯瞰する基礎科学は、ヒト腸内細菌叢や植物共生微生物叢の制御等、幅広い分野に応用が可能。
研究者のコメント

「本研究では、これまでにない規模の微生物叢動態に関するデータを自分たちで取得するとともに、物理学や数学の専門家との息の長い議論を通じて、『生物群集の未来を予測できるか?』という問いに迫りました。ゲノム学・微生物学・理論生態学・統計物理学・非線形力学にまたがるプロジェクトは前例がなく、多くの困難がありましたが、粘り強く取り組んだからこそ、本質的な科学的テーマに答える成果につながったと感じています。」

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1186/s40168-023-01474-5

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/281532

【書誌情報】
Hiroaki Fujita, Masayuki Ushio, Kenta Suzuki, Masato S. Abe, Masato Yamamichi, Koji Iwayama, Alberto Canarini, Ibuki Hayashi, Keitaro Fukushima, Shinji Fukuda, E. Toby Kiers, Hirokazu Toju (2023). Alternative stable states, nonlinear behavior, and predictability of microbiome dynamics. Microbiome, 11:63.