iPS創薬に向けた世界初の治験を開始(2017年8月1日)

公開日

※内容に一部修正を加えました。(2017年8月2日)

戸口田淳也 iPS細胞研究所(CiRA=サイラ)教授(医学部附属病院流動プロジェクトプロジェクトリーダー)を中心とするグループが、進行性骨化性線維異形成症(FOP)という希少難病に対して、iPS細胞を活用した創薬研究としては世界で初めての医師主導治験を、医学部附属病院において開始することになりました。

人工的に作製した多能性幹細胞であるヒトiPS細胞の医療への応用として、細胞移植による再生医療と並んで、病態の解明から創薬への応用が進められています。特に特定の患者から樹立できるという利点を生かして、遺伝性難病の患者からiPS細胞を樹立して、病気を培養皿の中で再現して治療薬を探すという試みが、数多くの疾患において進められています。

FOPは、200万人に1人という極めて希な疾患で、国内の患者は約80名と推定されています。幼少期より、まず背部の骨格筋や腱のような本来骨が存在しない部位に骨組織が出現(異所性骨化)し、徐々に四肢に広がり、著しい運動機能障害をきたす疾患です。2006年にこの疾患の原因が骨形成因子(BMP)の受容であるACVR1のアミノ酸置換変異であることが判明しましたが、変異受容体がどのようにして骨化のシグナルを伝えるのかは未解決のままで、従って有効な治療法はない状態が続いていました。

本研究グループは、大日本住友製薬株式会社との共同研究によって、まずFOPの患者からiPS細胞を樹立して、培養皿の中で病気を再現し、異所性骨化発生の引き金となる物質としてアクチビンAを同定することに成功しました。そしてアクチビンAがどのようにして異所性骨化を誘導するのかを解析することで、mTORというシグナル伝達因子が重要な役割を果たしていることを見出し、mTORの働きを阻害する薬剤のうち、シロリムス(別名ラパマイシン)という、既に他の疾患の治療薬として国内でも使用されている薬剤が、異所性骨化を抑制することを確認し報告しました。

そしてこれらの結果をもとに、FOPに対するシロリムスを用いた医師主導治験を計画し、治験薬提供者のノーベルファーマ株式会社及び医学部附属病院臨床研究総合センターの支援を受けて多施設共同医師主導治験として、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の助言の基に最終案を作成し、医学部附属病院の医薬品等臨床研究審査委員会(IRB)の承認を得て、PMDAに治験計画届を提出し受理されました。

記者からの質問に答える戸口田教授

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