京大の「実は!」Vol.51 「研究成果がギターに!?木材工学研究の実は!」

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 みなさんは普段、どんなイスに座っていますか?

 「何を突然・・・」と思うかもしれませんが、先日木のイスに座ったところ、とてもほっこりしたんです。いつも座っているイス(木製ではない)にはちょっとしたクッションがついていて、それより固くて座り心地が良いとは言えないイスなのに、何でこんなあたたかい気持ちになるんだろう・・・。木に対してそんな印象を持ったこと、ありませんか?

 木の持つ不思議なチカラ。私たちが木に感じる心地良さ。

 それをいろいろな側面から研究している研究室があります。今回はそこで、木材工学研究の面白さを教えてもらいました!

今回ご紹介する研究室はコチラ!

農学研究科 森林科学専攻 生物材料工学講座 生物材料設計学研究室

 この研究室では、木材の利用に関する研究を行っています。デザイン、形状、木目などの見た目が人に与える影響(なぜそれを良く感じるか)を、脳波や画像解析により調べるソフト面での研究と、強度や熱処理を加えたときの変化など、木材の持つ物性を調べる物理学的研究、両方の側面があります。

早速研究室にお邪魔します。場所は北部構内の農学部総合館。

おお~!さすが木材の研究をしているだけあって、研究室の家具も木製!農学部ができた頃からある、年季の入った机。

片隅にあるギターがめちゃくちゃ気になるのですが。

 「このギター、普通のギターとは違うんです!」・・・こ、この声は!?

ギターの主、村田功二 農学研究科講師と修士課程2回生の前川遥樹さん。
現在取り組んでいる研究と、このギターについて、詳しく伺います!

Q.お二人はどんな研究をされているんですか?

村田先生:「今、【広葉樹】に着目しています!広葉樹とは何か、ご存知ですか?」

広報H:「えぇっと、昔学校で習いましたけど・・・(説明できない)」

村田先生:「木にはトゲトゲした葉の針葉樹(例:スギ、ヒノキ)と、扁平な葉の広葉樹(例:サクラ、ケヤキ、ブナ)があるのはご存知ですよね。針葉樹の方が昔から存在しているのですが、種類は広葉樹の方が多いんです。また、針葉樹の構造はいたってシンプル。広葉樹の構造はバラエティに富んでいて木によって全然違うので、そこが面白いんです。」

京大のシンボル、クスノキは広葉樹です。

前川さん:「僕は【楽器】、中でもエレキギターに注目しました。エレキギターは比較的新しい楽器なので、関連する研究がまだほとんどないんです。アコースティックギターは中の空洞で弦の振動を増幅させるので、構造が音に大きく影響してきますが、エレキギターには空洞がないので、その分使う木材で変化をつけられる・・・だからこそ面白い!と感じました。」

村田先生:「でも問題があって、楽器に使われる木材は海外の希少な樹種で、絶滅の危機に瀕しているんです。代わりに、国産広葉樹を使えないか?と考えました。今、「早生樹」といって、早期成長と多収穫が可能な木を植える取組みが進んでいて、私の研究テーマでもあります。これまで国産広葉樹は楽器用木材としては使われてこなかったんですが、安定した資源量、サステナビリティ(持続可能性)、トレーサビリティ(追跡可能性)の観点から、検討してみる必要があると思いました。」

広報H:「ということは、もしかしてこのギター、国産広葉樹で作られたギター・・・?」

村田先生:「そのとおり!私たちの研究テーマがマッチして生まれたギターなんです。」

★北海道産シラカバを用いたギターを製作!

 村田先生と前川さんは、国産広葉樹のシラカンバ(シラカバ)、ダケカンバ、センダンの音響特性を六つの観点から評価し、従来ソリッドギター(空洞を持たない一枚板構造のギター)で使われてきた希少な木材と比較しました。

 その結果、シラカンバとダケカンバが、ハードメイプルという楽器用木材に近い性質を持つことが判明!さらに熱処理を加えることで音が改善され、これまで紙・パルプ用チップとして利用されてきたカンバ材が、楽器用木材としても活用できる可能性を見いだしました。

 ▼詳しい研究成果についてはコチラ!
 http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2017/170406_1.html

Q.研究で苦労することはありますか?

前川さん:「楽器って、評価が難しいんです。「良い音」=「聴き手が気持ち良く聴ける音」なんですが、それは人によって違いますし、誰と聴くのか、どこで聴くのかなどにも左右されます。物性だけで善し悪しを決められないのが難しいところです。」

村田先生:「だから私たちは、このシラカバ製ギターが良い楽器だとは言ってないんです。それは聴き手が決めるコト。あくまで、音響特性がハードメイプルに似ているかどうかということにしか触れていません。あと、予算が苦しい・・・(笑)。でも幸いなことに、ギター製作に興味を持ってくださる方が多く、その方々に随分と助けられました。見学に行った工房の方がギターを製作してくださり、プロによる試奏会も実現したんですよ。」

楽器があまりにも難しいテーマなので、前川さんの学部卒業課題はこのジョイント部分に関連するテーマに絞りました。ピンポイント!「でもここも面白いパーツなんですよ~。」(by村田先生)

工房で加工途中のボディ。ちなみに設計はミリ単位で前川さんが行ったそう!愛情込めて作られたギターです。

Q.研究のマストアイテム、教えてください!

 前川さん:「この研究では木材の振動性を調べるため、「三種の神器」を使ってます(笑)。」

何コレちっちゃい!「「加速度ピックアップ」といって、木材に固定し内部のセンサーで振動を検出します。」(by前川さん)

振動を起こすために使うのが「インパクトハンマー」。加速度ピックアップの中にあるのと同じセンサーが入っています。どういう振動を与えるかも大事なので、あわせて計測。

収集したデータを保存する「収録モジュール」。パソコンにつないで使います。

Q.実験している様子を見てみたいんですが・・・

 という広報Hのお願いにも快く応じてくださり、実験室を見せてもらうことに!

前川さんの実験スペースはこちら!工房みたいですね~。

このように台に木材を置き、加速度ピックアップを固定。

インパクトハンマーで、下から1回木材を叩きます。これ、簡単そうに見えてかなりコツがいるんです!

前川さん:「自分では1回しか叩いていないつもりでも、2、3回は振動が加わっているんですよね・・・。練習を重ねてだんだんうまく叩けるようになりました。」

広報H:「実験には、人間の熟練した技も必要なんですね・・・。」

この板1枚で、ギターのボディを作れます!三井物産株式会社の社有林では持続可能な森林経営をしており、そこからとれた家具用材で余ったものを提供してもらっているそう。

よーく見るとつぎはぎの跡が。シラカンバはあまり大きくならないので、このように複数の板を接合して使うことがよくあるそう。北海道立総合研究機構林産試験場ではカンバ材利用の研究をしており、そこで接合接着してもらったそうです。

このオーブンのような機械で、木材に熱処理を加えます。

★実験室にはお宝(?)がザクザク!

背よりも高い、巨大な木板を発見。これは元々教授の部屋にあったもので、吉野杉で作られているそう。一体何に使うのかは分かりませんが、とにかく譲れない宝物。

前川さんの懐かしき卒業課題のなごりが!ネジで接合した部分によって振動がどう変わるか実験したもの。

ザクザク出てきたのは・・・木材チップ!「ギターで使う木材がトロだったら、こっちはアラ。」(by村田先生)アラもおいしくいただき(=活用し)ます。

Q.今後やってみたいことは??

前川さん:「今回使ったシラカンバはハードメイプルに似ていて、ヘビーメタル向けの重い音が出ます。次はマホガニーに近いセンダンなど別の木を使って、やわらかい音を出すギターを作れたら良いですね。」

「よいしょっと。」ここで村田先生が突然持って来たのは・・・シカの角!?

祇園祭のお囃子(おはやし)で演奏される楽器には、シカの角が使われているんだそう。結構固いです!

「弦を支えるナットという部分にこれを使えないかと考えてます。」(by村田先生)部品一つ変えるだけで、音が大きく変わりそうですね!

村田先生:「これをキッカケに、国産広葉樹、早生樹の利用を促進できたら良いなと思います。使える木はたくさんあるのに伐採する人手が足りない、土地はあるのに使える木がないなどの問題があり、今、「森の再生」が重要な課題となっています。過疎地域に産業ができれば、人が集まってくる。農林業、木材の活用をとおして地域に利益が還元される・・・そんな地域創生の仕組み作りに貢献することが、最終的な目標です。」

「自分で設計して言うのも何ですけど・・・やっぱり良い音ですね。」と照れながら語る前川さんと、
一緒に楽しんで研究されている村田先生の様子が、印象的でした。

 面白い研究の裏には、こんな思いがあったんですね・・・。木材の利活用が、地域社会の課題を解決することにつながると知りました。

 木製のイスを見たら、「この木はどこから来たんだろう・・・?」と思いを馳せてみるのも、良いかもしれませんね。

 取材にご協力いただいた村田先生、前川さん、研究室のみなさん、ありがとうございました!

突然ですが・・・

 2012年11月から始まり、約4年半続いてきた「実は!」、今号が最終号となりました。

 学内でもあまり知られていない京大のナゾ、魅力を毎月掘り起こし、広報担当も「へぇ~!」と驚きと感動の連続。みなさんと同じ目線で京大を見つめ、学び、愛してきました。

 しかし、これで終わりではありません!スペシャルサイト「ザッツ・京大」にて、引き続き知られざる京大の魅力をお伝えしていきます。マメに更新予定ですので、ぜひ遊びに来てください!

 長らく「実は!」をご愛読いただいたみなさん、ありがとうございました。そしてこれからも、どうぞよろしくお願いします。

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