本庶副院長・特別教授および滋子夫人の会見コメント(2018年10月2日)

本庶副院長・特別教授からのコメント

 みなさんおはようございます。夜遅くから朝早くまで大変ご苦労さまです。私は昨日すでにインタビューをして、昨日急にこういう事態になったので、そのことに関していくつかのことを申し上げましたが、その後ちょっと落ち着いていろいろ考えてみますと、私は本当に幸運な人生をこれまで歩いてきたと言わざるを得ません。

 まず第一に、私は両親から非常に良い遺伝子をもらったということ、健康であるということが何よりもありますし、性格的に物事を突き詰めて考える、これは私の本庶家というものが代々お寺なんですけども、お寺から分家して、この本庶家というのはそんなにたくさんは無いんですが、だいたいみんな、そういう人が多いというふうに聞いております。

 また、私の研究のタイミング、これは日本の高度成長期の経済発展と非常に合っておりました。1970年に外国へ、大学院を修了後に行きまして、当時日本の助手の給与がたぶん月に4万円から5万円、アメリカに行ってポスドクをして、帰ってきた時の給与が(年間)2万2~3000ドルですから、経済格差が非常に大きかった。ところが日本へ帰ってくる時は、そういう意味で大変逡巡がありまして、米国の私の指導者で先生であったフィリップ・リーダーは、「お前は残るべきだ。アメリカから日本へ帰ったんでは潰れるだろう」と言われました。しかし私は、家族が中途半端な状態で、子供も二人いましたので、きちっとした日本の教育を受けさせたいということで帰る決意をしたんですが、それと同時に、一度日本で本当にまともな研究ができるかどうかチャレンジしてみたい、ということで帰ってきました。

 非常に幸運なことに、もちろん最初は研究費などはほとんど取れなくて、東京大学の助手として帰ってきて最初にもらったのが50万円の研究費でありました。ところが幸いなことに、アメリカのボスが、帰る前にジェイン・コフィ・チャイル・メモリアル・ファンドに応募しようと、当時私は若手の研究者だったのですが、それが年間3000ドルで、日本の若い人にとっては破格の研究費用だったんです。そういうことから、続いて大阪大学に、当時の山村雄一先生から突然電話がかかってきて呼ばれて、その時から日本の科学研究費の金額も非常に大きくなって、ずっと科学研究費に支援されて研究を続けられた。そういう非常にめぐり合わせが良かった。さらに1970年代に、遺伝子組み換え技術の開発が進んで、その後はDNAシーケンスから遺伝子のノックアウトなど次々と生命科学の革命的な展開の中で、私自身の研究・好奇心を追求する道が非常によくマッチして今日まで来たということで、昨日も言いましたように、私は本当に絶望的な、もう駄目でやめようかと思ったことは一度もなかったということで、本当に幸せ、幸運であったと思っております。

 また、当然この間、多くの共同研究者、それからテクニカルスタッフ、秘書等々にサポートしていただきましたし、後で家内がなんというか知りませんけれども、あまり私は家族のことは、細かいことにはタッチせずに、典型的な亭主関白として研究に邁進してきました。そういうことをさせてくれた家族にも、感謝しております。ともかく、こういう人生を二度とやりたいと言うと、ぜいたくだと言われるくらい、自分としては充実した人生でこれまで来れたと思います。

 最近、大学の法人化という改革が起こりました。それはちょうど私がPD‐1でガン治療の原理を発表した前後です。その当時、私は特許は本来大学が出すべきであると思いまして、大学に相談したんですが、大学にはそういう能力がない、お金もないということで、どこかの製薬企業と組んで出せと言われたので、それは私にとっては、今に至るまで非常に残念なことであると思っています。先ほど申し上げましたように、この果実は大学に返して、そして次の後進を育てることに使いたいと思っております。

 そういうわけで、こういう基礎研究から応用につながるということは、決してまれではなく、しょっちゅうあるわけではありませんが、ライフサイエンスにおいてもこういうことはあるということを実証できたことで、ぜひ基礎研究にきちんとしたシステマティック、なおかつ長期的な展望でサポートして、若い人が人生をかけて良かったなと思えるような国になることが、重要ではないかと思います。

 現在は日本の国は、いわゆる自動車とかITとか、そういう産業で国を支えていますが、何といっても生命科学、人がいかに生きるかということは人間の根幹でありまして、これからの成長産業というのは、訳が分からないところで新たな変革・革命が起こるので、ライフサイエンスに投資しない国は未来がないと思います。実際に我が国のライフサイエンスの投資は、私が総合科学技術会議にいたころから大体30%、米国では半分以上です。大体世界の大きな国はライフサイエンスが次のサイエンスだということで、半分以上のサイエンスの投資をしておりますが、私の知ってる限り、日本ではその点、政策立案段階で依然として昔の「長高重大」型の発想から抜けきれていない。サイエンスは未来への投資でありまして、今儲かっているところに更にお金をつぎ込むのであれば、やはり遅れを取ると思います。

本庶副院長・特別教授ご夫人からのコメント

 私は大学で理系を選んで、研究の大変さというものがその時から知っておりましたので、結婚しまして、すぐ子供に恵まれたこともありますが、ずっとここまで主人を支える側に回ってきました。アメリカ、東京大学、大阪大学、京都大学と研究の場を何回か変えてまいりまして、そのたびに子供の学校も変わったりいたしまして、またあっという間の時間だったなと思いますが、今回ノーベル賞を主人が受賞する結果になり、大変私たちとしても嬉しく、家庭を支えたこともしょうがなかったかなという思いでおります。

 今、大きな賞をいただくにあたり、そばで主人を見ておりまして、何でも諦めない、とことん極めるということは、仕事はもちろんそうですが、家の中のちょっとしたことでもそういう態度は見ておりましたので、この結果につながったのかなというふうに思っております。

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