正常な細胞分裂に不可欠なタンパク質の機能と構造を解明

正常な細胞分裂に不可欠なタンパク質の機能と構造を解明

2012年5月31日


中山教授

 中山和久 薬学研究科教授、若槻壮市 高エネルギー加速器研究機構(KEK)教授らの共同研究グループは、細胞分裂の最終段階で、1つの親細胞が2つの娘細胞に分離する過程(細胞質分裂という)の調節の鍵となるタンパク質複合体(ARF6-MKLP1複合体)の立体構造と機能を解明しました。

 本研究成果は、5月30日付の科学雑誌「EMBO Journal(ヨーロッパ分子生物学機構雑誌)」に掲載されました。

背景

 私たちの身体を構成する細胞は、一部の例外を除いて、分裂して常に増殖することによって、個体の形成過程や適切な生命活動の維持の基盤をなします。ただし、その増殖の速度は細胞の種類ごとにおおよそ決まっており、増殖しすぎないようにする仕組みも備わっています。

 細胞分裂の際には、まず細胞の核内に存在する染色体DNAが複製されて2倍になり、複製された染色体は半分ずつに分離します(図2)。その後、細胞の赤道面がくびれて(図3)、細胞質が最終的に2つに分離すること(細胞質分裂)によって1つの親細胞から2つの娘細胞ができます(図3)。この2つの娘細胞への分離が正常に起こらなければ、多核の細胞や染色体数の異常な細胞が出現して、細胞の死滅やがん化などが起こります。

研究の内容と意義、今後の展望

 細胞質分裂の際に、分離しつつある2つの娘細胞間に形成される橋状構造の内部には、微小管の束が存在します(図4)。このレールのような役割を果たす微小管の束に沿って、細胞質分裂に必要なタンパク質を含む輸送小胞モータータンパク質によって運ばれ、微小管の束の中央部分(フレミングボディー)に集積します。フレミングボディーには、モータータンパク質の一種であるMKLP1が待ち受けています(図4)。中山教授らの研究グループは、これまで研究してきた低分子量Gタンパク質ARF6が、MKLP1と結合することによってフレミングボディーに局在することを発見しました。そして若槻教授らの研究グループは、KEKのフォトンファクトリーのBL-5AおよびAR-NW12Aを用いたX線結晶構造解析によって、ARF6-MKLP1複合体の立体構造を決定しました(図5)。解明した構造から予想されるのは、このARF6-MKLP1複合体が橋状構造内を走る微小管の束とくびれ部分の細胞膜の間を架橋する(図6)とともに、さまざまなタンパク質や輸送小胞の局所的な集積のための足場として機能する(図7、8)ことでした。

 さらに、RNA干渉法という方法によって、ARF6やMKLP1が細胞内で発現しないようにすると、2個以上(多い場合には4個や8個)の核を有する細胞の割合が増えることから、このARF6-MKLP1複合体の機能が、正しい細胞質分裂の進行にとって不可欠であることを確認しました。

 今後は、ARF6-MKLP1複合体を足場にして集積する他のタンパク質の構造や機能を明らかにすることによって、細胞質分裂の調節の分子基盤の全貌の解明を目指します。

 


図1.分裂前の親細胞

図2.染色体の分離

図3.細胞の赤道面のくびれ

図4.橋状構造の中央部分の拡大図

図5.ARF6-MKLP1複合体の構造

図6.ARF6-MKLP1複合体による微小管と細胞膜の架橋

図7.ARF6-MKLP1複合体が足場となるタンパク質や小胞の集積

図8.分裂直前の橋状構造への輸送小胞の集積

図9.2つの娘細胞への分離(細胞質分裂の完了)

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/emboj.2012.89

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/156131

Structural basis for Arf6-MKLP1 complex formation on the Flemming body responsible for cytokinesis

Hisayoshi Makyio, Minako Ohgi, Tomomi Takei, Senye Takahashi, Hiroyuki Takatsu, Yohei Katoh, Ayako Hanai, Tomoko Ueda, Yasunori Kanaho, Yong Xie, Hye-Won Shin, Hironari Kamikubo, Mikio Kataoka, Masato Kawasaki, Ryuichi Kato, Soichi Wakatsuki and Kazuhisa Nakayama
EMBO Journal, Vol. 31, No. 11, pp. 2590-2603 (May 30, 2012).
doi: 10.1038/emboj.2012.89

本研究は、ターゲットタンパク研究プログラムおよび科学研究費補助金による資金的支援を受けて実施されました。

 

  • 京都新聞(5月31日 25面)、産経新聞(6月23日 23面)および日刊工業新聞(5月31日 29面)に掲載されました。