京都大学広報誌
京都大学広報誌『紅萠』

ホーム > 紅萠 > 巻頭特集

巻頭特集

2026年秋号

巻頭特集

地球に挑むTaking on the Mysteries of Earth

天・空・海・地、多方向から発見する地球の姿

私たち人類が生まれ、暮らしてきた場所「地球」。足元にいつでもある、身近な存在にもかかわらず、その成り立ち、歴史、メカニズムの全貌はまだまだ明らかになっていない。有史以来、たくさんの科学者・哲学者が挑み続けてきた地球の不思議。天・空・海・地、さまざまな地点から地球に切り込む研究者の挑戦に迫る。

司馬江漢の銅版画「地道図」
江戸時代の絵師・司馬江漢の銅版画「地道図」。自然科学にも関心が深く、それまで信じられていた天動説ではなく、地動説を受け入れ、日本に啓蒙した。 『司馬江漢銅版画 [地道図]』(京都大学附属図書館所蔵)部分
宇宙

「ありふれた」地球に宿る生命は「奇跡」なのか。
惑星誕生の原点に挑む

佐々木貴教 助教

佐々木 貴教

理学研究科 助教

太陽系の地球型惑星の形成に関するシミュレーション結果
太陽系の地球型惑星の形成に関するシミュレーション結果。黒い丸以外は、全てシミュレーションで形成された惑星。黄色・水色・赤色の丸は、それぞれ金星・地球・火星に似た惑星が形成された場合を示している(池田, 修士論文, 2024)
微惑星集団からの惑星の形成に関するシミュレーション結果
微惑星集団からの惑星の形成に関するシミュレーション結果。青い丸は微惑星、赤い丸は形成された惑星を示し、丸の大きさが惑星の大きさに対応している。3通りの異なるパラメータでの計算結果が縦に3つ並べて示されている(Nishimura & Sasaki, in prep.)
太陽系の地球型惑星の形成に関するシミュレーション結果
太陽系の地球型惑星の形成に関するシミュレーション結果。 各丸は形成された惑星を示し、丸の大きさが惑星の大きさに対応している。時間とともに惑星が互いに衝突合体しながら大きくなっている様子が示されている。水色のコンターは惑星が獲得した水の量、赤のコンターは惑星のコアの密度欠損を表している(Maeda & Sasaki, PSJ, 2025)

かつては宇宙の中心と考えられていた地球は、恒星の周りを公転する惑星と位置づけられ、太陽系以外にも数千個の惑星が確認されています。私たち人類が500年以上前から挑みつづけ明らかにしたのは、地球の希少性ではなく、広大な宇宙のなかで地球はごくありふれた存在であるということ。

宇宙をさまよう無数の微惑星が、互いの重力で引きあい、衝突と合体を繰り返すことで、やがてひとつの惑星が形成される。惑星誕生の大まかなシナリオはわかっていますが、新たな惑星系が発見されるたびに、これまでの論理では説明がつかない矛盾が浮かび上がる。地球を惑星サンプル1と捉え、その形成過程をひも解くことから惑星誕生の原理に迫ります。

惑星サンプル1・地球の誕生をなぞる

大気に含まれる各種元素の量や割合と、岩石惑星を構成する物質を手がかりに、地球のもととなる微惑星の条件を見極め、地球が形成されるまでの再現を試みています。研究手法は、重力相互作用をもちいたシミュレーションの積み重ね。まさに天文学的な計算を行うため、スーパーコンピュータをもってしても、ひとつの解を導き出すのに半年以上かかることもあります。

肝となるのは、微惑星がどこで・どのように生まれたのかという惑星形成理論の原点に立ち返る問い。京都大学で誕生した「京都モデル」では、微惑星は原始惑星系円盤の一定領域にまんべんなく分布したとされています。しかし、この理論は太陽系の形成に対しても現在さまざまな問題に直面しており、惑星系全体の普遍的な法則を説明するには程遠い状況です。地球とほかの惑星系とを結びつける新たな可能性を追い求め、惑星形成モデルの再構築に挑んでいます。

近年では、生命生存に不可欠な水をもつ惑星が観測されはじめました。惑星サンプルが増え続ける一方で、生命のサンプルは地球上にしかありません。もし、地球外に生命の痕跡が見つかったら、惑星誕生のみならず、生命起源の根本をゆるがす一手となるかもしれません。わからないから挑む。この探求心こそが、研究を前へと進める原動力です。

ささき・たかのり

東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員(DC1, PD)、東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻特任助教および特任准教授などを経て、2014年から現職。

深海

極限環境に息づく豊かな生態系。
根底を担うは「地球を食べる微生物」

中川 聡 農学研究科 准教授

中川 聡

農学研究科 准教授

光すら届かない深海の底には、墨汁のように真っ黒な熱水が噴き出す「熱水活動域」があります。ここは最高400℃を超える高温に加え、硫化水素に満ちた過酷な環境。かつて「生物は生きられない」と考えられていました。ところが1977年、この領域に初めて潜った人類を迎えたのは、見たこともないエビやカニ、貝がひしめく豊かな生態系でした。それを支えるのは、硫黄などを栄養にして生きる微生物。こうした生物の生態と進化を手がかりに、深海の生態系の解明を試みています。

有人潜水調査船「しんかい6500」に乗り込み、海面に吊り下ろされると、いよいよ調査の開始です。直径2mの球形の船内に3人で身を縮め、約7時間の潜航へ。最初こそ狭さに不安を覚えるものの、潜り始めると意識は外に向かい、発光しながら漂うクラゲに見入って時間を忘れてしまいます。そして海底に着いてライトを点けた瞬間、目の前に広がるのはまさに地球の素顔。地上では、どんな場所にも人の痕跡が残っていますが、深海は字義どおり未踏の地。潜るたびに「別の星に来たみたいだ」と、胸が熱くなります。

潜航を終え、海上に引き上げられる有人潜水調査船「しんかい6500」
潜航を終え、海上に引き上げられる有人潜水調査船「しんかい6500」。名前のとおり、水深6,500mまで潜航可能(写真提供:海洋研究開発機構)
熱水活動域にひしめく深海生物たち
熱水活動域にひしめく深海生物たち。光も届かない極限環境に、熱帯雨林にも匹敵する豊かな生態系が広がっている(写真提供:海洋研究開発機構)

深海に眠る未知への憧憬

深海の生態系の鍵を握るのは、硫黄からエネルギーをつくり、宿主と共生する「イプシロン」という微生物。ゲノム解析を進めると、なんと胃がんを引き起こすピロリ菌や、食中毒を起こすカンピロバクターと、進化的に近い関係だとわかりました。深海の微生物が、浅瀬に住むヒトデのような無脊椎動物を経て、病原菌へと姿を変えたと考えられます。感染するとなかなか治らない厄介な性質は、共生菌の名残だと言えるでしょう。共生の仕組みを突きとめれば、病原菌だけを狙い撃つ治療法の開発も夢ではありません。

地球は「生命のゆりかご」と言われますが、熱水活動域のような極限環境でたくましく生きる生物を見ていると、むしろ生命を鍛える「修行の場」だと感じます。そんな深海には、人間の常識を心地よく打ち破る生命の営みが、いまだに手つかずのまま広がっています。だからこそ、何度でも潜りたくなるのです。

なかがわ・さとし

京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了。日本学術振興会特別研究員PD、海洋研究開発機構(JAMSTEC)研究員、北海道大学大学院水産科学研究院准教授などを経て、2014年から現職。

防災

シミュレーションで迫る、地球と気候のダイナミズム。
100年先の暮らしを守る災害予測

森 信人 防災研究所 教授

森 信人

防災研究所 教授

海洋立国の日本では、巨大台風や豪雨などの極端現象や、津波などの巨大災害が起こり、甚大な被害をもたらします。将来、津波や台風、高潮が、どこで、どんな強度・頻度で起こるのか。過去の気象データや被災記録をもとに、シミュレーションで予測し、災害に備えるヒントを探ります。

見据えるのは、100年先の未来です。防波堤などの洪水・高潮対策のインフラの耐用年数は約100年。2034年の完成をめざす大阪湾の高潮ゲートには、100年後を予測した私たちのシミュレーション結果が活かされています。

これまであまり用いられなかった海面水温の自然変動を考慮した、台風の将来変化を評価した研究の概念図

気候シミュレーションの基本は、大気や海洋などの物理法則に基づく数値モデル。100年後をより正確に予測するには、気温や海水温の変化などの気候変動に加え、その背景にある温室効果ガスの排出量なども考慮しなければなりません。46億年の地球史からすれば小さな人為的影響も、100年のスケールでは無視できません。

さらに、実践的な防災につなぐには、被害の予測・検証も必要です。人口移動の動向も射程に入れて、災害時に大きな被害の出る場所はどこか、どこが脆弱で、100年でどう変化するのかを追いかけます。ゆえに、防災研究は「人」を意識した研究。地球規模のスケールで大気や海の動きを捉えながら、目線は人と社会、暮らしに合わせています。

5,000年分の地球をシミュレーション

残る泥の跡から水位を記録する現地調査
津波や高潮の発生後は現地に赴き、残る泥の跡から水位を記録。調査で何千を超える地点のデータが集まれば、より精密なシミュレーションに応用できる

シミュレーションの精度向上に必要な過去の災害データは、災害の発生後、実際に現地に赴いて取得することもあります。ときには何千という地点で水位や被害状況を記録しますが、巨大災害の過去のデータは充分ではありません。これを補うのが、スーパーコンピュータ内の仮想地球をつかった数千年間のスケールでのシミュレーション。5,000年間分シミュレーションすれば、100年に一度の現象は約50回現れます。この結果を、実測データと比較して、ズレを調整しながら精度を向上しています。

つぎに来たる災害を予測して、「危ない」と警告できたとしても、「では、どうやって人命や建物を守るのか」となると、別の壁が立ち塞がります。でも、前向きに。科学には、地球の全貌を理解し、災害に立ち向かえる力があると私は信じています。

もり・のぶひと

岐阜大学大学院工学研究科博士後期課程修了。京都大学防災研究所准教授などを経て、2018年から現職。横浜国立大学台風科学技術センター 教授(クロスアポイントメント)も務める。

岩石

足元に広がるは到達不能の広漠たる世界。
マントルから地球誕生の謎に迫る

小木曽 哲 人間・環境学研究科 教授

小木曽 哲

人間・環境学研究科 教授

地表から地球の中心までは約6,400km。そのうち、人間が到達できたのはわずか12kmほどに過ぎません。そんな地球内部の約8割を占めるのが、岩石から構成されるマントル。地球内部を知ることはマントルを知ることといって過言ではなく、まさに地球を代表する存在です。

では人間の手が届かない場所をどのように調べるか。地球内部は深い場所ほど高圧で高温です。そこで、岩石や鉱物の欠片や粉末をカプセルに閉じ込めて、実験装置でマントルの環境を再現。鉱物の変化や元素の振る舞いを観察します。実験装置は年々進歩していて、マントルの最深部でも鉱物の結晶構造が変化することを2004年に日本の研究チームが明らかにし、謎に包まれていたマントルの底にはじめて光があてられました。

ピストンシリンダー型高温高圧発生装置
ピストンシリンダー型高温高圧発生装置。最高温度約1,800 度、最高圧力3GPaを発生させ、マントルの温度・圧力条件を再現する
高さ5ミリほどのカプセルにいれて使用する岩石の粉などの試料
岩石の粉などの試料は高さ5ミリほどのカプセルにいれて使用する。マントル深部の圧力を再現するものだとさらに小さく、わずか0.5ミリほどの大きさになる
マントルを構成するかんらん岩
マントルを構成するかんらん岩。マグマが地表に上昇するときにマントルの一部を運んできたもので、「マントル捕獲岩」という。緑色の部分がかんらん岩で、灰色の部分は玄武岩

手がかりはごくわずかな金属元素

地球内部の物質構成は大枠では明らかになっていますが、化学組成はまだまだ議論の余地があります。とくに私が注目しているのが白金族元素。地球誕生時に、金属成分は沈んで核に、岩石成分はマントルになったと考えられていますが、本来核に取り込まれるはずの白金族元素が、マントルには想定より多く存在します。地球誕生後に微惑星が運んだとされていますが、ほんとうにそうか。マントル中の白金族元素はごく微量で、どこにどれだけ存在するかはほとんどわかっていません。なぜ現在の化学組成になったかを議論するには、より正確な検証が必要なのです。

近年は〈水の起源〉が活発に議論されています。水は地球誕生時からあったのか、それとも誕生後に微惑星や彗星がもたらしたのか。〈生命の起源〉にもつながる壮大なテーマです。それと比べると、ごく微量の白金族元素を調べることはとても地味に思えるかもしれません。ですが、マントルの白金族元素の謎を解決することは、水の起源を解明することにもつながります。目の前の岩石からどこまで地球誕生の謎に迫れるか、挑戦はまだまだ道半ばです。

こぎそ・てつ

京都大学大学院理学研究科博士後期課程修了。ミネソタ大学地質学地球物理学科リサーチアソシエイト、独立行政法人海洋研究開発機構地球内部変動研究センター研究員、京都大学大学院人間・環境学研究科准教授などを経て、2016年から現職。

巻頭特集

関連リンク

関連タグ