京都大学広報誌
京都大学広報誌『紅萠』

ホーム > 紅萠 > 学生・卒業生紹介

輝け!京大スピリット

2026年秋号

輝け! 京大スピリット

ひとつの想定外も取りこぼさない。
丁寧な歩みは定説をも塗り替える

2025年度久能賞受賞
永田歌寧さん(工学研究科 博士後期課程1回生)

特定の温度以下で電気抵抗がゼロになる「超伝導」。この状態がもつ性質のうち、電流の向きによりオン・オフを切り替えられる「超伝導ダイオード効果」は、熱によるエネルギーロスのない超低消費電力回路を実現する鍵として注目を集める。従来、この効果の発現には「超伝導体そのものの構造的なゆがみ」と「磁場」の二つの条件が不可欠とされていた。その定説を覆したのが永田歌寧さん。どちらの条件も伴わずに超伝導ダイオード効果を起こす仕組みを発見した。磁場発生装置も、複雑な構造も必要とせず、シンプルな素子のままで実現できることが、省エネ回路の実用化を大きく前進させた。

実験中の永田さん 実験中の永田さん。装置に向き合う表情には、研究者としての真摯さがにじむ

この発見は、「偶然の産物」と永田さんは言う。「別の現象を探る実験をしていたところ、予期せずダイオード効果が観測されました。その背景を調べるうちに、熱電効果が鍵だとわかったんです」。温度差が電流を生み出す現象を「熱電効果」という。電流を流すと素子の中に生まれる熱の偏りが、電流の向きごとの超伝導の起こりやすさに差を生んでいた。想定外の結果を放置せず、背景学理を丹念に追いかけたことが実を結んだ。「予期していなかった現象を探ってゆくことで新たな発見ができる。それが研究のおもしろさです」。

電力問題に関心をもったきっかけは、2011年の東日本大震災。「地元の栃木県もかなり揺れて、計画停電も経験しました。電気はあたりまえに使えるものではないことを、はじめて実感しました」。京都大学に進学後、AIやスマートフォンによる消費電力が急増していることを知り、「この問題にアプローチしたい」と、使命感が芽生えた。超伝導を使った超低消費電力回路の実現目標は、その延長線上にある。

ボイストレーニングスタジオにて ボイストレーニングスタジオにて。発声の基礎から歌の表現方法まで幅広く学ぶ

実験では、数か月にわたり成果が出ないことも珍しくない。こうした停滞期を乗り越える永田さんの秘策は、ビデオゲームとカラオケ。100人以上が所属する大規模なゲームサークルに参加し、歌はボイストレーニングに通うほどの本気具合。「ゲームをするときや歌うときは、研究とは違う脳を使っている気がします」。永田さん自身もまた、ダイオードさながらオン・オフを見事に切り替える。

工学分野では、いまなお女子学生や女性教員の数が少ない。ロールモデルとなる先輩も少なく、将来像を描く難しさを実感。だからこそ、「大学教員になって、若い世代のハードルを下げてあげたい」とまっすぐ前を見据える。自ら切り拓くその道に、一切の抵抗はない。

*京都大学久能賞 京都大学卒業生の久能和子氏・祐子氏の母である久能悠子氏からの寄付で設立。科学・技術分野において自ら定めた独創的な夢を持つ意欲のある女子学生の支援が目的。

学生・卒業生紹介

関連リンク

関連タグ