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授業に潜入! おもしろ学問

2026年秋号

授業に潜入! おもしろ学問

自然科学科目群/生物学/ISS (Natural Sciences b)-E2

思考・判断・探究・発信の力を磨いて
「生命の未来」を描いてみよう

キム・ミンス
医学研究科 准教授

学部新入生を主な対象に、2025年度から新たにはじまった「統合型複合科目」。特徴は、履修者が一堂に会する講義と、少人数グループに分かれた演習のセットで実施されること。講義で得た知識をベースに、演習でみずから問いを立て、調べて、考えて、議論を重ねれば、知識を自分のものにできるはず。想像力と創造力を羽ばたかせる学生たちの奮闘を追いかけた。

統合型複合科目

文系・理系の垣根を越えて、
社会の複合的な諸課題に向き合う、
「講義」と「演習」のハイブリット授業

統合型複合科目で身につけるのは、文系・理系の垣根を越えた広い視野と、正解のない課題に向き合う探究意識。主な対象は、フレッシュな学部新入生。研究の最前線を走る教員による講義と、少人数グループでの演習の両面から課題に挑む。

統合型複合科目 開講予定のテーマ例

理・理

主題・副題のいずれも自然科学(理系分野)の要素の強い科目

(例)数学で見る生命現象/フィールドワーク概論──森・里・湖・海と人のつながり

文・理

主題は文系分野、副題は理系分野の要素が強い科目

(例)「当たり前」を問い直すコミュニケーション科学/人工知能と人間社会

理・文

主題は理系分野、副題は文系分野の要素が強い科目

(例)自然災害の科学/デザイン学

文・文

主題・副題のいずれも文系分野の要素の強い科目

(例)人と人以外の存在者の関係を考えてみよう!/国際政治経済学

キム・ミンス准教授

授業の様子1 授業の様子2
英語でのポスター発表の様子1 英語でのポスター発表の様子2 英語でのポスター発表の様子3

授業は全編英語。英語でのプレゼンテーション能力も磨く

統合型複合科目[理・理] Designing the Future : From the Origin of Life to Future life

キム◦統合型複合科目初の全編英語での授業です。講義と演習の2つの授業で「生命」を考える力を磨きます。

講義

生命とはなにか?
生命のしくみを理解し、未来の生命を考える

キム◦細菌などの単純な生命体の理解からはじまり、微生物学、遺伝学、発生生物学、生理学、合成生物学などを横断しながら、現代科学が「生命を設計する」段階にあることを学びます。さらには、そうした技術がもたらしうる倫理、法、社会的な影響にも議論を広げます。
授業の最後には、各自ひとつ、テーマを選び、未来社会や未来の生命についてのアイデアを考えて発表します。

生命とはなにか
生命の起源と、細菌・ウイルスなどの微生物
単純な細胞はどのように複雑な生物に進化するのか
遺伝学、細胞生物学
複雑な器官はどのように機能しているのか
運動、エネルギー、脳の働き
未来の生命とバイオテクノロジー
生命を創り出す、書き換える
課題 ポスター発表

「エイジング」に貢献する新しい技術をデザインしよう

キム◦教員が考えた「エイジング」に関する12のテーマから、各自ひとつを選びます。

アイデアをただ並べるだけではなく、それによって引き起こされる問題や、その解決策も考えてほしいのです。科学的なエビデンスや将来性を調べてとりまとめ、一般の方にもわかりやすく伝わるようにポスターに表現。若返りジュースを〈ドリーム・ソーダ〉と名付けてみるなど、創造力を働かせて、目を惹くタイトルを付けることも期待します。
ポスターは、キャンパス内を行き来する人の目にふれるオープンスペースに掲示。来場者との対話や質問、反応に触発されて、一回目よりも回数を重ねた説明のほうがうまくなるはずです。人に伝えるとはどういうことかを体感しながら、ご自身の成長を実感してほしいですね。

テーマ例

「どんな細胞があれば、身体は歳をとらない?」、「〈若返りジュース〉があるならどんなもの?」、「誰もが長生きできる社会には、どんな問題が起こるだろう?」、「20歳の心臓を60歳に移植すると、心肺機能以外にどんな体の変化が起こる?」

演習

科学の世界をわかりやすく届けるには……?

キム◦イラストや概念図、アニメーション動画をつかって、科学をわかりやすく表現する方法を学びます。学生は、以下の各グループから1つずつ、計2つを選択して課題に取り組みます。

前半グループ
  • グラフィックデザインに微生物の世界を落とし込む
  • 3Dモデリングとアニメーションで、分子・ウイルス・細胞を可視化する
後半グループ
  • プレゼンテーション
  • 新たなタンパク質を設計し、3Dプリントで形にする
課題 作品制作

学んだことを伝わる形に落とし込む

キム◦例えば、細胞とウイルスとが結合するアニメーションやイラストを作成するとしましょう。「結合してこうなる」という知識だけではなく、どの器官がどのように、どんなときに結合するのかまで理解しなければ、ビジュアルに落とし込むことはできません。より立体的な現象の理解を促します。

ポスター・プレゼンテーション
テーマ

Beautiful Aging

23名の受講生による多彩なポスターに描かれるのは、成果や結論ではなく、未来社会をよりよくする「アイデア」。英語でのプレゼンテーションを通して、来場者とアイデアを共有する。

ポスター発表の様子1
Poster1

どうして女王アリは
これほど長生きするのだろう?

女王アリが働きアリよりもはるかに長生きする仕組みは、
ヒトの老化研究にも応用できるのでは?!

女王アリと働きアリのイラスト

同じ遺伝情報をもつにもかかわらず、寿命が異なる女王アリと働きアリ。その鍵は、インスリンシグナルの伝達経路にあるといわれています。さらに驚くことに、ある種のアリでは、女王アリがいなくなると、働きアリの一部が一時的に繁殖個体に変化。それに伴って寿命も延びるのです。

こうした先行研究から浮かんだアイデアは、「老化」には生物学的な要因だけでなく、社会的な環境も影響するのではないかということ。老化は変えられない運命ではなく、社会環境や健康、置かれた立場によって変化しうる。この考えは、健康や、ヒトのストレス研究に新たな知見をもたらすかもしれません。

ポスター発表の様子2
Poster2

Machine Brain
──AIは私たちの知能になれるのか?

脳を機械に置き換えれば、
認知機能の障害を治療できる?!

ロボットが脳を修理するイラスト

認知症などの認知機能の低下には、いまだ根本的な治療法は確立されていません。そこで提案するのは、人工神経回路を用いた「機械の脳」。損傷した脳の一部を人工神経回路に置き換え、健康なニューロン同士の情報伝達を補うのです。科学が発展すれば、人工回路で生体の脳活動に近い働きを実現できる可能性は高いでしょう。一方で、倫理的な課題も存在します。脳の一部を機械に置き換えたとき、その人はこれまでと同じ「自分」であるのだろうか。さらに、思考や判断に影響は? 技術の実現には、ヒトのアイデンティティなどの議論も不可欠。脳の機能理解は、治療のためだけではありません。『私たちは何者なのか』を問い続けることでもあるのです。

ポスター発表の様子3
Poster3

臓器移植と「年齢」の法的定義

臓器を移植すると年齢は変わるの?

20歳の心臓と60歳の心臓のイラスト

現在の医療および日本の法律では、臓器提供者の年齢にかかわらず、レシピエントの臓器移植後の年齢は変わらないと考えられます。移植された臓器はレシピエントのものになるからです。

一方で、科学・医療の世界では、臓器にはそれぞれの「年齢」があると考えられています。例えば、60歳の人が20歳の人から心臓を提供されたとします。この場合、法律では「60歳の心臓」ですが、科学の観点では心臓の年齢は20歳。もし、臓器移植で科学的に年齢を変えられたら、法的な年齢も変えるべきでしょうか。将来、臓器の年齢を考慮した、新しい「年齢」の考え方が生まれるかもしれません。

ポスター発表の様子4
Poster4

動きつづけて、脳の若さをたもつ!

身体と脳の両方を使う運動は、神経可塑性を高める?

トレッドミルで走るネズミのイラスト

成人後、人間の脳はほとんど変化せず、加齢に伴う認知機能の低下は避けられないと思われがち。でも、脳には「神経可塑性(しんけいかそせい)」があります。経験や学習、損傷に応じて、神経系の構造や機能、神経回路のつながりを組みかえる力であり、学習能力や記憶力だけでなく、脳卒中後のリハビリにも影響を与えます。

脳内出血のラットの先行研究では、運動しなかったラットよりも、毎日30分運動したラットのほうが回復は早くなりました。さらに、長距離移動よりも、移動距離は短くとも細い足場を渡る、障害物を越えるなどの複雑な課題をこなしたほうが、よりよい機能回復を示したのです。ヒトにおいても、ダンスや慣れない動きの練習、楽器の演奏などは、認知機能の維持に役立つかもしれません。

サイエンス・アンド・アートエキシビジョン

演習で学んだことの総決算。教室に並ぶ作品を前に、ぞれぞれの工夫を英語で発表しあう。

ミクロの世界を3Dアニメーションで表現してみよう

授業で学んだ、タンパク質や細胞、微生物の動きを3Dアニメーションで再現。

3Dアニメーション作品1
3Dアニメーション作品2
3Dアニメーション作品3
3Dアニメーション作品4

アニメーションと説明を組み合わせれば、分子やタンパク質の形や動きを一般の方にもわかりやすく説明できそうです。目に見えないものならなおさら効果的です

3Dアニメーションを制作した学生

AIなら簡単に作画できるかもしれませんが、自分の手を動かして作ることで授業の内容をさらに深く理解できるんです

サイエンスをイラストレーションで表現してみよう

細菌やウイルス、感染症をテーマにポスターを制作。ポスターにはかならずイラストレーションを配置し、わかりやすく伝えることを心がけた。

サイエンス・イラストレーションのポスター1
サイエンス・イラストレーションのポスター2
サイエンス・イラストレーションのポスター3
コメントを寄せた学生1

研究内容にぴったりのイラストやアイコンを探すのは、思っているよりも難しかったです。自分で描けるようになれば、伝えたいことを正確に、自由に表現できます

新しいタンパク質をデザインしてみよう

例えば、プラスチックをより早く分解するタンパク質など、いまあるものよりも良い機能をもつタンパク質を考える。現在の社会問題の克服のためにできることはなにか考える力を磨く。新しくつくったタンパク質を3Dプリンターで成形して展示。

緑色のタンパク質モデル
黄色のタンパク質モデル
青色のタンパク質モデル
赤色のタンパク質モデル
コメントを寄せた学生2

日本では英語で話す機会があまりありません。英語で生物学を学ぶことで、英語への苦手意識が減りました。また、イラスト制作や3D制作の手法も学べて、今後のさまざまな課題に役立つ大切な経験になりました

キム・ミンス准教授

キム・ミンス 東京大学大学院理学系研究科博士後期課程修了。京都大学白眉センター特定准教授などを経て、2020年から現職。

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