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授業に潜入! おもしろ学問

2025年秋号

授業に潜入! おもしろ学問

健康・スポーツ科学群/スポーツ実習/スポーツ科学ⅠA[アダプテッド・スポーツ]

自分たちで作る競技のルール。
誰にでも開かれたアダプテッド・スポーツのススメ

江川達郎
人間・環境学研究科 准教授

障害の有無や身体活動の能力、年齢にかかわらずスポーツ活動を楽しむことを目的に、ルールや用具を改良して、工夫・適合(adapt)したアダプテッド・スポーツ。授業では、このうち約20種を体験する。参加する誰もが楽しめるように、柔軟にルールを変更できるのもアダプテッド・スポーツの醍醐味。スポーツが苦手な人こそ大歓迎。これまで気が付かなかった自身の身体とこころの可能性を発見してみませんか。

「アダプテッド・スポーツを知っていますか」。最初の授業で、まずはそう問いかけます。これは2013年の調査データです(❶)。アダプテッド・スポーツという言葉を知る人はほとんどいません。一方で、「障害者スポーツを知っていますか」と聞くと、「知っている」と答えた人の割合は89.7%です。2021年の東京パラリンピック開催を受けて、障害者スポーツの現在の認知度は、おそらくほぼ100%になっているでしょう。

江川達郎先生

❶  アダプテッド・スポーツおよび障害者スポーツの認知度

質問内容 はい いいえ
アダプテッド・スポーツを知っていますか 5 (2.7%) 179 (97.3%)
障害者スポーツを知っていますか 165 (89.7%) 19 (10.3%)
アダプテッド・スポーツをしたことがありますか 14 (7.6%) 170 (92.4%)
これらの競技を映像で観たことがありますか 159 (86.4%) 25 (13.6%)
これらの競技に関する記事や情報を
活字で読んだり見たりしたことがありますか
58 (31.9%) 124 (68.1%)
参加したり人と関わったりしたいですか 137 (74.9%) 46 (25.1%)

N=184
注)数値は人数(%)出典:大阪教育大学紀要,第5部門,教科教育61(2),47-60,2013.

 

さて、いまはまだ認知度の低いアダプテッド・スポーツですが、みなさんもこれまでの学校生活のどこかでかならず触れているはずです。あるいは、アダプテッド・スポーツという言葉を使わなくても、スポーツをするときに自分たちでルールを変えたり、工夫した経験はありませんか。ドッジボールで使うボールを柔らかいものに変えたり、バレーボールのネットを低く下げてみたり、参加者の年齢や身長などに合わせてルールや用具を変えることも、広くはアダプテッド・スポーツなのです(❷)

❷  アダプテッド・スポーツの種類(一例)

バラスポーツ

バラスポーツ

ボッチャ、ブラインドサッカー、ゴールボールなど
フライングディスク種目

フライングディスク種目

アルティメット、ガッツ、ディスクゴルフなど
野球系種目

野球系種目

べースボールファイブ、キックベースボール、ティーボールなど
サッカー系種目

サッカー系種目

アンプティサッカー、フットサル、ハンドボールなど
バレーボール系種目

バレーボール系種目

ソフトバレーボール、キャッチバレーボール、プレルボール、風船バレーなど
テニス系種目

テニス系種目

ピックルボール、ショートテニス、フロアテニスなど
バドミントン系種目

バドミントン系種目

ファミリーバドミントンなど
バスケットボール系種目

バスケットボール系種目

ポートボールなど
卓球系種目

卓球系種目

ラージボール卓球、卓球バレー、サウンドテーブルテニスなど
車椅子種目

車椅子種目

車椅子バスケットボール、車椅子ハンドボール、車椅子卓球など
レクリエーション系種目

レクリエーション系種目

スポーツ鬼ごっこ、大縄跳び、ウォークラリー、モルック、キンボールなど
 

ボールを投げる生徒

その場の全員が楽しめるルールを考えてみよう

障害のある人だけでなく、幼児や妊婦、高齢者、あるいは運動が苦手な人たちなども気軽に競技を楽しめるのがアダプテッド・スポーツの魅力です。この授業は、スポーツに苦手意識のある学生や体力に自信のない学生の受講も大歓迎。

授業では、モルックやキンボールなどのレクリエーション系種目や、車いすスポーツなど、およそ20種目を体験します。授業には、障害のある学生や、怪我などで一時的に障害があったり、心身に不調があったりする学生も履修することがあります。競技ごとに基本のルールはありますが、そのルールでは楽しめない人や場面があれば、特別ルールを設けたり、ルールを撤廃したり、その場の全員が楽しめる方法をプレーヤー自身で考えます。

アダプテッド・スポーツでも、世界選手権などでプレーするときには、厳格なルールが定められています。既存のルールには、それを定めた理由があったり、想定している状況があります。授業で「ルールを変える」ことは、ルールの意味や必要性に思いを巡らすことにもつながります。

一方で、若いみなさんは「ルールは守るもの」と思い込んでいるかもしれません。決められた手順や方法を守り、その通りにすることが得意な人も多いはずです。でも、ルールは変えたっていいのです。将来、ルールを作る側に立つ人もいるでしょう。常識にとらわれない、柔軟性や創造性を鍛える訓練にもなればと開講しています。

スポーツを楽しむ心を育てる

もちろん、体力・健康づくりへの関心を高めることも授業の目的の一つ。スポーツに苦手意識があると運動を遠ざけてしまいがちですが、アダプテッド・スポーツなら工夫次第で楽しさを感じられるはず。

歳を重ねると、思うように体が動かなくなることもあります。「スポーツはもうできない」と諦めてしまいそうなとき、授業を思い出して、できる範囲で体を動かしてみるなど、健康づくりの一助になればうれしいです。

江川教授が説しているる

次の授業では、車椅子ハンドボールに挑戦します。この競技は、昭和50年代に、重度障害者の方でも集団で楽しめるスポーツをという思いから京都で考案されたスポーツで、ルールもそれを前提にしています。まずは規定のルールに則って試合をしたあと、受講生の体格や得意・不得意にも思いを巡らし、全員が楽しめるようなルールを考えてみましょう。

アダプテッド・スポーツや障害者スポーツは、人間の可能性を追究し、拡張する取り組みです。この授業でぜひとも、スポーツを楽しむ心と出会ってください。

 

学問アイコン
車椅子に乗って、競技を体験してみよう 車椅子に乗って、
競技を体験してみよう
車椅子ハンドボール
障害のある人にも集団で行うボールゲームに親しんでもらえるようにと考案された
京都生まれのスポーツ。
2022年には世界選手権が始まるなど、世界各地で競技人口を増やしている。
車椅子 ボール
基本的な
ルール
チーム編成 6人1チーム。6人のうち1名はゴールキーパーを務める
ボール 直径16cm〜18cmのソフトタイプのボールを使用
競技の開始 コートの中央でボールを投げる「スローオフ」で競技開始。パスや車椅子操作を駆使して、ゴールを目掛けて前進する
得点 ゴールが決まるごとに1点加点
許されるプレー •ボールを保持し、車椅子を連続3回まで操作すること
•下腿または足以外の身体の部分でプレーすること(障害の状況により、足でのプレーを認めることもある)
反則 •「オーバープッシュ」ボールを保持して、車椅子を連続して4回以上操作すること
•相手の膝の上のボールを奪うこと
•身体や車椅子で相手を押すこと
1試合目
一般的な車椅子ハンドボールのルールに則り、試合開始。前回の授業で、学生たちは車椅子の操作方法を体験済み。慣れた様子で車椅子を動かし、ゴールを決めてゆく。
  車椅子に乗ってスポーツをする女の子
2試合目
追加ルール:
•オフェンス時に、ゴールまでにかならず一度は味方同士でパスをしなければならない(「ワンパス」)
•手渡しでのパスもOK
※いずれも障害の重い人でもプレー機会を増やせるように配慮されたルール。
  試合中の少年たちのグループ
 
3試合目 これまでの試合をふり返り、学生たち自身でルールを考える。考えたルールを出しあい、採用するルールを話し合いで決める。

学生たち考案のルール

ゴールポストの下半分にゴールすると1点、
上半分にゴールを決めると2点獲得 採用
考案者からひとこと
座っている状態で、ゴールポストの上をめがけてボールを投げるのは難しいし、ゴールキーパーにも防御されやすいと感じました。得点差をつけて、ゲームをもっと盛り上げたいです。
パスをするときに、かならずワンバウンドさせなければならない 採用
考案者からひとこと
ノーバウンドパスの場合、背の高い人はパスを奪いやすい。身長差が有利・不利に影響する印象がありました。その差を埋められたら。
ボールを2個 不採用
考案者からひとこと
ゲームを盛り上げようという提案です。でも、どのボールがワンパスしたのか、混乱しそうですね(笑)
学生A
片手は車椅子のハンドリムを持っているので、ボールを片手で扱わなければならないのは難しかったです。
学生B
小回りが効きづらく、前にこられると逃げ場がなくてパスに苦労しました。車椅子を回転させないかぎり、横移動ができないのも、いざ乗ってみるまで気づきませんでした。
試合についてコメントする学生たち ボールを拾う選手
学生C
もともとスポーツには苦手意識がありましたが、「これならできる」とスポーツを続けたくなりました。「プロの試合だったらどう動いているんだろう」と、スポーツ観戦にも関心が広がりました。
学生D
ハンドリムを回す腕が疲れます。脚が使えないことで、これほど競技が難しくなるとは知りませんでした。

えがわ・たつろう
1983年、大阪に生まれる。2012年に京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程を修了。同研究科助教などを経て、2024年から現職。

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