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私を変えた あの人・あの言葉

2024年春号

私を変えたあの人、あの言葉

一生涯続く、音楽の旅。
回り道をした京都大学で見た景色

原摩利彦さん
音楽家

中学1年生のときに音楽家・坂本龍一さんのコンサートを見て衝撃をうけ、音楽の道に進むことを決心しました。音楽大学への進学を目指して、作曲とピアノのレッスンに通いましたが、どうも肌に合わず高校3年生になって音大進学を断念。2年浪人した末に京都大学に入学しました。

自分で選んだ道でも、音大などで音楽を志す人たちが全ての時間を音楽に費やしていることに嫉妬のような感情を持つこともありましたが、「遠回り」をした方が多くの景色を見ることができると自分に言い聞かせていました。

4回生直前になってそろそろ卒業のことも考えなくては、と(消極的な理由で)訪ねた研究室が渡邊洋子先生(現・新潟大学教授)の生涯教育学講座でした。

聴いたことのない音を求めて、学びを続ける

私は器楽アンサンブルや電子音楽の他に、フィールドレコーディング(日常の音を録音すること)をした音をコンピュータで加工し、まだ聴いたことのない音を求めながら旋律やリズムもない抽象的な音の塊のようなものも作ります。そしてコンサートではピアノを弾き、現代アートの展覧会、映画やドラマ、舞台のための音楽も手がけます。様々な分野で仕事すると専門用語から音・作品の考え方までたくさんの学びがあります。

生涯教育学と音楽は遠い存在だと最初は思っていましたが、生涯学び続けるという概念は今の活動に直接的に繋がっており、当時ゼミで議論されていた育児と仕事の両立の問題は今の私の課題です。

2014年に坂本龍一さんから即興セッションの相手に指名されてから、少しずつ仕事も増えていき、今に至ります。渡邊先生は在学中からいつも活動を応援してくださり、最近では観に行った映画のエンドロールに名前を見つけたと連絡がありました。大学院の中退届を出す際に、事務の人に「あなたの音楽いつか聴きたいわ」と言われたことを時々思い出します。

音楽家として、そしてひとりの人間として、この世界をどう生きるのかを考えながら、これからも音楽の旅を続けていきたいと思っています。

大学院生のとき。京都の法然院でのコンサート。庭園の虫や鳥の声に即興的に音を加えていき、全体の音風景を聴いてもらうコンサートです
撮影・Yoshikazu Inoue

大学一年生

おそらく大学1回生のとき、川の水の音をモバイルレコーダーで録音しています


はら・まりひこ
京都大学教育学部を卒業。同大学大学院教育学研究科修士課程中退。京都府文化賞奨励賞受賞。2020年、笙やサントゥールを取り入れ音響的共存を目指したアルバム『PASSION』を発表。李相日『流浪の月』、野田秀樹『兎、波を走る』、田中泯+名和晃平『彼岸より』、東京オリンピック開会式(森山未來出演パート)などの音楽を担当。

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