京都大学の新輝点

加藤 直人

12 新しい体験が広がる仮想世界で引きこもりを加速しろ!世界を変えるメタバース起業家(クラスター株式会社 代表取締役CEO 加藤 直人)12 新しい体験が広がる仮想世界で引きこもりを加速しろ!世界を変えるメタバース起業家(クラスター株式会社 代表取締役CEO 加藤 直人)

 京都大学理学部で宇宙や量子力学を研究したのちに、3年間の引きこもりを経てメタバース企業を設立した加藤直人さん。物理学者とエンジニアという二つの才能に揺れながらも、切り拓いたのは仮想世界の最先端。「引きこもりを加速する」というキャッチコピーのもとめざす世界とは? 世界を変える起業家の頭の中に迫ります。

加藤 直人 Naoto Kato

1988年生まれ。大阪市出身。大阪府立天王寺高等学校理数科を経て京都大学理学部に進学。宇宙論と量子コンピュータの研究に取り組み2011年3月卒業。京都大学大学院を中退後、約3年間のひきこもり生活を過ごす。2015年にクラスター株式会社を起業。2017年に大規模バーチャルイベントを開催することのできるVRプラットフォーム「cluster」を公開。経済誌『Forbes JAPAN』の「世界を変える30歳未満30人の日本人」に選出されている。著書に『メタバース さよならアトムの時代』(集英社/2022年)。

親からパソコンを譲り受け
ゲームを自作した少年時代

 実家は大阪の下町で、共働きの両親のもと姉と妹に挟まれて育ちました。幼少期から引きこもりがちな子どもでしたね。「外で遊んできなさい」と言われるのが嫌で、図書館に逃げ込んで本を読んで過ごしていました。また小学4年生頃の趣味が、スーパーボールを壁にぶつけて跳ね返ってくる軌道を予測するというもので、それを延々と3〜4時間と続けていましたので、親には「大丈夫かなこの子」と心配をかけていたのではないかと思います。

 パソコンに初めて触れたのは小学6年生の時でした。親から譲り受けまして、最初は既存のゲームで遊んでいたのですが、中学2年生ぐらいでプログラミングに目覚めました。当時放映されていた『機動戦士ガンダムSEED』というアニメの影響です。主人公はコーヒーを飲みながら片手でOSを書き換えるようなチートキャラクター。その姿に憧れ、自分でもプログラミングの本を買って独学でゲームをつくるようになりました。仲の良かったガンダム仲間と一緒に自作の株価シミュレーションゲームで遊び、1千万円の架空予算をどれだけ増やせるかを競ったのがいい思い出です。

物理の素養を深めた高校時代
バイトで組織の面白さを知る

 高校は実家から近いところにあった公立のトップ校に進みました。数学と物理が大好きなので理数科に入ったのですが、1年のうちに高校課程の物理を独学で学び終えてしまい、物理の先生に「僕の授業中は別の勉強にあてていいから」とお墨付きをいただいたことで自由に過ごすようになりました。相対性理論や量子力学などを解説した一般書や、SF小説や文学作品など、たくさんの本を読みました。当時は「インターネットはお金がかかる」という理由で親にパソコンを取り上げられていたので、アナログなことに時間を使うしかなかったんです。

 親に「お金を稼ぐ経験をしておけ」と勧められ、近所の回転寿司のチェーン店でアルバイトも経験しました。そのときに感動したのが、徹底的にマニュアル化された店舗運営のシステムです。店の裏側は工場のような空間になっており、店長からバイトまで担当者ごとに詳細なマニュアルが作成されており、それに沿って黙々と働けばチェーン店の品質が保たれる構造や組織がつくられていることに凄みを感じました。バイト自体は全く性に合わず2カ月で辞めてしまいました。でも、世の中の構造を知ることに興味があった僕にとって、のちの起業につながる体験ともなりました。

宇宙の原理を知ろうと
物理学者をめざし京都大学へ

 高校時代に将来の目標として描いていたのが物理学者になることです。ガンダムの影響で宇宙が大好きだったので、ピュアなサイエンスの世界で宇宙の原理に迫ろうと考えていました。それでノーベル物理学賞受賞者を輩出していて、理論物理のトップ大学だという印象があった京都大学に行くことにしました。

 よく東大や海外大学は視野に入れなかったのかという質問を受けるのですが、当時は経済的な理由で選択肢に挙げていませんでした。大阪の下町らしい“おもろい”両親のもとで、「塾に行くならおかずが1品減るで」「学校は家から通える国公立が一番や」などと言われて育ちましたので、素直に塾にも遠方の大学にも行かない選択をしたのですね。今思うと奨学金制度などを利用すれば海外大学に行けたかもしれないのでそこは反省点なのですが、京都大学を選んだこと自体は今も後悔していません。

300人が所属するサークルで
組織運営の仕組みを学ぶ

 京都大学に入学したときに決めていたのが、なるべく大きなサークルに入って組織の仕組みを知ろうということです。そこで入ったのが京都大学生協協同組合の運営組織である学生委員会です。1〜3年生までの約300人が所属する団体で、4つの委員会を下部組織として持ち、イベントの企画運営や冊子の発行、受験生や合格者のフォローまでさまざまな活動に関わる組織でした。また僕にとって嬉しかったのは、部室のパソコンが自由に使えたことです。高校時代の反動もあり、大学1年生の頃は授業もそこそこに、プログラミングに熱中して部室に入り浸りとなりました。

 そんなふうに部屋の主のような状態でいたのが影響したのか、2年生になるとサークルのトップに推薦されてしまいました。断わりたかったので主要メンバーに現在の取得単位数を資料として配って「この成績なので引き受けられません」と伝えたところ、なぜか加藤救済チームが結成され、試験前に対策をインストールしてくれることになりました。それで仕方なく代表を引き受けたのですが、それが結果として今の会社経営につながる気づきを得ることになりました。何しろ歴史ある組織ですので、コミュニティとアーキテクチャーができあがっています。トップが変わっても回り続ける仕組みに感心し、それを維持することが組織のカルチャーをつくり、属する人が働く喜びにつながり、世代交代や新陳代謝が円滑に行われるのだということを学んだのです。この気づきは現在もクラスター社の経営に生かされています。

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