京都大学の新輝点

粂原 圭太郎

07 模範になるつもりはない。自由な思考と行動力で、新風を巻き起こす人生を(競技かるた名人 粂原 圭太郎)07 模範になるつもりはない。自由な思考と行動力で、新風を巻き起こす人生を(競技かるた名人 粂原 圭太郎)

 2021年1月に、競技かるた名人として3連覇を果たした粂原圭太郎さん。その才能はかるただけに留まらず、学生時代から起業や著書出版など多彩に活動されています。型にとらわれない思考や行動力はどこから来るのか? かるたへの取り組みを軸に語っていただきました。

粂原 圭太郎 Keitarou Kumehara

群馬県出身。小学5年生より競技かるたを始め現在八段。2019年に競技かるた名人位を取得。現在まで3連覇を果たす。京都大学在学中は、「京都大学かるた会(競技かるたの学生団体)」を団体戦初優勝へと導き黄金期を築く。2010年京都大学経済学部首席入学。2014年経済学部卒業。京都大学在学中にオンライン個別指導塾「となりにコーチ(旧 粂原学園)」を起業。『学校では絶対教えてもらえない受験勉強法』(2014年・エール出版社)、『やる気と集中力が出る勉強法』(2016年・二見書房)、『京大読書術』(2019年・KADOKAWA)など著書多数。

今回のインタビューは、かるたクイーンであり、京都大学かるた会の先輩である山添百合さんと一緒に行われました。実は2020年度の競技かるた名人位・クイーン位は、粂原さんと山添さんという京大卒業生が占める快挙だったのです。粂原さんとはタイプの違うかるた選手である山添さんのインタビューはこちらから。名門校とかるたの意外なつながりも出てきます。

山添 百合と粂原 圭太郎イメージ
常識に縛られない思考で
異端な強さを身に着ける

 僕はかるたでも勉強でもスポーツでも、何かに取り組むことで自分が成長することを感じられることがとても好きなんです。昔からいろんなことに興味を持っていて、子ども時代はかるたに野球にテニス、バスケ、陸上、水泳とさまざまな競技に取り組みました。長く続いたのはかるた以外だと、野球とテニスですね。テニスはペア競技なので小学校を卒業するまで続けましたが、野球はかるたに集中したくて辞めました。

 競技かるたを始めたのは小学5年生の時ですが、幼少期からかるたが好きでした。というのも僕の出身の群馬には「上毛かるた」という郷土かるたがありまして。群馬県民なら幼少期から嗜む、おそらく群馬限定なら野球を超える競技人口だろうというものなんですが、これを小さい頃からやっていたんですね。「狙った札を早く取る」のが楽しく、さらに競技かるたをやるようになってからは、札を払い飛ばすこの競技独特の動きに魅せられて夢中になっていきました。

 僕が住む地域には「つばさクラブ」という子ども向けかるた会があり、小中学生の頃に入会。群馬には大人向けのかるた団体「前橋かるた会」という組織もあるのですが、その会長さんが「将来、かるた名人やクイーンになる子どもを育てる」という想いで設立されたのが「つばさクラブ」だったんです。「つばさクラブ」で腕を磨き、中学2年生でA級(競技かるた級位の最上位)に昇格しました。高校1年生のときに個人戦でA級クラス優勝を実現。団体戦でも群馬県チームを高校生大会優勝へと導きました。

 子どもの頃から僕がこだわっていたのは、論理的・効率的に勝ちを取っていくかるたです。競技かるたで王道とされるのは「聞いて取る」というやり方なんですが、僕の場合は相手を揺さぶるために、音と同時に手を出すような取り方もします。相手を分析して、相手が苦手な戦法を柔軟にとっていくのが僕のやりかたです。王道ではなく異端だから、強いけどみんなの模範にはなれない。でもそうやって、勝つための効率的な方法を探っていくのが楽しいわけで、そこは名人になった今も変わらない信念ですね。

粂原 圭太郎
自由を謳歌した4年間が
起業の芽や人脈をもたらした

 受験勉強をするようになって最初意識していたのは東京にある大学です。しかしその大学に入ってしまうと、勉強以外のことをする自由が失われる未来が予測され、食指が動かなくなりました。僕は勉強自体とても好きなんですが、勉強以外のことも同時にやりたいタイプなので、自分に合う大学はないかと探して見つけたのが京都大学です。日本の優秀な大学の中で、最も自由に過ごせるのが京都大学だろうと考えたんですね。とにかく「自由」というところに惹かれました。

 実際に京都大学に入学してみて「自由って聞いていたけど、本当だな」と感じることがたくさんありました。社会の問題や事件に異を唱える人がいるかと思えば、ミイラ男の格好をした人が時計台前の楠木の下でずっと寝ていたりと、良し悪しはともかく何かしらの主義主張に基づいて自由に過ごしている学生がたくさんいましたね。

 僕も京大の雰囲気のなかで、1年生からあらゆることに興味関心を広げていきました。いろんなサークルに顔を出しましたし、家庭教師をやったり、クイズ番組で東大生と戦ったり、勉強法に関する本を出版したりするうちに、人脈も広がっていきました。その流れで在学中に起業したのが、オンライン個別指導塾であり、現在のメインの仕事となっています。

教育者として講演するなど、多彩な活動を精力的に行っている。イメージ

教育者として講演するなど、多彩な活動を精力的に行っている。

かるたを辞めるつもりが
本気にさせられた仲間との出会い

 京都大学に入学してからさまざまなことに挑戦した僕ですが、実は競技かるたに関しては、続ける意思はありませんでした。高校までで一通り実績を挙げ、やり尽くした感があったんです。誘われて、京都大学かるた会に入りはしましたが、1年生の頃はほとんど練習や大会に出ていませんでした。

 僕をかるたに引き戻したのは、京都大学の1年先輩にあたる山添百合さんです。高校のかるた大会で僕のライバルを打ち負かしていた彼女を見たときから「強い選手だな」と意識していたのですが、いざ対戦したら本当に強かった。そこから大学でのかるた活動にも力をいれるようになりました。京都大学かるた会での日々は、のんびりわきあいあいとした雰囲気があって、楽しかったです。徹夜かるたなんていう無茶ができたのも、京大の自由な環境があったからかもしれませんね。

 おそらく京大に来ていなければ僕が名人になることはなかったと思います。名人3連覇を果たした今年の決定戦では、山添百合さんも初クイーンを獲得しました。彼女とは名人・クイーン戦からまた縁が復活して、練習試合をしていただいています。僕と真逆の王道のかるたを取る人なので、互いに刺激を受けるんですよね。

第68期名人位決定戦に勝利し3連覇を達成。同日に開催されたクイーン戦に、先輩の山添百合さんも勝利、第65期クイーン位を獲得した。イメージ

第68期名人位決定戦に勝利し3連覇を達成。同日に開催されたクイーン戦に、先輩の山添百合さんも勝利、第65期クイーン位を獲得した。

人と同じじゃなくていい
かるたや塾で伝えたいこと

 現在は京大の近くにオフィスを構え、オンライン指導塾を中心に教育者としての活動をメインとしています。「勉強なんか嫌いだ!」と入塾してくる子どもに、勉強の楽しさを目覚めさせることにやりがいを感じます。面白いと思ったり興味を持ったりするポイントって人それぞれで、一人ひとり違っていてあたりまえ。最近は、それぞれにあった興味の持たせ方や勉強法を分析して伸ばすというのをテーマに、より良い指導方法を模索しています。

 趣味の面では、ダーツに取り組んだり棋士の先生や漫画家の方と交流したりと、好きなことを常にいくつもやっている感じです。仕事もかるたも趣味も、それぞれが互いに影響して好循環しているのが僕にとっては望ましい状態なんです。

 かるた名人としては、今までかるたから貰ってきたたくさんのものを、次の世代に返していく、そういう時期に来ていると思っています。ただ僕はかるた選手として異端なタイプなので、模範的な試合を見せることはできません。僕がやるべきなのは、仕事や趣味を通じて築いた人脈を活かし、競技かるたに新しい風を入れたり、認知度を広げることへの貢献ではないかと。僕自身が目の前にあることを楽しむこと、自由でありつづけることで、「こんなかるたもありなんだ」「自由でいいんだ」と後進に示せればと考えています。

 母校である京都大学についても、社会に左右されない京大らしさを貫いてほしいと思います。社会は変わるしその時々で求められるものも変わります。ですが京大には、世の中の変化を超越した存在でいてほしい。好きなことをとことん自由に追求できる緩やかさを、これからも守り続けていただければと思います。

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