秋の創立125周年記念行事

秋の創立125周年記念行事イメージ

京都大学では2022年の1年間を「125周年イヤー」とし、各種イベントを展開してきました。6月に続き、11月5日(土)には秋の記念行事と京都大学ホームカミングデイを併催しました。豪華ゲストが登壇したシンポジウムや時計台隣の研究棟を使ったプロジェクションマッピング、卒業生によるジャズコンサートが行われ、多数の来場者がありました。
総合博物館と大学文書館の特別展示、尊攘堂などの施設公開も行われ、関係者だけでなく近隣の方々にも本学の歴史や研究の歩みを知っていただく機会となりました。

創立125周年記念 特別シンポジウム

前半は、京都大学CFプロジェクト等に多大なご支援をいただいている建築家の安藤忠雄氏、本学法学部卒業生で小説家の平野啓一郎氏が講演。後半は、講演者2名に本学文学部卒業生で俳優の辰巳琢郎氏、湊長博総長を交えたパネルディスカッションを行いました。6 月のシンポジウムはノーベル賞受賞者を招いたアカデミックな議論でしたが、今回は登壇者によるざっくばらんな本音トークもあり、会場は笑い声が絶えない和やかな雰囲気となりました。

▼ 講演

平野氏は在学中の1999年に当時最年少の23歳で芥川賞を受賞。
安藤氏は元ボクサーであり、現在は建築家として世界を舞台に活躍されています。
両者の経験や視点から、それぞれのテーマでお話しいただきました。

平野 啓一郎 さん
平野 啓一郎 さん

小説家。1975年愛知県出身。
1999年法学部卒業。2020年より芥川賞選考委員。

「人間と環境」

僕は、「個人(individual)」に代わる新しい人間のモデルとして「分人(dividual)」という概念を提唱しています。これまで人間は自我を確立した一つの個人であると考えられてきましたが、実際にはいろいろな人と接し、いろいろな環境に身を置く中で人格的変化を経験します。友人といる時の自分、恋人といる時の自分、学校にいる時の自分。「本当の自分」が核にあるのではなく、「複数の自分」が共存しているのが人間の状態なのではないかと。近年、若年層の自殺の問題が深刻ですが、「本当に辛い自分はどの分人か」と客観視できれば、自己を全否定せずに済む。現在は終身雇用ではなくなりつつあり、副業や転職が一般的となりました。「本当の自分は何をやりたいのか」と突き詰めて考えるのではなく、人生とは複数のプロジェクトを抱えながら進行するものと捉え、その中で心地良いと思う分人の比率が高くなるように対人関係や環境を選ぶことが大切ではないでしょうか。

安藤 忠雄 さん
安藤 忠雄 さん

建築家。1941年大阪府出身。
2022年に「京都大学安藤忠雄国際奨学金」創設。

「地球は一つ」

人生100年の時代と言われています。地球人口は50年前から比べると加速度的に増え続け、限りある資源・食糧・エネルギーは枯渇への一途をたどっています。コロナウイルスの世界的な蔓延は、感染症による直接的な被害を人々に与えただけでなく、人類全体が抱える問題を浮き彫りにしました。図らずも我々は、地球は一つであるという真実を、改めて思い知らされました。こんな時代だからこそ、一人ひとりが「知る力」「考える力」を養い、地球の未来をつくっていかなければなりません。私も、夢を持って生きることができる社会をいかにして子どもたちに残していくか、建築という仕事を通して、考え続けてきました。その答えの一つとして、各地で子どものための図書館をつくり、寄贈するという活動を続けています。社会の未来は、なにより子どもたちの元気にかかっています。一人でも多くの子どもたちに、豊かな創造の芽を育んでもらえればと願っています。

パネルディスカッション
パネルディスカッションイメージ

平野氏、安藤氏に加え、俳優の辰巳琢郎氏が登壇。湊総長も加わり、佐藤卓己 京都大学理事補・総長主席学事補佐・教育学研究科教授をモデレーターに「社会が求める人材像について ~本学卒業生としての期待、本学支援者としての期待~」の題でトークを繰り広げました。

佐藤 卓己/安藤 忠雄/辰巳 琢郎/平野 啓一郎/湊 長博

佐藤 京都大学教育学研究科のディプロマ・ポリシー(学位授与基準)には、「実践的叡智(フロネシス)を身につけた人材の育成」という文言があります。まさにフロネシスを体現されている安藤先生からコメントをお願いできればと思います。

安藤 朝、散歩していると、町を歩くほとんどの人が意識朦朧としている気がします。日本人はもっと目を覚ました方がいい。せめて学生たちにそう言いたいです。

辰巳 僕の学生時代は、夕方に大学行って、芝居の稽古をして、お腹が空いたら東一条通の屋台で何か食べて、朝まで麻雀して、というパターンでしたので、あまりまじめな学生とも立場が違うなと思いつつ、お話に参加させていただこうかと。

平野 僕も辰巳さんとあまり変わらなかったかな。でも今の子どもたちは小さい頃から受験戦争を強いられ、教育自体が課題をこなすことに特化している気がします。一方で社会は終身雇用性ではなくなりつつあり、課題自体も複雑化している。「求める人材」になるより、若い人の自由な発想や能力を、社会が受け止める方が発展していくのではないでしょうか。

佐藤 今日のシンポジウムのテーマが否定されてしまいましたね(笑)。実は10代の学生さんから、「社会に求められる人材となるために、大学 1 回生のうちからできることは何ですか」という質問をいただいています。

平野 今からそういうことを考えない方がよいのでは。学生さんが悪いのではなく、今の社会が脅迫的に、役に立てる人間になれというマインドにさせているのかもしれません。それこそ安藤さんがおっしゃったように、まずは好奇心。何の役に立たないようなことでも、意外とそれが仕事で助けになることがあるんですよね。社会と自分のやりたいことの調整を考えることもありますが、しばらくは好きなことをやった方がいいと思います。

辰巳 大学の4年間は人生の中で本当に短い時間なので、「流されていたらつまらんよ」と言ってあげたい。本当に自分が好きなことを見つける大切な時間。それが大学時代なのでは。

安藤 私が10代の頃は生きることに必死でしたから、そんなことを考える余裕もなかった。とにかく生きるためには仕事を一生懸命しないといけないし、そして、おもしろいことをしようと。本を買って、ひたすら読んで、毎日喧嘩していました。その当時は、腹割って話してみるとみんな目標は一緒でしたね。生きなければならない。今は放っておいても生きられるんですが、先日、東京大学の入学式でスピーチをした際に、学生3000人に対して保護者が4500人いるんですよ。この国全体が過保護になっていると感じます。日本という国がもう一度立ち直るためには、責任感のある個人をどうやってつくるのかと問いたい。

佐藤 安藤先生は独学で建築などを勉強されてきました。そう考えると、先ほどの学生さんに私が答えるとしたら、とにかく海外に行きましょうということかなと思います。では最後に、湊総長に締めくくっていただければと。

 まとめるのが難しいですね(笑)。ただ思うのは、今の子は“busy”になり過ぎているかもしれません。単位を取ることや課題をこなすことで忙しい。でも形を整えることばかりが上手になると、どうしてもflat(均一的)になりがちです。もっとcomplex(複合的)に策を講じ、いろいろな経験をしないと、おもしろい子どもたちが出てこないのではないかという気がしています。

創立125周年記念 プロジェクションマッピング

創立125周年記念 プロジェクションマッピングイメージ

記念行事の締めくくりとして、百周年時計台記念館東側の総合研究13号館の壁をスクリーンとしたプロジェクションマッピングが行われました。京の東の守り神とされる「青龍」が水先案内人となり、1897年の創立からの歴史をダイナミックな映像と音で紹介。戦前の校舎や授業風景に始まり、1925年の時計台竣工、1947年の京都帝国大学から京都大学への大学名改称、1949年の日本初のノーベル賞受賞など節目の出来事を白黒写真や新聞記事とともに投影しました。昔の研究成果だけでなく、「iPS細胞研究所設立」など近年における実績も伝えました。会場には学生や卒業生、近隣に住む家族連れなども集まり、約8分間の映像が終わると盛大な拍手を送っていました。

記念展示

京都大学総合博物館記念展示「創造と越境の125年」イメージ
京都大学総合博物館記念展示
「創造と越境の125年」

100年以上前から本学に保存される紙製の人体解剖模型「キンストレーキ」や、明治15年に日本鉄道の開業用として輸入されたイギリスの蒸気機関車を模した木造模型、1962年に開始したBST(琵琶湖生物資源調査団)で使われた「トロ箱(魚箱)」などの貴重な模型・書籍・図面など約60点を展示。大学創立時の理工・法・医・文の四分科大学の時代から、自ら創造し越境する姿勢を持ち続けてきた大学教員や学生の研究活動の記録を公開しました。

京都大学大学文書館記念展示「京大の周年記念行事 ―史料でたどるお祝いの歴史―」イメージ
京都大学大学文書館記念展示
「京大の周年記念行事 ―史料でたどるお祝いの歴史―」

京都大学におけるこれまでの周年記念行事について、文書館所蔵の史料とともに紹介。創立 10周年(1907年)記念式典での木下総長による手書きの式辞や、敗戦直後の 50周年(1947 年)に占領軍第一弾軍団ウッドラフ少将らが祝辞を贈った記述、バブル崩壊期の 100周年(1997年)に戦後最長の不況に見舞われ記念事業の内容を再検討した記録など、政治や経済の情勢とともに変遷してきた本学の周年行事を振り返りました。

京都大学創立125周年記念 附属図書館所蔵貴重資料展示「絵物語の貴重資料展」イメージ
京都大学創立125周年記念 附属図書館所蔵貴重資料展示
「絵物語の貴重資料展」

お伽草子や奈良絵本といった「絵物語」をテーマに、貴重資料の中から6点を特別公開し、パネル展示とデジタル展示が行われました。疫病退散のお守りとして有名になった「アマビエ」を人々が描き写した 1846年の「肥後国海中の怪」や、当時から美少年として名高かった牛若丸(源義経)の活躍を描いた「烏帽子折草子」を分かりやすいイラストや解説とともに紹介しました。

京都大学ホームカミングデイ

一年に一度開かれている、京都大学に関わるすべての方々との交流イベント。第15・16回はオンラインのみの開催だったため、今回の第17回は3年ぶりの実地開催となりました。125周年行事と併催し、ジャズコンサート、清風荘公開、施設見学、スタンプラリーを実施。卒業生、教職員、学生、一般の方など多くの方が参加し、生の演奏や実際に目で見る展示などを楽しんでいました。その様子はオンラインでも公開されました。

卒業生のプロミュージシャンによるジャズコンサートイメージ
卒業生のプロミュージシャンによるジャズコンサート

2008年に本学総合人間学部を卒業したサックス奏者・山中一毅氏をリーダーとする「Kazuki Yamanaka Special Quartet」による演奏。ピアノは佐藤浩一氏、ベースは小牧良平氏、ドラムは池長一美氏。山中氏は14歳からサックスを始め、一度就職するも再びジャズの道を進み、ニューヨークで7年間活動したのち、現在は東京を拠点に活躍。この日は、オリジナルの「Finding Peace」「Inner Space」「Samsara」「Humanity」の他、アンコール含めて9曲演奏しました。
山中氏は「この2年間、僕らミュージシャンもいろいろと感じたり考えたりすることが多く、そんな気持ちが楽曲に無意識に反映されています」と語りました。観客は、一面のガラスに映る紅葉をバックに、サックスやピアノの研ぎ澄まされた音色を五感で堪能していました。

清風荘公開イメージ
清風荘公開

西園寺公望の私邸として明治末~大正に建てられ、 2012年に本学で初めて国の重要文化財(建造物)に指定された近代和風建築。この日は同窓生限定で特別公開され、名匠・八木甚兵衛(二代目)の手による数寄屋建築の母屋や、小川治兵衛氏作庭の日本庭園などの建築美・庭園美に参加者が見入っていました。

施設見学イメージ
施設見学

総合博物館を無料開放したほか、附属図書館の一般見学、尊攘堂の特別公開を実施。特に4 年ぶりとなった尊攘堂の公開には多くの歴史ファンが足を運びました。同施設では展示をリニューアルし、キャンパス内で発掘された土器や埴輪など約200点をお披露目。訪れた人は「どこで見つかったものですか」などと興味深そうに案内人に質問していました。

スタンプラリーイメージ
スタンプラリー

旧石油化学教室本館など10カ所にスタンプを設置し、5カ所以上の押印で景品を贈呈。意外と知られていないスポットを見る機会とあり、近隣の親子連れや年配の方々がMAPを片手に建物を探訪していました。景品のクリアファイルは、本学同窓生が描いた校舎の水彩画をあしらったオリジナル品です。

京都大学基金へのご寄付のお願い京都大学基金へのご寄付のお願い

人材育成を中心とする記念事業への取り組みや、
未来に向けて“京大力”を磨き続けるための運用原資として、
京都大学基金への寄付を募集しています。

↑↑