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VOL.9 柴田 一成 教授(京都大学理学研究科附属天文台長)

2010年夏、小惑星イトカワの表面から岩石を採取し持ち帰った探査船「はやぶさ」が日本中を沸き返らせました。それは、絶体絶命とも思える困難を乗り越えたドラマの感動とともに、目に見えないような微粒子に、太陽および太陽系ができた謎を解明する鍵が見つかるかもしれないという期待が人々を魅了したものでした。「われわれ(生命)はどこから来たのか?」誰もが抱くこの謎に挑み続け、太陽研究で世界をリードする、柴田 一成(しばた かずなり)大学院理学研究科附属天文台長・教授に、宇宙研究の現在についてお話をうかがいました。

 

「太陽は思っていた以上に激しく爆発を繰り返しています」


(図)軟X線で見た太陽。コロナが観測できる。
コロナはループ構造をしており、北極・南極付近の
磁力線が惑星間空間に開いている領域(コロナ
ホール)は暗く見える。2001年3月28日
(提供:JAXA宇宙科学研究本部)

柴田教授によれば、太陽研究はこの十数年で飛躍的に進歩し、今も日進月歩で新たな知見が得られているという。それは、可視光による観測精度の向上に加え、紫外線やX線、Hα線といったさまざまな波長での電磁波(光)観測が行われるようになったこと、日本の「ひので」など太陽観測衛星による観測データが蓄積されてきたことなどによる。それらを解析する中で、従来とはかなり異なる太陽の実像が明らかになってきた。

太陽は、活動が活発になると黒点の数が増えることは古くから知られていたが、比較的穏やかな恒星であると考えられてきた。しかし上記のような観測によって、それまで見えていた太陽表面(光球)だけでなく上層の彩層やさらに上層のコロナ(約100万度の超高温状態にあるプラズマ)の様子まで見ることができるようになり、想像以上に激しい活動をし、日常的に爆発(フレア)を繰り返していることがわかってきた(図)。

「大規模なフレアは地球に大きな影響を与えます。だから「宇宙天気予報」が喫緊の課題です」

太陽でフレアが起きると、高エネルギーの放射線や大量のプラズマの塊が地球に向けて放出される。フレアの規模が小さい場合は、地磁気や大気に守られて地表には影響はほとんどないのだが、ある程度規模が大きくなると地表に到達し、磁気嵐を引き起こして無線通信を乱したり、発電所などの社会インフラに影響を及ぼしたりする。過去の例では、1989年に起きた大フレアではカナダで数百万世帯が停電するなどの被害が出た。宇宙空間では遮蔽物がないため影響は大きく、2003年のフレアの際は観測衛星が故障し、宇宙ステーションの飛行士が一時避難するなどの対応をした。

今後、宇宙開発が進み大気圏外での活動が増えていくと、フレアによって機器や飛行士がダメージを受ける可能性も高まる。また、太陽自身が想像以上に激しい活動をしていることがわかった以上、地表面にも大きな損害を与えるような大規模爆発が起きないとも限らない。そこで、太陽活動に伴う地球周辺の宇宙環境の変化を予測する「宇宙天気予報」が重要になる。それはフレアの発生とその規模や影響の度合いをいち早くキャッチすること、さらに進んで、フレアの発生を予知することが目標だ。柴田教授はこの宇宙天気予報の研究において、世界的に主導的役割を果たしている。自身も1994年に、観測衛星のデータを解析していてフレアの発生を察知し、全世界に向けてメールで注意を呼びかけたところ、2日後に磁気嵐が起こり、対策を取っていたおかげで電力会社が数億円規模の被害を防ぐことができ、アメリカ政府やNASAから感謝されたという経験を持つ。

「太陽の研究から、宇宙の進化の法則が見えてくる」

フレアが起きるメカニズムについては、隣接する逆向きの磁力線が接点でつなぎかわり、そのときに「パチンコ効果」と呼ばれる作用で猛烈なスピードでガスが噴出する「磁気リコネクション」という物理現象を基にしたモデルが1960年代から70年代にかけて発展させられ、長らく論争が続いていたが、今ではほぼ定説となっている。この磁気リコネクションをさらに追究していくと、太陽の彩層には小さな規模のフレア=ナノフレアがいたるところで起きていることが最新の「ひので」衛星による観測で明らかになった。また最近の観測から、宇宙の他の恒星でも、太陽と同じようなフレアが起こっていることがわかってきた。ここから柴田教授は宇宙のあらゆる天体でリコネクションが起きており、それによる爆発(ナノフレア)とジェット噴出こそが宇宙の普遍的性質ではないかと予言する「ユビキタス・リコネクション」という概念を提唱している。これは太陽(すなわち宇宙の全恒星)のコロナが超高温に加熱される仕組みを説明する統一モデルになり得るもの、ひいては宇宙の普遍的な進化の法則が見えてくるものとして、期待されている。

「そして宇宙における生命の研究、宇宙総合学へ」

柴田教授はさらに、太陽研究と地球上の生命の進化との関連について興味深いお話もされた。生命の誕生に太陽からの光や熱などが重要な役割を担ったことはよく知られるところだが、進化の過程でフレアから大きな影響を受けたのではないかという仮説だ。地球上では、過去5億年の間に5回ぐらい、種が絶滅している。そのうち恐竜の絶滅については、巨大隕石の衝突が原因とされているが、その他は原因がわかっていない。

柴田教授は、太陽で超巨大フレアが起こり、その圧倒的なエネルギーの放射線や磁力線によって、大絶滅が引き起こされたのかもしれないと考えている。長い時間の中では、それほどの規模の超巨大フレアが起こる可能性は決して排除できないからだ。また、先に通常のフレアでは地表にいるわれわれには影響はないというのが通説と書いたが、「太陽でフレアが多数発生すると交通事故が増えたり、病院の患者の容態が悪くなったりする」あるいは「地磁気の変動量と血圧の変動との間には相関関係がある」といった研究結果が、実際に国際会議で発表されており、京都大学にも「地磁気と自殺の関係」というテーマで研究されている先生がいるという。1万年に1回起きる程度の規模のフレアが、生物の進化に影響を及ぼした可能性があるかもしれないのだ。

こうして太陽(および太陽と地球の関係)の研究を突き詰めていくと、宇宙における生命の生存条件とは何か、という問題を探求することにつながっていく。柴田教授が現在ユニット長を務めている京都大学宇宙総合学研究ユニットはこういった視点から、宇宙物理や宇宙工学だけでなく、宇宙医学や宇宙生物学、さらには宇宙産業経済や文明論といった人文系の学問までも含めた壮大な挑戦を行おうとしている。

「今はね、未来をどうやって予言しようかと、一生懸命考えているんです。未来を考える中で、誰も考えつかなかった新しい概念を考えられたらすごいだろうなって・・・。こんな突拍子もないことを考える研究者が京都大学にはたくさんいます。今西錦司先生にしろ湯川秀樹先生にしろ、新しい学問は京都大学が強いのも、そんな面白さがごろごろしているからです。」
柴田教授の頭脳こそ、「爆発だらけ」なのかもしれない。

取材日:2010/7/25

コラム:京都大学大学院理学研究科附属天文台について

京都大学には現在、京都市山科区にある花山(かざん)天文台と岐阜県高山市にある飛騨天文台の2ヵ所がある。花山天文台は、大学天文台としては日本で2番目に古い1929(昭和4)年に開設され、太陽を中心にした観測・研究を続けるとともに、一般への天文学普及啓蒙活動の拠点として活動し、日本のアマチュア天文学の聖地と呼ばれることもある。現在も職員などが中心となって設立した「NPO法人花山星空ネットワーク」が主体となって、定期的に観測会などのイベントを開催している。

飛騨天文台は、地域の発展によって花山天文台の周囲が明るくなってきたため、1968(昭和43)年に後継施設として創立された。太陽分光観測では世界屈指のドームレス太陽望遠鏡や太陽全面の磁場とHα線観測では世界最高性能を誇る太陽磁場活動望遠鏡(SMART望遠鏡)などがあり、太陽観測の世界的拠点となっている。

さらに現在、国立天文台、名古屋大学他と共同で、3.8m新技術光学赤外線望遠鏡を岡山県に設置する計画が進んでいる。

Profile

1954年大阪府生まれ。小さい頃から「自分はどうしてここに存在しているのか」というようなことを考えていたという柴田 一成(しばた かずなり)教授。「大きくなったら、人里離れた山の中でひとり研究に没頭するような学者になりたい」と思っていたが、中学1年の時に「ガモフ全集」を読んで感動し、天文学に強く惹かれることになったとおっしゃいます。そして自由な学風に憧れて京都大学理学部に入学。「梅棹先生の大ファンだったので人類学もいいなと思ったんですが、僕は食べ物の好き嫌いが多いし恐がりなので探検はできないので断念しました」。大学院では「宇宙物理学最大の謎を解いてノーベル賞を取ろう」という野望を抱いて、銀河の中心から吹き出している謎のジェットを解明するべく、太陽で起きている爆発の研究を始められました。「これが思った以上に有効でした。太陽と驚くほど似たメカニズムで、宇宙の至る所で爆発現象が起きていることがわかってきたんです」と柴田教授はおっしゃいます。2009年には宇宙天気予報の基礎研究としての太陽活動現象の究明に貢献したと認められ、文部科学省科学技術政策研究所から「科学技術への顕著な貢献2009(ナイスステップな研究者)」に選定されました。また研究内容がわかりやすく解説されている近著「太陽の科学」(NHKブックス、2010年1月刊)は講談社科学出版賞を受賞しました。