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京都大学をささえる人びと

2019年秋号

京都大学をささえる人びと

24時間365日、集まり続ける地震データを整理

澤田麻沙代さん
防災研究所 技術室

マグニチュード6以上の大きな地震が多く起こり、毎年のように台風・豪雨による河川の氾濫・土砂災害・洪水に見舞われ、火山の数も多い日本。自然の脅威を身近に感じながら過ごす私たちにとって、自然災害のメカニズムの解明や、防災・減災の手立てを探る防災研究所(防災研)の役わりは大きい。約20名の技術職員たちが、研究施設や観測所に設置された実験機器や観測機器の開発や維持管理、データの管理などの任務に励んでいる。

日本付近で発生する震度1以上の地震は、年に1000回以上。人間が揺れを感じない小さな地震(微小地震)は、さらにその3倍以上におよぶ。日本付近では、マグニチュード8を超える巨大地震が多く発生することから、巨大地震の予測や発生メカニズムの解明には、観測データの収集と分析は必要不可欠だ。

防災研究所附属地震予知研究センターでは、微小地震の観測システムを運用。岐阜県から宮崎県にかけて設置された8つの観測所の他、多くの観測点でも365日24時間途切れることなく計測し続けている。収集した厖大なデータの管理を担うのが、澤田麻沙代さんをはじめとする防災研技術室の技術職員たち。「観測データだけでなく、観測点の緯度と経度などの位置情報や、計測機器の情報、メンテナンス履歴、地権者の情報までもが管理対象です。データをいかに使いやすく整理できるかを考え、工夫しています」。

採用直後は桜島で体力勝負

15年前に入所した澤田さん。はじめての配属先は、鹿児島県の桜島火山観測所だった。島内および周辺の小島には11の観測点があり、島外には13の観測点があった。「桜島での仕事は体力勝負。島内をまわり、水準測量で地盤の変動を測ったり、離島での人工地震観測に参加したりしました。30キログラムのバッテリーを背負って山を登り、地震計のメンテナンスをしたことも(笑)」。

桜島で2年間勤務したのち、宇治キャンパスの地震予知研究センターに異動。「当時、紀伊半島において30ほどの臨時地震観測点を展開するプロジェクトがあり、地震観測点の新設のためにかけ巡りました。候補地の下見や地権者との交渉、設置、データ処理からサーバー管理まで、はじめて一連の仕事に携わることができました」。

次世代システムの管理人

今は日常的な任務に加えて、防災研の飯尾能久教授が取り組む「満点計画」のデータ管理と、データベースの構築にも携わっている。これは観測点の数を桁違いに増やそうという試みで、「満点システム」と名付けられた地震観測システムの開発に端を発するもの。防災研を中心に、各地の地震研究者や中小企業などと共同で、2006年頃から取り組んでいる。「地震計は1.5キログラム、記録装置は1.2キログラムです。記録装置は徹底して低消費電力化されたので、単一乾電池が24本あれば半年間観測できます。もう重いバッテリーを背負う必要はありません(笑)」。

安価で高精度、メンテナンスの手間も少ない満点システムを使えば、「万点規模」の観測網が築ける。数が多いほど、震源断層をより正確に診断することができるので、データの量と質の飛躍的な向上が期待されている。

「満点計画」の観測網(出典・国土地理院)

従来の地震計(左)と満点計画で開発した地震計(右)

現在、近畿や島根・鳥取県周辺、長野県西部、ニュージーランドにおよそ300か所の観測点を設置。規模が大きくなれば、データも厖大に。「半年間で、一観測点あたり4ギガバイトの記録カードを5~6枚使用しているので、全観測点の合計は1500枚、約6テラバイトのデータが集まります」。これらのデータとともに、観測に関するあらゆる情報を管理する。

澤田さんが骨折りでつくりあげたのは、観測点を維持管理するための情報だけではなく、解析に必須の位置情報や機材の特性値などの関連した情報も管理できるウェブデータベースシステム。「他大学と共同で鳥取県西部地震震源域に1000点の臨時観測(0.1満点観測)をしたときも、関係者間で情報を共有するために、データベースと連携したウェブページを作りました。活用していただけてうれしかったです」。

澤田さんは教育大学の出身。専攻は理系だが、何か専門的な知識を身につけたわけではなかった。「もともとパソコンは苦手でした。求められるものに応えたくて、勉強と挑戦を続けています」。室内に所狭しと積み上げられた無数のサーバーの重苦しさを跳ね飛ばすような、明るい笑顔でいることを心がけている。


さわだ・まさよ
1980年、大阪府に生まれる。奈良教育大学卒業。

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