遺伝子のスイッチを「光」と「薬剤」で制御できる新技術を開発 -発生・幹細胞・神経科学研究への貢献に期待-

ターゲット
公開日

今吉格 生命科学研究科特定准教授、山田真弓 同特定助教らの研究グループは、哺乳類細胞において、「青色光」により遺伝子のスイッチ(遺伝子発現)を効率良くオン・オフできる新しいテトラサイクリン誘導系(Tet)システムを世界で初めて開発しました。

本研究成果は、2018年10月10日に、米国の国際学術誌「Cell reports」のオンライン版に掲載されました。

研究者からのコメント

山田特定助教

脳の神経幹細胞からいかにして多種多様な神経細胞やグリア細胞が生み出されるのかに興味を持って研究を続けてきました。この謎に迫るために、幹細胞の増殖や分化に関与する遺伝子のダイナミックな発現パターンを人工的に制御する技術の開発に取り組んできました。

本研究では、ヒトを含む哺乳類細胞の遺伝子発現を「青色光」と「薬剤」によって精密にコントロールできる技術の開発に成功しました。この技術を用いて、これまで解析が困難であった神経幹細胞の分化制御メカニズムの解明に取り組みたいと考えています。今後はさらにこの光操作技術の改良を行い、将来的には再生医療への貢献を目指したいと思います。

概要

これまで酵母細胞などでは、光もしくは薬剤を用いて遺伝子発現を制御する技術は知られていましたが、哺乳類細胞ではその効率が必ずしも満足いくものではありませんでした。そこで、本研究グループは、シロイヌナズナ由来の光受容体に着目し、それを従来のTetシステムと組み合わせることにより、遺伝子発現のオン・オフを「青色光」と「薬剤」で制御できる新しい技術の開発に成功しました。この技術(PA-Tetシステム)を用いることにより、マウスの脳の神経幹細胞や神経細胞あるいは皮膚中に存在する細胞など、さまざまな哺乳類細胞において、それらの遺伝子発現を光と薬剤で効率良く制御できることが示されました。

本研究成果によって、幹細胞の細胞増殖や細胞分化に関与する遺伝子のダイナミックな発現パターンを「光」と「薬剤」によって人工的に操作することが可能となり、発生・幹細胞・神経科学研究への貢献が期待されます。

図:本研究のイメージ図

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1016/j.celrep.2018.09.026

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/234704

Mayumi Yamada, Yusuke Suzuki, Shinji C. Nagasaki, Hiroyuki Okuno, Itaru Imayoshi (2018). Light Control of the Tet Gene Expression System in Mammalian Cells. Cell Reports, 25(2), 487-500.e6.