強度近視の失明メカニズムに関わる遺伝子変異を発見 -失明予防法開発の第一歩-

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山城健児 医学研究科非常勤講師(大津赤十字病院眼科部長)、辻川明孝 同教授らと、東京医科歯科大学、シンガポール国立眼科センターの研究グループは、8913人の日本人データと331人のアジア人データを解析することによって、黄斑症の発症にCCDC102Bという遺伝子・分子が強く関与していることを発見しました。

本研究は、2018年5月3日に国際学術誌「Nature Communications」にオンライン公開されました。

研究者からのコメント

近年、世界で近視が急増しており、特に近視の程度が強い「強度近視」は日本の失明原因の1位となっています。しかし、今まではその失明の予測や予防ができなかったために、強度近視による失明はあまり注目されてきませんでした。本研究では強度近視の失明原因となる黄斑症の発症に関わる遺伝子・分子CCDC102Bを発見できました。さらに、CCDC102Bは近視・強度近視が発症する段階には無関係であることも分かったことから、もし、強度近視になっても、その後の黄斑症の発症や失明は予防できる可能性があることも分かりました。今後はさらに研究を進めて、強度近視眼における黄斑症発症や失明の予防法開発を目指すとともに、強度近視による失明のリスクについての啓蒙にも力を入れていきたいと考えています。

概要

近年、世界で近視が急増しています。近視だけが原因となって失明することはほとんどありませんが、近視の程度が強い「強度近視」では黄斑症という合併症が生じて失明することがあります。日本では、失明( WHO 基準の矯正視力 0.05 未満)の原因の 1 位は強度近視ですが、最近では日本人の 10% 以上が強度近視となっており、強度近視による失明が今後の大きな社会問題となる可能性があります。

近視の発症背景については世界中で様々な研究が行われてきましたが、強度近視から黄斑症が発症する機序についてはあまり解明されていなかったため、強度近視の人の中で誰が黄斑症を発症して、誰が失明するのかを予測することは難しく、黄斑症による失明の予防はほぼ不可能でした。

本研究グループは、黄斑症の発症に CCDC102B という遺伝子・分子が強く関与していることを発見し、その研究成果により、遺伝子検査で強度近視眼における失明予測が可能になることが期待されます。さらに、この CCDC102B は近視・強度近視が発症する段階には無関係であることも分かり、強度近視が発症するまでの段階に関わる背景因子と、その後に黄斑症が発症する段階に関わる背景因子は異なっており、もし強度近視になっても、黄斑症の発症や失明は予防できる可能性があることも分かりました。

図:黄斑症の発症に関わる遺伝子・分子 CCDC102B の関与について

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41467-018-03649-3

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/231095

Yoshikatsu Hosoda, Munemitsu Yoshikawa, Masahiro Miyake, Yasuharu Tabara, Noriaki Shimada, Wanting Zhao, Akio Oishi, Hideo Nakanishi, Masayuki Hata, Tadamichi Akagi, Sotaro Ooto, Natsuko Nagaoka, Yuxin Fang, Nagahama Study group, Kyoko Ohno-Matsui, Ching-Yu Cheng, Seang Mei Saw, Ryo Yamada, Fumihiko Matsuda, Akitaka Tsujikawa & Kenji Yamashiro (2018). CCDC102B confers risk of low vision and blindness in high myopia. Nature Communications, 9, 1782.