研究成果

非造影・非侵襲の「光超音波イメージング技術」によって手掌動脈の可視化と血管形状の定量解析に成功


2018年02月02日


     戸井雅和 医学研究科教授、松本純明 医学部附属病院特定助教らの研究グループは、無被ばくで造影剤の使用無しに血管を高精細に画像化できる「光超音波イメージング技術」を用いて、20~50歳台の健常な男女を被験者とする探索的臨床研究を行いました。その結果、手掌動脈の極めて精細な3D画像が得られ、同技術により加齢に伴う手掌動脈の湾曲傾向を定量的に解析することに成功しました。

     本研究成果は、2018年1月15日に学術誌Scientific Reportsのオンライン版で公開されました。

    研究者からのコメント

    左から、戸井教授、松本特定助教

     光超音波イメージング技術は生体に安全な光を照射し、生体内にある光吸収体(ヘモグロビン)から生じる超音波を受信して画像化する技術です。

     私たちはこれまで、この光超音波イメージング技術を用いて乳癌患者さんの腫瘍関連血管イメージングを中心に研究を行ってきました。乳癌などの悪性腫瘍では異常な血管の新生が惹起されます。また、糖尿病、循環器疾患、リウマチなどの膠原病関連疾患等では末梢血管の傷害をしばしば伴います。これらの病態においては血管の変化がキーとなっていることは明らかです。そこで私たちは多彩な疾患の病態形成に関連する血管の構造を非造影・非侵襲で画像化することが重要であると考えてきました。なぜなら、これまでの画像診断装置で血管構造を精細に描出するためには造影剤が必要になりますが、そのような疾患に苦しんでおられる患者さんこそ、本来ならば造影剤などの侵襲は避けなければならない方であり、また、検診での利用を考えた場合にも非侵襲であることは大切な条件と考えられるからです。

     今回、健常者の手掌動脈を非造影・非侵襲で画像化できただけでなく、血管構造の詳細な形態解析に耐えうる画像が得られたことには大きな意味があると考えられます。今後、光超音波イメージング技術は生体血管解析における有力なツールになり、様々な疾患の病態解析、治療効果の分析、さらに新薬開発などにも寄与しうる画像モダリティになることが期待されます。

    概要

     血管は血液の通り道であり、生体全体に酸素や栄養を届けるために大切な器官です。加齢や疾患などによって、血管の構造が変化することが知られており、健常人と疾患者の血管形状比較により、生活習慣病などの疾患リスクを評価できる可能性があります。

     これまでの血管イメージングでは、造影剤が必要であったり、被ばくのあるX線を用いたり、あるいは高価なMRI検査を受けて画像を取得する必要がありました。一方で、造影剤が不要で侵襲のない超音波診断装置に搭載されているドップラー画像によっても血流画像化が可能ですが、その解像度には限界がありました。このため、健常人での血管イメージングの研究はこれまであまり行われてきませんでした。

     本研究グループは、生体の血管構造解析の第一段階として、手掌の血管に着目しました。光超音波イメージング技術を用い、20~50歳台の健常な男女22名の手掌血管を撮像し、動脈が加齢に伴って湾曲する様子を科学的に画像化しました。主に解析した血管は、総掌側指動脈(手のひらを縦に走る3本の動脈)と固有掌側指動脈(親指を除く各指の両側8本の動脈)です。年齢階層ごとにグループ分けして血管の形状を数値に落とし込み、統計解析を行った結果、加齢に伴って曲率が有意に大きくなっていることがわかりました。

     本研究グループは、これまで光超音波イメージング技術を用いて乳癌の腫瘍関連血管の画像化研究を行ってきました。装置の改良により血管の構造が精細に画像化されるようになっただけでなく、乳癌の研究で行ってきた解析のノウハウを応用し、血管の半自動抽出(トレーシング)技術を開発して血管の曲率を計算することができました。

     今回の結果は生活習慣に起因する動脈硬化の様子を反映していると考えられます。局所の血管状態が全身性疾患の兆候、あるいは発病後はその進行度などを反映している可能性があります。また、先天性の血管変化などの性状の観察も可能と考えられます。本研究グループは引き続いてデータを蓄積し、データの信頼性を高めるとともに、健常血管、病的血管の鑑別法の検討や新しい診断手法の開発などを行う予定です。

    図:光超音波イメージング技術を用いた手掌の血管画像

    (左上)得られた光超音波像のMIP(最大強度投影)画像、(右上)皮膚表面の深さに応じて着色した図(青が表皮近く、赤が深い部分にある血管)、(左下)表面近くの血管を画像上から削除し、深い位置にある血管を描出した画像、(右下)血管をトレーシングして形状解析に用いた図

    詳しい研究内容について

    書誌情報

    【DOI】https://doi.org/10.1038/s41598-018-19161-z

    【KURENAIアクセスURL】http://hdl.handle.net/2433/229013

    Yoshiaki Matsumoto, Yasufumi Asao, Aya Yoshikawa, Hiroyuki Sekiguchi, Masahiro Takada, Moritoshi Furu, Susumu Saito, Masako Kataoka, Hiroshi Abe, Takayuki Yagi, Kaori Togashi and Masakazu Toi (2018). Label-free photoacoustic imaging of human palmar vessels: a structural morphological analysis. Scientific Reports, 8, 786.


    非造影・非侵襲の「光超音波イメージング技術」によって手掌動脈の可視化と血管形状の定量解析に成功
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