雷が反物質の雲をつくる -雷の原子核反応を陽電子と中性子で解明-

ターゲット
公開日

榎戸輝揚 白眉センター特定准教授、和田有希 東京大学博士課程学生、古田禄大 同博士課程学生、中澤知洋 同講師、湯浅孝行 博士、土屋晴文 日本原子力研究開発機構研究副主幹、佐藤光輝 北海道大学講師らの研究グループは、雷が大気中で原子核反応 (光核反応) を起こすことを突き止めました。

本研究成果は、2017年11月23日午前3時に英国の学術誌「Nature」 に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、榎戸特定准教授、中澤講師、和田博士課程学生、古田博士課程学生

日本の冬季雷雲は、強力な雷雲や雷を研究する絶好の観測ターゲットです。国内には、私たちのように宇宙観測や素粒子・原子核実験の手法を用いるグループのみならず、大気電気やレーダー観測、気象シミュレーションを駆使して雷に挑む多様な研究者がおります。今後は、分野の枠を超え、多様な手法を組み合わせた学祭的な研究コラボレーションを構築し、 「雷雲や雷の高エネルギー大気物理学」という新しい分野を切り拓いていきたいと考えています。また本研究は、学術系クラウドファンディングを通して市民サポーターの方にも支えられてきました。この場を借りてお礼を申しあげます。

概要

雷は人間にとって身近な自然現象であるにも関わらず、発生の「きっかけ」には未解明な問題が多く残されています。近年、雷や雷雲は自然界における天然の加速器として働き、電子を光速近くまで加速できると指摘されています。最近では、加速された電子が大気分子に衝突して放出される高エネルギーのガンマ線を、最先端の装置で観測できるようになりました。特に、雷雲の上空から宇宙に向かって駆け上がる高エネルギーのガンマ線が人工衛星で検出されるようになり、地球からのガンマ線と呼ばれ、活発な研究の対象になっています。近年始まったこれら雷の高エネルギー現象の研究こそが、雷発生の秘密を解き明かす鍵と考えられています。

冬の北陸の日本海沿岸には毎年、強力な雷雲が押し寄せ、世界的にも数少ない恵まれた雷の観測場所になります。これまでにも本研究グループは、雷雲や雷の高エネルギー放射を地上から観測してきました。その過程で、加速された電子からのガンマ線が、雷雲の通過に伴って数分間にわたり地上に降り注ぐ現象「ロングバースト」を既に発見し、雷の前駆現象として注目されています。過去の観測を通して、この数分間の「ロングバースト」とは別に、1秒以下の短時間に強力なガンマ線が到来する「ショートバースト」という謎の突発現象があることを把握していましたが、詳細は分かっていませんでした。

本研究グループは、地上に放射線検出器を設置し、2017年2月6日に新潟県柏崎市で発生した雷から、強烈なガンマ線のバースト放射(ショートバースト)を検出しました。さらに35秒ほど遅れて、雷を起こした雲が検出器の上空を通過する際に、陽電子(電子の反物質)からの0.511MeV(イオンや素粒子のエネルギーの単位)対消滅ガンマ線の検出に成功しました。これらは、雷に伴うガンマ線が大気中の窒素と光核反応を起こした結果生じる、「中性子」と「窒素の放射性同位体が放出した陽電子」が起源と考えられ、理論的に予言されていた「雷による光核反応」の明確な証拠が得られました。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/nature24630

Teruaki Enoto, Yuuki Wada, Yoshihiro Furuta, Kazuhiro Nakazawa, Takayuki Yuasa, Kazufumi Okuda, Kazuo Makishima, Mitsuteru Sato, Yousuke Sato, Toshio Nakano, Daigo Umemoto & Harufumi Tsuchiya (2017). Photonuclear reactions triggered by lightning discharge. Nature, 551(7681), 481-484.

  • 朝日新聞(11月23日 5面)、京都新聞(11月23日 26面)、読売新聞(11月23日 35面)および科学新聞(12月8日 6面)に掲載されました。