研究成果

小児T細胞性急性リンパ性白血病における極めて高い悪性度に関連する融合遺伝子を発見 -PU.1/SPI1融合遺伝子-


2017年07月07日


     小川誠司 医学研究科教授、滝田順子 東京大学准教授、関正史 同助教、木村俊介 同研究員らの研究グループは、小児T細胞性急性リンパ性白血病(T-ALL)において、極めて高い悪性度に関連するSPI1融合遺伝子(染色体・ゲノムの組換えの結果、複数の遺伝子が連結されて生じる新たな遺伝子で、融合タンパク質をコードするもの。SPI1遺伝子はPU.1タンパクをコードしている)を約4%の例に同定しました。SPI1融合遺伝子はT細胞の分化の停止と細胞増殖をもたらし、それが白血病化を引き起こす可能性を示しました。この成果は、T-ALLの予後予測、精度の高い分子診断法の開発に貢献し、治療の最適化の実現に役立つものと期待されます。

     本研究成果は、2017年7月4日午前0時に英国の学術誌「Nature Genetics」のオンライン版で公開されました。

    研究者からのコメント

     本研究によって日本人における小児T-ALLのゲノムの全体像が明らかになっただけでなく、極めて高い悪性度と関連するSPI1融合遺伝子の特性も明らかとなり、T-ALLの分子病態の理解と新たな治療戦略の可能性に大きな進展をもたらしました。

     今後はエピゲノムの解析を加えた統合的解析を行い、さらなる治療標的やバイオマーカーの同定を目指します。

    本研究成果のポイント

    • 小児T細胞性急性リンパ性白血病(T-ALL)において、極めて高い悪性度に関連する遺伝子異常として、PU.1/SPI1融合遺伝子を世界で初めて複数例に同定した。
    • 大規模シークエンスによるがんゲノム(遺伝情報)の網羅的な解読を行い、小児T-ALLの遺伝子異常、ゲノムの構造変化、遺伝子発現の全体像を明らかにした。
    • 新規SPI1融合遺伝子を有するT-ALLは、遺伝学的特性と臨床的特性がその他のT-ALLとは大きく異なることが明らかとなり、正確な分子診断による治療の適正化に役立つものと期待される。

    概要

     白血病は血液中の細胞のうち、白血球になるもとの細胞から発生する悪性腫瘍です。小児期の悪性腫瘍の中では最も高頻度に発生し、T-ALLは小児白血病の約15%を占めています。薬物療法を中心とした集学的治療の強化により全体として約70%の治癒が期待できますが、小児では特に成長障害、臓器機能障害、不妊など、治療後に発生する障害(晩期障害)が大きな課題となっています。また、治療抵抗例や再発した場合の治癒は極めて難しいのが現状です。従って、分子病態に立脚した治療の最適化は、小児T-ALL患者の治癒率改善と重篤な副作用や晩期障害の回避に重要といえます。

     本研究グループは、次世代シーケンサー技術を用いて、小児T-ALL123例のゲノム上にみられる遺伝子異常や融合遺伝子を含む構造変化、遺伝子発現の異常の全体像を解明しました。その結果、極めて高い悪性度に関連するSPI1融合遺伝子を約4%の例に同定しました。また遺伝子発現パターンと分子学的特徴から小児T-ALLは5群に分類されることを見出し、それぞれの群を特徴づける遺伝子発現や遺伝子異常と臨床的特性を明らかにしました。SPI1融合遺伝子を有する群は、他とは異なる特徴的な一群であることを示し、新たなT-ALLのサブグループであることを示しました。

    図:新規SPI1融合遺伝子例とその他のT-ALL症例の生存期間の関係

    生存期間について解析するとSPI1融合遺伝子例において明らかに死亡例が多く、全8例中7例が診断後3年以内に死亡していることがわかった。

    詳しい研究内容について

    書誌情報

    【DOI】 https://doi.org/10.1038/ng.3900

    Masafumi Seki, Shunsuke Kimura, Tomoya Isobe, Kenichi Yoshida, Hiroo Ueno, Yaeko Nakajima-Takagi, Changshan Wang, Lin Lin, Ayana Kon, Hiromichi Suzuki, Yusuke Shiozawa, Keisuke Kataoka, Yoichi Fujii, Yuichi Shiraishi, Kenichi Chiba, Hiroko Tanaka, Teppei Shimamura, Kyoko Masuda, Hiroshi Kawamoto, Kentaro Ohki, Motohiro Kato, Yuki Arakawa, Katsuyoshi Koh, Ryoji Hanada, Hiroshi Moritake, Masaharu Akiyama, Ryoji Kobayashi, Takao Deguchi, Yoshiko Hashii, Toshihiko Imamura, Atsushi Sato, Nobutaka Kiyokawa, Akira Oka, Yasuhide Hayashi, Masatoshi Takagi, Atsushi Manabe, Akira Ohara, Keizo Horibe, Masashi Sanada, Atsushi Iwama, Hiroyuki Mano, Satoru Miyano, Seishi Ogawa & Junko Takita (2017). Recurrent SPI1 (PU.1) fusions in high-risk pediatric T cell acute lymphoblastic leukemia. Nature Genetics.

    • 産経新聞(7月4日 26面)および毎日新聞(7月13日 14面)に掲載されました。

    小児T細胞性急性リンパ性白血病における極めて高い悪性度に関連する融合遺伝子を発見 -PU.1/SPI1融合遺伝子-
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