脂質の挙動をありのままに再現する蛍光プローブでラフトの形成機構を解明

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楠見明弘 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)教授、鈴木健一 同特定拠点准教授、松森信明 九州大学教授、木下祥尚 同助教、村田道雄 大阪大学教授らの共同研究グループは、脂質の動きを「ありのまま」に再現する蛍光性の脂質アナログ分子(蛍光性化合物を目印に結合させた脂質分子の類似体)を合成することで、細胞膜上においてラフト(液体の細胞膜中に特定の脂質とタンパク質が集合した領域)が形成される様子を観察することに成功しました。

本研究成果は、2017年3月22日に米国の学術誌「Journal of Cell Biology(Tools)」のオンライン版で公開されました。

研究者からのコメント

代表的ラフト脂質であるスフィンゴミエリンの蛍光アナログ分子を開発したことで、今後、ラフト研究に大きく貢献すること、さらにラフトが関わるシグナル伝達の異常や感染症の解明に大きく寄与することが期待されます。

概要

細胞膜には、スフィンゴミエリンなどの特定の脂質が集まったラフト領域と呼ばれる数ナノから数十ナノメートルの特殊領域が多数点在しており、この25年来、細胞膜の重要な働きである信号伝達機能のかなりの部分を担っていると仮定されてきました。しかし、これまでラフトの実態はよく分かっていませんでした。

そこで本研究グループは、スフィンゴミエリン脂質に蛍光を発する分子を目印として結合させ、ラフトへの出入りを解明することに成功しました。今までの同様の試みでは、目印の結合により脂質の性質が変わってしまったのですが、蛍光の目印を水になじみやすいように工夫して脂質に結合させることで、この問題の解決を試みました。

新たに合成した蛍光スフィンゴミエリンをラフト様領域を含む人工膜に取り込ませたところ、天然のスフィンゴミエリンと同様の割合で、ラフト様領域に局在することが分かりました。さらに、細胞膜上での1分子観察によって、蛍光目印のついたスフィンゴミエリンはラフト結合型受容体分子とラフト内で結合と解離を繰り返していること、しかも、結合時間は10ミリ秒程度であること、さらに受容体が活性化されると、結合時間は5倍も延びることなど、従来の教科書の記述を書き換えるような発見がなされました。

図:(上)新たに合成したスフィンゴミエリン蛍光アナログ分子。(下)従来の蛍光アナログ脂質との違い。親水性の蛍光分子とリンカーを用いることで、天然の脂質と同じ振る舞いができる。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1083/jcb.201607086

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/219127

Masanao Kinoshita, Kenichi G.N. Suzuki, Nobuaki Matsumori, Misa Takada, Hikaru Ano, Kenichi Morigaki, Mitsuhiro Abe, Asami Makino, Toshihide Kobayashi, Koichiro M. Hirosawa, Takahiro K. Fujiwara, Akihiro Kusumi and Michio Murata. (2017). Raft-based sphingomyelin interactions revealed by new fluorescent sphingomyelin analogs. The Journal of Cell Biology.