「分化」する超分子集合体を発見、その制御に成功 -ファイバーとシートを選択的に作り分け 分子の自己組織化を制御する新手法に道-

ターゲット
公開日

関修平 工学研究科教授、杉安和憲 国立研究開発法人物質・材料研究機構主任研究員、河合信之輔 静岡大学准教授らの研究グループは、分子が自発的に集合して形成される超分子集合体(水素結合や配位結合などの比較的弱い相互作用によって分子が集合したもの)について、一つの初期状態から全く異なる二つの状態が得られる「分化現象」を発見しました。
さらに、成長の「タネ」として添加する超分子集合体の種類を変えることで、1次元のファイバー状集合体と2次元のシート状集合体を選択的につくり分けることに成功しました。

本研究成果は、2016年12月20日午前1時に英国科学雑誌「Nature Chemistry」誌のオンライン版で公開されました。

研究者からのコメント

本研究成果は、分子の自己組織化を制御する新手法として今後の材料創製研究に新たな展開をもたらすと期待されます。自己組織化は、材料化学、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーなど多岐にわたる学際分野できわめて重要な概念であり、物質の新たな合成手法として注目を集めています。

また、本研究は、自己組織化を制御するための新手法として、今後の材料創製研究に新たな展開をもたらすと期待されます。例えば、生体分子システムのように、時間や場所、状況に応じて分化し、必要な機能を発現するようなスマートマテリアルの設計にも役立つ可能性があります。

概要

分子が自発的に組織化する現象(自己組織化)は、ナノスケールの有機材料をボトムアップ的に創製するアプローチとして注目を集めています。しかしながら、自己組織化のプロセスは、熱力学的な安定性のみを反映して自発的に進行するため、思いのままにコントロールすることが非常に困難です。また、得られる集合体のサイズ(長さや面積)はふぞろいであり、均質な材料を得ることはできませんでした。

今回、研究チームは、熱力学的に準安定(真の安定状態ではないが、ある一定期間安定に存在できるような状態)な超分子集合体に関する研究を進めていたところ、ある種の分子について、一つの初期状態から全く異なる二つの状態が得られることを発見しました。本研究は、この「分化」のような現象が、複数の自己組織化過程が複雑に影響を及ぼし合うことで発現されていることを明らかにしました。

そして、このメカニズムの理解を推し進めることによって、成長の「タネ」として添加する超分子集合体の種類と量を変えることで、1分子幅のナノファイバーの長さや、1分子厚のナノシートの面積を制御することに成功しました。さらに、これら1次元および2次元の超分子集合体が、同一の分子から構成されているにもかかわらず異なる電子的特性を有していることを明らかにしました。

図:今回の現象を利用して、1分子厚のナノシートの面積を制御することに世界で初めて成功した。 (スケールバー:500nm)

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
http://dx.doi.org/10.1038/nchem.2684

Tomoya Fukui, Shinnosuke Kawai, Satoko Fujinuma, Yoshitaka Matsushita, Takeshi Yasuda, Tsuneaki Sakurai, Shu Seki, Masayuki Takeuchi and Kazunori Sugiyasu. (2016). Control over differentiation of a metastable supramolecular assembly in one and two dimensions. Nature Chemistry.