悪い子の良い行動から何を読み取るか? -自閉スペクトラム症を持つ小学生・中学生の善悪判断-

ターゲット
公開日

米田英嗣 白眉センター特定准教授、柳岡開地 教育学研究科博士課程学生、子安増生 同名誉教授、楠見孝 同教授らの研究グループは、浜松学院大学、福井大学、翔和学園、甲南大学、金沢大学、平谷こども発達クリニックなどと共同で、自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder 以下、ASD)がある小中学生に、登場人物の特性と行動、物語の結末を操作した文章を読んだ後に、登場人物に対して善悪判断を行ってもらいました。その結果、ASDがある小学生、中学生は、登場人物の特性よりも、明示された行動に基づいて善悪を判断することがわかりました。

本研究成果は、2016年11月29日午後7時に英国の科学誌「Scientific Reports」誌に掲載されました。

研究者からのコメント

この研究から、ASDを持つ小中学生は、定型発達の小中学生よりも、登場人物の特性よりも一時的な行動を手がかりに、善悪の判断をしていることがわかりました。他者の判断をする際に、その人が持つ特性よりも、その状況における行動に基づいて判断するということは、先入観にとらわれず判断できる可能性があるかもしれません。今後は、ASDを持つ人に対する詐欺被害の防止や、いじめ抑止につながる研究を進めていこうと思います。

概要

自閉症スペクトラム児は、悪意の理解が困難であると言われています。たとえば、相手がだまそうとする際に相手の悪意に気がつかないことがあります。こうしたことは、自閉症児および成人は他者の行動といった外的な情報は理解できるにも関わらず、人物の特性といった内的な情報を利用することが難しいことを示しています。近年の研究では、善意による行為が他人に害を与えてしまう状況について、自閉症者は、定型発達者と異なり、悪い行為であると評価することが示されました。

そこで本研究グループは、ASDがある小中学生19名と定型発達の小中学生20名に、登場人物の特性と行動、物語の結末を操作した文章を読んだ後に、登場人物に対して善悪判断を行ってもらいました。

その結果、一人の登場人物を読み返しの出来ない状況で判断する場合(実験1)、二人の登場人物を比較可能な状況で判断する場合(実験2)の両方において、ASDがある小学生、中学生は、登場人物の特性よりも、明示された行動に基づいて善悪を判断することがわかりました。特に、ASDを持つ小中学生が、一時的に良い行動を示した普段は悪い子に対して「良い子」であると判断しやすいことが示されました。ASDの児童が、他者の悪意を理解することが困難な原因として、他者が持っている特性に基づいて推論し、その人がこれから行いそうなことを予測することが困難である可能性が示されました。

図:実験1における善悪判断におけるASD群とTD群の差異

善悪判断は、良い子・悪い子を2件法で答えるので、「良い子」と答えていない場合は、「悪い子」と答えていることになる。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
http://dx.doi.org/10.1038/srep37875

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/217452

Hidetsugu Komeda, Hidekazu Osanai, Kaichi Yanaoka, Yuko Okamoto, Toru Fujioka, Sumiyoshi Arai, Keisuke Inohara, Masuo Koyasu, Takashi Kusumi, Shinichiro Takiguchi, Masao Kawatani, Hirokazu Kumazaki, Michio Hiratani, Akemi Tomoda & Hirotaka Kosaka. (2016). Decision making processes based on social conventional rules in early adolescents with and without autism spectrum disorders. Scientific Reports, 6: 37875.

  • 京都新聞(11月30日 31面)、産経新聞(11月30日夕刊 10面)、毎日新聞(12月1日 22面)、福井新聞(11月30日 8面)および日刊県民福井(11月30日 21面)に掲載されました。