Ruナノ粒子の構造と触媒活性との関連を見いだす -局所構造、平均構造の数値化で実現 機械学習用データを集積し新材料の創製に貢献-

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公開日

北川宏 理学研究科教授、坂田修身 国立研究開発法人物質・材料研究機構高輝度放射光ステーション長らの研究グループは、高いCO酸化触媒活性を持つルテニウム(Ru)ナノ粒子のわずかな構造の違いが、触媒機能に影響する可能性を明らかにし、局所的な原子スケールの構造と平均構造の両方を数値化することで実現しました。今後、本研究のようにナノ粒子の構造を数値化し、機能との関係のデータを蓄積することで、機械学習などデータ科学の手法を用いた新機能性物質の創製をますます加速させると期待されます。

本研究成果は、「Physical Chemistry Chemical Physics」誌の2016年10月27日発行号(現地時間)に掲載されました。また一部の相補的な結果は2016年8月10日に「Scientific Reports」誌に掲載されています。

研究者からのコメント

今回の研究から、活性や機能とは一見関係のないと考えられていたナノ粒子の中の原子配列構造の特徴が、触媒活性と関係づけられることが示唆されました。今後、新規創製されるさまざまなナノスケールの機能性粒子について系統的に研究を進め、 ナノ粒子内の局所的な近距離構造と平均構造に関するデータを機械学習に使えるように蓄積することで、データを活用した情報統合型物質・材料研究(マテリアルズ・インフォマティクス)基盤の形成を目指します。

概要

材料の中には、ナノ粒子のように小さくすることで優れた機能を発現するものがあります。本研究グループは、これまでにバルク(ナノメートルスケールにくらべてはるかに大きいサイズをもつ立体的な結晶や固体)では六方最密充填(hcp)構造しか持たないルテニウム(Ru)をナノメートルサイズまで小さくすることで、新たに面心立方格子(fcc)タイプの構造を有するRuナノ粒子を作ることに成功し、従来のhcpタイプの構造を有するRuナノ粒子より高いCO酸化触媒活性を有することを発見していました。しかし、なぜhcpタイプのRuナノ粒子より高いCO酸化触媒活性を持っているかは分かっていませんでした。原因の一つとして、ナノ粒子の多くは、ある程度規則的に原子が並んでいますが、粒子中の原子数が多くないこともあり、規則的な格子位置からはずれている原子の存在を無視できないことが挙げられていました。

そこで本研究では、Ruナノ粒子の原子の隣同士のような近距離の局所構造とナノ粒子の全体の平均構造を調べ、触媒活性との関係を調べました。まず、Ruナノ粒子の結晶構造情報を、国立研究開発法人理化学研究所が所有するSPring-8の高エネルギーX線回折・散乱を測定して詳細に調べました。原子間の距離を関数とした原子の個数分布と原子の結合角度の分布の幅から定義される構造パラメーターで構造を数値化したところ、fccの粒子サイズが3.5nmから5nm付近では、局所的に見ると構造秩序が良くなる反面、ナノ粒子全体の格子歪と平均的な原子位置の乱れは大きくなる結果を得ました。

この結果から、ナノ粒子中の平均構造(格子歪と平均的な原子位置の乱れ)と触媒活性とが関係づけられることを見いだしました。

図:面心立方格子構造(fcc)タイプのRuナノ粒子と六方最密充填構造(hcp)タイプのRuナノ粒子の原子スケールの逆モンテカルロ(RMC)モデリングの結果から得られた構造秩序パラメーター(Oeder Parameter)のナノ粒子のサイズとの関係

各Ruナノ粒子のサイズは透過型電子顕微鏡像の結果から求めた。挿入図は粒子サイズによるCO触媒活性の変化を示している。(図中右上)触媒活性の尺度であるT 50 はCOの反応率が50%に達する温度を示すので、T 50 が低い(矢印の下側方向)ほど高い触媒活性を持っていることを示している。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 http://dx.doi.org/10.1039/c6cp04088h

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/217217

L. S. R. Kumara, Osami Sakata, Shinji Kohara, Anli Yang, Chulho Song, Kohei Kusada, Hirokazu Kobayashi and Hiroshi Kitagawa. (2016). Origin of the catalytic activity of face-centeredcubic ruthenium nanoparticles determined from an atomic-scale structure. Physical Chemistry Chemical Physics.

【DOI】 http://dx.doi.org/10.1038/srep31400

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/217248

Chulho Song, Osami Sakata, Loku Singgappulige Rosantha Kumara, Shinji Kohara, Anli Yang, Kohei Kusada, Hirokazu Kobayashi & Hiroshi Kitagawa. (2016). Size dependence of structural parameters in fcc and hcp Ru nanoparticles, revealed by Rietveld refinement analysis of high-energy X-ray diffraction data. Scientific Reports, 6:31400.