iPS細胞を用いた新しい心臓病治療法を開発

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南一成 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)特定拠点助教、柴祐司 信州大学准教授らの研究グループは、カニクイザルを用いて、重症の心臓病患者に対する新しい再生医療として、iPS細胞を使った心筋再生治療法を開発しました。

本研究成果は、2016年10月11日午前0時に、英国の科学雑誌「Nature」に掲載されました。

研究者からのコメント

本研究では、免疫拒絶反応が起きにくい特殊なカニクイザルからiPS細胞を作製し、心筋梗塞を発症した通常のカニクイザルにiPS細胞から作った心筋細胞を移植することで、細胞の生着と心臓機能の回復が確認されました。しかし、心筋細胞を移植された動物においては、一過性に不整脈の増加が副作用として見られたため、今後副作用を軽減していくための研究が必要となります。

本研究成果のポイント

  • 重症の心臓病患者に対する新しい再生医療として、iPS細胞を使った心筋再生治療法を開発
  • ヒトに近いカニクイザルを用いて治療効果を確認
  • 株式会社イナリサーチが供給体制を確立した免疫拒絶反応が起きにくい特殊なカニクイザルと、通常のカニクイザル双方を用いて検討
  • 免疫拒絶反応が起きにくいカニクイザルからiPS細胞を作製し、心筋梗塞を発症した通常のカニクイザルにiPS細胞から作った心筋細胞を移植したところ、細胞の生着と心臓機能の回復を確認

概要

生体のさまざまな組織に分化する能力をもつ多能性幹細胞(ES細胞またはiPS細胞)は、ほぼ無限の増殖能力と多くの細胞に分化する能力をもっているため、再生医療への応用が期待されています。一方、心筋梗塞を始めとする心臓病は罹患率・死亡率ともに高く、新たな治療法の開発が望まれています。これまでの研究はヒトから作製した(ヒト由来)心筋細胞を別の動物に移植する「異種移植」による検討でした。異種移植の検討では、移植する細胞と移植を受ける宿主が異なる動物種であるため、移植後の免疫拒絶反応を評価することは不可能となっていました。

そこで本研究グループは、拒絶反応が起きにくいカニクイザルを同定し、このサルからiPS細胞を作製しました。次に通常のカニクイザルに心筋梗塞を発症させ、カニクイザル同士(同種移植)で心筋細胞移植を行いました。

その結果、移植された心筋細胞はほとんど拒絶反応の影響を受けずに生着し、心筋梗塞後の心臓機能の回復が確認できました。

拒絶反応が起きにくいカニクイザルを同定し、このサルからiPS細胞を作製した。次に通常のカニクイザルに心筋梗塞を発症させ、カニクイザル同士(同種移植)で心筋細胞移植を行った.。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
http://dx.doi.org/10.1038/nature19815

Yuji Shiba, Toshihito Gomibuchi, Tatsuichiro Seto, Yuko Wada, Hajime Ichimura, Yuki Tanaka, Tatsuki Ogasawara, Kenji Okada, Naoko Shiba, Kengo Sakamoto, Daisuke Ido, Takashi Shiina, Masamichi Ohkura, Junichi Nakai, Narumi Uno, Yasuhiro Kazuki, Mitsuo Oshimura, Itsunari Minami & Uichi Ikeda. (2016). Allogeneic transplantation of iPS cell-derived cardiomyocytes regenerates primate hearts. Nature.

  • 京都新聞(10月11日夕刊 1面)、産経新聞(10月11日 10面)、中日新聞(10月11日夕刊 12面)、毎日新聞(10月11日夕刊 9面)および読売新聞(10月12日 35面)に掲載されました。