大腸がん形成を促進する炎症因子としてプロスタグランジンE2-EP2受容体経路を発見 -EP2を標的とした大腸がんの予防・進展抑制薬の開発に期待-

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青木友浩 医学研究科特定准教授、成宮周 名誉教授(同特任教授)らの研究グループは、大腸炎に伴い大腸がんを発症するマウスモデルを用いて、腸がん形成進展を促進する大腸での炎症反応がPGE 2 -EP2経路により制御されていること、EP2を阻害することが大腸がんの治療戦略となりえることを解明しました。

本研究成果は、米国科学誌「Cancer Research」誌(電子版)に5月27日付けにて掲載されました。

研究者からのコメント

左から青木特定准教授、成宮名誉教授

本研究成果から、EP2が大腸がん発生・進展を抑制するための薬物の標的分子となりえることが明らかになりました。今後、EP2の働きを特異的に阻害する薬剤の開発により、副作用がなく、より安全な大腸がんに対する新規の薬物予防・進展抑制法の確立を目指します。

概要

大腸がんは、罹患率、死亡率とも高いがんの一つで、世界的には年間120万人以上の方が新たに大腸がんと診断され、60万人以上の方が大腸がんで亡くなっています。古くから大腸がんの罹患リスクを低下させることが知られているアスピリンなどは、生理活性脂質である一連のプロスタグランジン(PG) の合成を阻害して効果を発揮します。このことは、PG経路が大腸がんの発生・進展に関与していることを示していますが、その機序、とくに、PGがどのように大腸での炎症に関与してがんの発生・進展に関係するかは不明でした。

そこで、本研究グループは大腸炎に伴い大腸がんを発症するモデルマウスを用いて、PG経路が大腸での炎症にどのように関与し、この経路がどのようにしてがんの発生・進展を引き起こすかを検討しました。結果、炎症性大腸がんの形成に寄与するPG受容体として、PGの一種であるPGE 2 の受容体の一つEP2を同定しました。また、ここで見出したEP2の働きを抑制することが大腸がんの予防・治療に結びつくかを検討するため、選択的EP2阻害薬をモデルマウスに投与し、これが用量依存的に大腸での炎症とがん形成を抑制できることを明らかにしました。


PGE2-EP2経路による大腸内での炎症反応制御と大腸がん促進作用(左)およびEP2阻害薬の治療薬としての可能性(右)

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1158/0008-5472.CAN-15-0125

Xiaojun Ma, Tomohiro Aoki, Tatsuaki Tsuruyama, and Shuh Narumiya
"Definition of Prostaglandin E2–EP2 Signals in the Colon Tumor Microenvironment That Amplify Inflammation and Tumor Growth"
Cancer Research Published OnlineFirst May 27, 2015

  • 朝日新聞(6月23日 33面)、京都新聞(6月23日 25面)および科学新聞(7月3日 4面)に掲載されました。