悪性脳腫瘍(低悪性度神経膠腫)の遺伝子異常の全体図を解明 -悪性脳腫瘍に関する最大規模のゲノム解析を実施-

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公開日

小川誠司 医学研究科教授、夏目敦至 名古屋大学医学研究科准教授を中心とした共同研究チームは、300例以上の低悪性度神経膠腫の遺伝子解析を行い、公開されている約400例の症例を合わせて700例を超える世界最大規模の網羅的遺伝子解析を行い、700例以上の低悪性度神経膠腫における遺伝子異常の全貌を明らかにしました。

本研究成果は、2015年4月14日0時(日本時間)に、米国科学誌「Nature Genetics」に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、鈴木啓道 医学研究科研究員、夏目准教授、小川教授、青木恒介 医学研究科研究員

悪性脳腫瘍について、これだけの多数例で詳細なゲノム解析が行われたのは初めてであり、今回の研究成果が脳腫瘍の発生、進展に関わるメカニズムの解明や、治療法の開発につながることを期待します。治療の発展により、この病気で苦しむ患者さんたちが治ることを望みますし、私たちもそのようにできるよう今後も研鑽を積んでいきます。また、本研究は多くの大学から検体提供等協力を頂いた、日本発の大規模研究であり、ご尽力いただきました皆さまにこの場を借りて厚く御礼を申し上げます。

本研究成果のポイント

  1. 700例以上の低悪性度神経膠腫における遺伝子異常の全貌を明らかにしました。
  2. 低悪性度神経膠腫は遺伝子異常に基づいて明確に三つのサブグループに分けられます。
  3. それぞれのサブグループにおいて起こりやすい遺伝子異常を同定しました。
  4. それぞれの遺伝子異常に対し、腫瘍の発生から進展までどの段階で生じているか明らかにしました。
  5. 低悪性度神経膠腫は異なった遺伝子異常をもつ複数の腫瘍細胞群から構成され、多様性に富んだ複雑な腫瘍であることが明らかとなりました。

概要

低悪性度神経膠腫(WHO grade II/III glioma)は頻度の高い脳原発悪性腫瘍です。進行は比較的ゆっくりですが、脳に染み込むように増殖するため、完治させることが極めて困難な病気です。多くの患者さんでは初回治療の数年から数十年後に、より悪性度の高い腫瘍として再発し、死に至る病気であり、新しい治療の開発が期待される病気であります。そのため、低悪性度神経膠腫においてどのような遺伝子異常が生じているのか、これらの遺伝子異常が腫瘍の発生や悪性化に対してどのような役割をもっているかを解明する必要があります。

そこで、本研究チームは、300例を超える症例を対象として、最先端の遺伝子解析技術を駆使し低悪性度神経膠腫の網羅的遺伝子解析を行い、遺伝子異常の全体図を明らかにしました。本解析は、低悪性度神経膠腫について行われたものの中では、これまでで最大規模の網羅的解析であり、低悪性度神経膠腫の分子病態の解明に大きな進展をもたらします。

図:低悪性度神経膠腫における遺伝子異常の全貌。合計757例の解析結果

詳しい研究内容について

悪性脳腫瘍(低悪性度神経膠腫)の遺伝子異常の全体図を解明 -悪性脳腫瘍に関する最大規模のゲノム解析を実施-

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/ng.3273

Hiromichi Suzuki, Kosuke Aoki, Kenichi Chiba, Yusuke Sato, Yusuke Shiozawa, Yuichi Shiraishi, Teppei Shimamura, Atsushi Niida, Kazuya Motomura, Fumiharu Ohka, Takashi Yamamoto, Kuniaki Tanahashi, Melissa Ranjit, Toshihiko Wakabayashi, Tetsuichi Yoshizato, Keisuke Kataoka, Kenichi Yoshida, Yasunobu Nagata, Aiko Sato-Otsubo, Hiroko Tanaka, Masashi Sanada, Yutaka Kondo, Hideo Nakamura, Masahiro Mizoguchi, Tatsuya Abe, Yoshihiro Muragaki, Reiko Watanabe, Ichiro Ito, Satoru Miyano, Atsushi Natsume & Seishi Ogawa
"Mutational landscape and clonal architecture in grade II and III gliomas"
Nature Genetics Published online 13 April 2015

掲載情報

  • 京都新聞(4月14日 27面)、産経新聞(4月14日 24面)、中日新聞(4月14日 3面)、日刊工業新聞(4月14日 27面)、毎日新聞(4月14日 6面)および読売新聞(4月14日 37面)に掲載されました。