高温超伝導体を用いた新しいテラヘルツ光源における温度分布の可視化と制御に成功 -小型コヒーレントテラヘルツ光源の実現につながる重要な手がかり-

ターゲット
公開日

辻本学 日本学術振興会特別研究員(工学研究科)と 掛谷一弘 工学研究科准教授の研究グループは、高温超伝導体を用いたテラヘルツ光源における温度分布の可視化と制御に成功し、温度分布とテラヘルツ発振強度の関係をはじめて明らかにしました。この成果によって、高出力連続テラヘルツ光源を設計することが可能となります。

本研究成果は、アメリカ物理学会「Physical Review Applied」にて2014年10月29日に公開される予定です。

研究者からのコメント

左から掛谷准教授、辻本特別研究員

これまで高温超伝導テラヘルツ光源の温度分布と出力の関係についてさまざまな議論がなされてきましたが、本研究の手法で説得力のある実験結果を示し、それらの関係を明らかにすることができて大変嬉しいです。効率的な冷却が高出力化につながるという結論のわかりやすさが、高い評価をいただけた理由であると考えます。

今後も高温超伝導テラヘルツ光源の実現をめざし、よりいっそう研究に励みたいと思います。また、今回このような発表の機会をいただけたことに深く感謝いたします。

ポイント

  • 高温超伝導小型コヒーレントテラヘルツ光源における温度分布の可視化に成功
  • 発熱による過剰な温度上昇を抑制することで高出力なテラヘルツ発振を実証
  • 数値シミュレーション解析により効率的な冷却方法を提案

概要

テラヘルツ帯(テラは10の12乗を指す接頭語)の電磁波を用いたテラヘルツ技術は、医療診断、セキュリティー検査、タンパク質の構造解析、高速無線通信、宇宙観測など、幅広い分野への応用が期待されています。テラヘルツ波の最大の特徴は、電波のような高い透過性と光のように優れた空間分解能をあわせ持つことです。このテラヘルツ波の連続光源の候補として、高温超伝導体のナノ構造を利用した超伝導テラヘルツ光源が2007年に発明されました。それ以降、光源の実用化を目指し、これまで精力的な研究が世界中で行われてきましたが、莫大なジュール熱による温度上昇が超伝導状態を破壊し、結果として光源の出力が低下してしまうという技術的問題が指摘されていました。

本研究グループは今回、極低温環境でも有効な温度イメージング装置を構築し、微小サイズの光源表面における特徴的な温度分布の可視化に成功しました。そして温度分布とテラヘルツ発振強度の比較ができる特殊な構造を有した光源を用いて実験を行い、過剰な温度上昇を抑制することでテラヘルツ発振の高出力化を実証しました。さらに、得られた結果を数値シミュレーション解析することで、高出力テラヘルツ光源の実現につながる効率的な冷却方法を提案しました。

超伝導テラヘルツ光源が実用化されれば、これまで半導体素子を中心に発展してきたテラヘルツ技術に革命的な進歩をもたらし、我が国の科学技術の発展にも大きく貢献することが予想されます。


図:(a)超伝導テラヘルツ光源の電流電圧特性。(b)高電流域、(c)低電流域における発振強度の電圧依存性。挿入図は可視化した温度分布。過剰な温度上昇を抑制することで発振強度が増大していることがわかる。

詳しい研究内容について

高温超伝導体を用いた新しいテラヘルツ光源における温度分布の可視化と制御に成功 -小型コヒーレントテラヘルツ光源の実現につながる重要な手がかり-

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1103/PhysRevApplied.2.044016

M. Tsujimoto, H. Kambara, Y. Maeda, Y. Yoshioka, Y. Nakagawa, and I. Kakeya
"Dynamic Control of Temperature Distributions in Stacks of Intrinsic Josephson Junctions in Bi2Sr2CaCu2O8+δ for Intense Terahertz Radiation"
Physical Review Applied 2(4) 044016 published 29 October 2014

掲載情報

  • 日刊工業新聞(10月23日 19面)に掲載されました。