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2006年10月2日

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「研究、教育及び医療の協力に関する協定書」 詳細

【概要】
  国立大学法人 京都大学(京都府京都市、総長:尾池和夫)と独立行政法人 放射線医学総合研究所(千葉県千葉市、理事長:米倉義晴)は、放射線科学領域において世界をリードし、併せて優れた高度な専門的人材の育成を行い、当該領域に対する社会のニーズに応えるべく、研究・教育及び医療にかかわる活動を連携して推進するための包括的な協力協定を締結した。

  本協定は、わが国で放射線科学領域に関して最も多くの部局と研究者を要する京都大学が、当該領域を強化・展開すべく学内における組織連携を推進する計画をスタートさせたことを機に、放射線防護研究、緊急被ばく医療研究、重粒子線がん治療研究、画像医学(分子イメージング)研究などで放射線と人の健康にかかわる研究を総合的に推進してきた放射線医学総合研究所と、研究・教育及び医療の分野で密接な連携・協力体制を構築することを目指して締結されるものである。この協定により国際競争力を高め、世界における放射線科学領域の研究拠点形成を目指すものである。

【協定締結の背景】
  放射線科学は、諸科学の基盤である素粒子物理学に始まり、エネルギー付与過程から化学過程、生物過程を経て人体影響までを対象とする領域研究として成立するもので、非常に広範な分野を包括している。この領域は、たとえば放射線の医学応用などの基盤をなす学問であり、現代の社会の根幹技術とも深く関わっている。本協定は、京都大学と放医研というこの分野の先導的な研究・教育機関の包括的な研究協力により、国際競争力を高め、世界における放射線科学領域の研究拠点形成を目指すものである。

  京都大学は、20世紀初頭においてすでに放射線科学領域においてわが国のみならず、世界の研究拠点としての役割を果たしてきた。第二次世界大戦直後に組織された原爆被害調査団で京都大学が中心的役割を果たしたことは、これを物語っている。京都大学は現在でも放射線科学にかかわる多くの研究科や研究所・センターを有し、量子ビーム理工学、原子力科学、放射線化学、放射線生物学、放射線医薬学など多様な専門性をもつ研究者を擁している。この多様性を生かして総合的な領域研究としての放射線科学を展開させるため、京都大学では学内連携により放射線科学の研究教育拠点形成を推進している。しかし領域科学としての放射線科学は、多様な分野を包含するもので、これには本学のみならず、さらに広範な人材と研究資源を必要とする。そのため他研究組織との連携は必須であり、現在国内外の諸研究機関と協力協定の締結が進められている。今回の協定はその魁となるものである。

  放医研は、昭和32年の設立以来、一貫して放射線安全と放射線の医学利用に関わる研究を実施し、平成18年4月からは、「放射線医学に関する科学技術の水準の向上」を目的とした第2期中期計画をスタートさせた。同計画では、優れた治療成績をあげている重粒子線がん治療研究や放射線生体影響研究、最先端の画像診断技術を駆使した分子イメージング研究等の放射線ライフサイエンス研究を推進するとともに、放射線安全や緊急被ばく医療にかかわる研究や業務を着実に実施し国民の安全と安心に寄与することとしている。こうした分野の研究・業務では、放射線科学に関する広範な知の集積をはかるとともに、国内外の研究機関の設備や人的資源の有効活用が不可欠であり、大学をはじめとする諸研究機関と積極的に包括的な連携協力協定を締結している。

【連携協力の範囲と形態】
  今回の協定は、放射線医学分野に関する研究・教育及び医療について、両機関間で包括的に連携、協力するためのものである。具体的には下記の5項目の連携協力を実施する。
  1. 研究、教育及び医療に関すること
  2. 教職員、学生、研究生等の交流に関すること
  3. 研究資料、刊行物及び研究情報の交換等に関すること
  4. 施設、設備の共同利用に関すること
  5. 上記のほか両者間で合意した事項
【有効期間】
  協定の有効期間は、締結日より平成22年3月31日までとしている。

【京都大学の取組み】
  〔放射線物理理工学研究〕に関して京都大学はこれまで多くの研究実績を有している。放射線のもっとも基本的過程であるあるエネルギー付与とその分布の解析では、本学は高いレベルのビーム理工学技術を有しており、イオンの加速・蓄積・冷却、電子の加速・蓄積とそれによる放射光発生が可能な施設でイオンビームによる生体照射と放射光による定量的分析が行われている。加えて原子炉・加速器による中性子線源が完備しており、多様な放射線についての研究では国内の他組織の追随を許さない実績を誇っている。

  〔放射線生物学研究〕の発展は、DNA損傷が放射線などの外因のみならず生命の複製に不可避のものであることが明らかにした。そのため、損傷応答と修復に関わる遺伝子が生命の維持の根幹をなしていることが明らかになりつつあり、放射線生物学は発がんおよびがんの治療のみならず、発生や老化とも深い関係をもつ基本的研究分野として発展している。本学はわが国唯一の放射線生物学に関する全国共同利用センターを有し、放射線によるDNA損傷応答と修復の分子機構において、新規の修遺伝子の同定・クローニングや、放射線の経世代研究に高い実績を誇っている。また原子力に関わる医学・生物学研究や環境放射能安全研究も実施されている。

  〔放射線医学・薬学研究〕については、本学のレベルは極めて高い。がんの治療の分野においては高輝度X線と画像技術を組み合わせた高度の技術に基づいた治療技術の開発、その独創性を世界に誇りうる中性子補足療法の開発、放射線よりも侵襲性の少ない核磁気共鳴技術をもちいた4次元画像技術の開発と応用、放射薬品の開発に基づいた画像技術の先進化などで、わが国のみならず、世界をリードする臨床新技術研究の数々を生み出している。これらの実績に基づき、本学の当該分野は、国内外に多くの人材を送り出している。実際にわが国の当該領域の発展は、本学出身の人材によって支えられている部分が多い。

  このように放射線科学の基礎から応用まで広範な分野を有している点で、京都大学の当該領域に占める位置は独特のものがある。これらの研究実績をさらに先鋭化して社会に貢献するため、まず本年より学内で「放射線科学」連携組織を立ち上げるべく申請をおこなっている。本協定締結は、放射線科学領域を学外に展開する最初の取り組みである。


【放医研の取組み】
  独立行政法人 放射線医学総合研究所は、放射線による人体への影響と障害
予防、診断・治療方法の開発、並びに放射線の医学利用に関する研究開発を総合的に行う我が国唯一の中核的研究期間として、独創的で先進的な業務に取り組んでいる。

  〔放射線防護研究〕に関しては、環境における放射性物質の動態と低線量放射線影響研究や発達期被ばく影響、宇宙放射線による生体影響に関する研究など放射線防護基準策定に寄与する研究を実施。国際原子力機関(IAEA)の協力センターにも選定されるなど、国際的な基準・規制策定等にも寄与している。〔緊急被ばく医療研究〕に関しては、我が国の緊急被ばく医療体制の中核機関(中央防災会議の定める三次被ばく医療機関)として位置付けられ、急性放射線障害の機構・治療研究や緊急時の線量評価研究及び除染剤・防護剤研究において多くの成果を挙げるとともに、先のJCO臨界事故時には三人の被ばく患者を受け入れる等、具体的な貢献も行った。また、〔放射線先進医療研究〕に関しては、独自に開発した重粒子がん治療装置(HIMAC)を用いた重粒子線治療研究や高度画像診断技術などの放射線先進医療研究実績が世界的に高く評価され、平成15年10月、HIMACによるがん治療装置の小型普及機開発に向けた研究に加えて、ゲノム診断研究、粒子線生物研究、先端遺伝子発現研究といった基礎研究にも注力している。また、平成17年11月1日付けで発足した「分子イメージング研究センター」のもとで進められている〔分子イメージング研究〕では、世界的な分子イメージング研究の隆盛と平成17年度に文部科学省の分子イメージング研究プログラムのPET疾患診断研究拠点に採択されたことを受け、我が国の当該分野の優秀な人材を集中させることによって、国際的にも最高レベルの研究センターとするための研究開発に注力している。

  これらの研究は人類の健康の維持と安全・安心の社会を構築する上で極めて重要であると考えられ、今後とも放射線に関する総合研究機関として、放射線安全や医学利用に関する研究成果の世界への発信と、緊急被ばく医療体制及び国際的基準の枠組み整備に貢献するべく取り組んで行く。