鹿児島県三島村で発見されたタケシマヤツシロラン -光合成も咲くこともやめた新種の植物-

鹿児島県三島村で発見されたタケシマヤツシロラン -光合成も咲くこともやめた新種の植物-

2013年11月7日


末次研究員

 末次健司 人間・環境学研究科研究員(日本学術振興会特別研究員)は、日本に生育する菌従属栄養植物の分布の整理に取り組んでおり、その一環として、 鹿児島県鹿児島郡三島村竹島において調査を行ったところ、2012年4月に未知の菌従属栄養性のラン科植物を発見しました。

 この植物は、ラン科のオニノヤガラ属に属する植物で、既知種のなかではハルザキヤツシロランの近縁ですが、花の内部構造などから、新種として記載され、Gastrodia takeshimensis (和名:タケシマヤツシロラン) と命名されました。

 本研究成果は、フィンランド植物学会発行の「Annales Botanici Fennici」誌の12月号(電子版は2013年10月10日に公開済み)に掲載予定です。


図:今回、新種記載されたタケシマヤツシロランの自生地での生育状況と、花の解剖写真 (花が開かないまま受粉が終了している。Annales Botanici Fennici, 50: 375–378.より許可を得て転載)

概要

 植物相に関する調査研究が比較的進んでいる日本においては、高等植物の新種は、1年で数えるほどしか記載されません。またそのほとんどが、地元で既にその存在が知られていて和名がついているもの、もしくは、これまで知られていた植物が、詳細に検討した結果、複数種に分かれることが判明したかのどちらかです。つまり、日本において全く未知の植物が、未知の自生地とともに見つかるということは非常に珍しいことです。

 植物の中には、光合成能力を失い、他の植物や菌類から糖を含むすべての養分を略奪するという特異な進化を遂げた従属栄養植物と呼ばれる植物が存在します。これらの植物は光合成を行う必要がないため、花期と果実期しか地上に姿を現しません。さらに花期は非常に短く、地上に現われても小さく目立たないものが多いため、発見が困難です。また光合成器官が退化しており、分類形質が少ないため、同定も容易ではありません。これらの特徴から、植物の調査研究が比較的進んでいる日本においても、ほとんどの種類における菌従属栄養植物の正確な分布情報については、謎が多く残されています。このような謎の解明のため分布情報の整理に取り組んでおり、その一環として、鹿児島県三島村竹島において調査を行っていたところ、未知の菌従属栄養性のラン科植物を発見しました。

 この植物は、オニノヤガラ属に属し、既知種の中ではハルザキヤツシロランの近縁と考えられます。しかしながら、(1) 花筒が開かない (2) 唇弁の基部が花筒に合着し、さらに通常、唇弁の基部に見られる瘤上の付属器官を持たない (3) 花筒が細長い (4) 開花時期の背が高い、などの特徴から容易にハルザキヤツシロランとの違いを識別できます。そのため本種は、新種として記載され、Gastrodia takeshimensis (和名:タケシマヤツシロラン) と命名されました。

発見の意義と課題

 本種の大きな特徴として閉鎖花しかつけないことが挙げられます。本種の属するラン科は、昆虫などの送粉者との関係により多様化したグループで、その多くが特定の送粉者を呼び寄せるために、独特な花形態を進化させています。しかしながらタケシマヤツシロランは、すべての花が閉鎖花という非常に変わった特徴を持っています。一般的に、閉鎖花には、送粉者のいない環境下や資源が乏しい環境下で、確実に子孫を残すための保障として存在するものであり、閉鎖花しかつけない植物はきわめて珍しいといえます。本種は、一般的な植物のイメージから想像される「光合成を行う」、「花を咲かせる」という重要な形質を両方失っている点で、いわば「植物であることをやめた植物」ともいえます。極めて特殊な生態を持つ本種がどのような適応を遂げ、進化してきたかを解明することは重要な課題です。今後、栄養を得ている菌類の特定や、閉鎖花しかつけない要因などの生態学的な課題の研究に取り組む予定です。

書誌情報

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/179434

[論文アクセスURL] http://www.sekj.org/PDF/anb50-free/anb50-375.pdf

Suetsugu K. (2013) Gastrodia takeshimensis (Orchidaceae), a new mycoheterotrophic species from Japan. Annales Botanici Fennici, Vol. 50, no. 5 375–378.

用語解説

菌従属栄養植物

光合成能力を失い、菌根菌や腐朽菌からから養分を奪うようになった植物のこと。ツツジ科、ヒメハギ科、リンドウ科、ヒナノシャクジョウ科、コルシア科、ユリ科、ラン科、サクライソウ科、ホンゴウソウ科などが該当し、これまで日本からは約50種類が報告されている。

閉鎖花

開花せずにつぼみの状態で自家受粉し、結実する完全自殖型の花のこと。

 

  • 朝日新聞(11月8日 37面)、京都新聞(11月8日 26面)、産経新聞(11月8日 29面)、日本経済新聞(11月8日夕刊 14面)、毎日新聞(11月8日 28面)および読売新聞(1月14日 29面)に掲載されました。