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単球のTRPM2を介したケモカイン産生が炎症の増悪につながる好中球浸潤を引き起こす。

2008年6月9日

 森 泰生 工学研究科教授らの研究グループの研究成果が、6月9日 (月曜) 午前2時(日本時間)にNature Medicine online版で公開されました。

研究成果の概要

 「炎症」は本来、創傷や感染に対する生体応答であり、損傷部位に体液、タンパク質、血球細胞群を送り込み、障害性の物質を取り除くとともに、治癒回復を促進させるという「自然免疫」としての意義を有する。しかし、炎症は最も重大な疾病の一つであるとも認識されている。炎症部位において集積した血球細胞はサイトカインを放出し、様々な細胞に働きかけネットワークを形成している。炎症部位に好中球などといった血球細胞を呼び寄せる (遊走させる) サイトカインを特にケモカイン言う。ケモカインの主な産生源として単球/マクロファージが知られている。ところで炎症部位においては、様々な細胞から活性酸素種 (Reactive oxygen species : ROS) が産生されており異物除去に働くのと同時に、単球・マクロファージなどに働きかけケモカイン産生を誘導することが知られている。また好中球は多くの ROS を産生する細胞として知られており、慢性炎症時では好中球からの持続した ROS 産生によって炎症組織の損傷が引き起こされることも分かっている。このような慢性炎症時、単球/マクロファージからの過剰なケモカイン産生は好中球を炎症部位への持続的な集積をさせ、炎症組織の損傷の原因となる。
 今回私たちは、単球・マクロファージにおいて、どのような分子メカニズムを介して ROS によるケモカイン産生が引き起こされているかを明らかにした。即ち、ROS を感知して Ca2+ を流入させるTRPM2チャネルが単球/マクロファージにおける ROSによるケモカイン産生に必須であることを明らかにした。また TRPM2 ノックアウトマウスの解析により、炎症時、特に潰瘍性大腸炎モデルマウスにおいては、炎症部位のマクロファージにおける TRPM2 によるケモカイン産生が好中球の炎症部位への浸潤を惹起し、潰瘍の形成等の炎症の増悪を引き起こすことを示した (下図)。

 今後は TRPM2 が新規抗炎症薬の創薬ターゲット分子になることが強く期待される。また炎症の慢性化・増悪は、日常生活に大きな障害をもたらし、生命も危うくすることから、最も重大な疾病の一つであり、今回の研究を基にした発症機構の解明と治療法の開発は、大きな社会的効果をもたらすことは間違いない。

  • 朝日新聞(6月11日 30面)、京都新聞(6月9日夕刊 12面)、産経新聞(6月11日 22面)、日刊工業新聞(6月10日 24面)及び毎日新聞(6月9日夕刊 2面)に掲載されました。