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  京都大学メールマガジン Vol.26
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目次:
   ◆幸島観察所を訪ねて  尾池和夫
   ◆同窓会・その他
   ◆大学の動き
   ◆研究成果
   ◆お知らせ
   ◆イベントのお知らせ
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◆幸島観察所を訪ねて  尾池和夫

【2008年7月28日(月)】

 毎週月曜日の午後は、原則として役員会を開くことになっている。この日は特別に役員会を午前にしてもらった。午後の便で宮崎へ行くためである。かなり以前から松沢哲郎さんに誘っていただきながら日程がとれなかった。松沢さんは「たった2泊3日の日程がとれないなんて、かわいそうですね」と同情されていた。

 雷をともなう強烈な集中豪雨があった。京都大学を出発する前から降り始めて、伊丹空港に着くまで激しく降っていた。伊丹空港の自家用車の停車場所と空港玄関の間だけ屋根がないので、びしょ濡れになった。前日の日曜日まで三日間、天城学長会議があり、そこで地球の温暖化の問題も議論していたので印象的な豪雨であった。

 日本エアコミューター2439便は、機材のやりくりで変更するかもしれないという予告も一度流れたが、かなり遅れて何とか飛んでくれた。豊後水道まで厚い雲で、九州地域に近づいたとたん、すっきりと海面が見おろせた。先に到着していた野生動物研究センター長の伊谷原一さんと事務長の小倉一夫さんが宮崎空港へ出迎えてくれた。

 日南海岸に沿って南へ向かう。青島パームビーチホテルに着いた。ホテルの窓から真下に見える夏の浜ではサーフィンを楽しむ人たちがいる。

【2008年7月29日(火)】

 ホテルを出て南へ向かう。気象庁のデータでは、油津でのこの日の干潮は午前9時28分であり、むき出しになった鬼の洗濯岩(洗濯板ともいう)がよく見える。洗濯岩の上でバケツを持った人がいたりするのを見ながら幸島観察所へ向かった。

 幸島観察所の施設は幸島を対岸に見る場所にある。そこに常駐して仕事している冠地富士男さんと鈴村崇文さんに会った。「まず、幸島へ」という松沢さんの声で、幸島観察所を出て船の停泊港へ向かった。救命胴衣を付けて乗り込み、冠地さんが船を運転する。

 私たちは長靴なので、砂浜ではなく近くの岩に船を着けてもらい、岩伝いに砂浜へ向かう。猿たちが出迎えてくれた。島には博士課程1年の松岡絵里子さんが一人滞在して調査中である。鈴村さんたちは浜に乗り上げて、裸足で運んできた紅藷を波打ち際に積み上げた。猿が集まる。すぐに近づく猿も、遠巻きに見ている猿もいる。

「三日前に生まれました」

 冠地さんが小猿のしがみついている母猿を紹介してくれる。

 しばらくは猿たちが藷を洗って美味しそうに食べるのを見ていたが、とうとう藷を一本猿に分けてもらって私も波で洗ってかじった。ほのかな塩味でおいしかった。

「チンパンジーの食べる物は自分でも食べたけど、ここでは藷は食べたことがなかった」

 松沢さんがいう。

「現場主義ですから」

 私は、フィールドワークの学生にも職員の仕事についても、いつも「現場に行く、現象を見る、現在を書く」という「三現則」を話す。藷を食べてみるのも現場体験なのである。幸島の現場では、まさに大学院生の松岡さんが現象を観察して記録中である。冠地さんはこの島の猿の守りをして三代目だという。

「京都大学には植物園も水族館もあるのに、どうして動物園はないのですか」

 この私の問いがきっかけで、2008年4月1日に、京都大学野生動物研究センターが開設され、この幸島の観察所も野生動物研究センターの研究拠点となった。他にも屋久島観察所、チンパンジー・サンクチュアリ・宇土の施設があり、両方ともすでに訪問した。

 幸島は天然記念物の島で、霊長類学発祥の地でもある。石波海岸から200mほどの沖合いにある周囲3.5km、標高113mの島である。以前は漁師が一人住んでいたが今は無人島で、廃屋は形をなさず、風の運んできた砂で半分埋もれていた。そこから少し谷を登った場所に「世界一過酷な観察ステーション」と松沢さんたちが呼ぶ小屋がある。住み込んで調査するときの最大の問題は水だという。幸島の周囲は砂岩の海蝕と風蝕で急な崖になっている。猿が藷を洗う入り江を、冠地さんたちは「大泊」と呼ぶ。

 対岸の石波と幸島の間は、風の運ぶ砂でつながってしまったこともあるという。荒波が砂を運び去って今は切れており、潮流は激しい。伊谷純一郎さんの最初の弟子で、猿を見守っていた吉場健二さんは、1968年、台風の高波に船を出して遭難し亡くなった。翌年、友人一同と地元の有志が、宮地伝三郎さんの文と書を石碑にした。

「石波の海のどよめき 高鳴くは幸島のサル 友よ この南国の丘に われら君の青雪をつぐ」

 島から船で港へ戻り、観察所で着替えて、飫肥城の跡を訪ね、田ノ上八幡神社の樹齢400年という大きな樟を見た。北郷温泉のホテル北郷フェニックスに立ち寄って風呂に入り、鈴村さんの家の近くの「鈴の家」で食事した。漁師の料理で、うちわ海老や伊勢海老が実に美味しかった。

 近所のスーパーで朝食を買い込んで観察所に泊まった。寝る前に庭に出て空を仰ぐと天の川が見えた。京都では見ることのできない星空で、久しぶりに牽牛と織女と白鳥座の位置を確かめた。膨張宇宙の無数の星も、カシオペア座も北極星も、実にきれいに見えていた。

【2008年7月30日(水)】

 この日は、幸島観察所を出て、都井岬、自生する蘇鉄の北限、鵜戸神宮、青島を巡って、宮崎空港から伊丹空港へ帰るという忙しい、しかし豊かな一日だった。

 観察所を出てまもなく、松沢さんが三戸サツエさんの家に立ち寄るコースを選んだ。かつて今西錦司さんと伊谷純一郎さんたちは、当初、都井岬の馬を研究するために調査に来た。そのとき、幸島に猿がいることを知って観察が始まった。それを支えたのが、1914年に広島生まれで、終戦後この市木に住み、しばらく霊長類研究所の研究員、後に非常勤講師をつとめた三戸サツエさんであった。多数の著書で、多くの賞を受けている。

「伊谷先生は、山を飛ぶように歩いて、調査していました」

 三戸さんがくり返しながら、94歳の元気な顔で、にこにこしながら伊谷原一さんの顔を懐かしそうに見ていた。

 都井岬の東部に都井岬灯台があり、その標高が255mだという。山頂まで登ったら、私の周りを水平線がぐるりとめぐり、私を原点にして、ほぼ三象限にわたって海が拡がっていた。短い草ばかりで日陰のない山肌一面に馬の糞があり、野生の馬が短い草を口でむしるように喰っていた。馬は18時間草を喰って、きれぎれに合計6時間ほど眠るという。糞が分解されて草が育ち自然に循環する。ここは「岬馬およびその繁殖地」として国の天然記念物に指定されている。「都井岬ビジターセンター・うまの館」で、身体を冷やしながら、都井岬の自然と御崎馬の生態を学んだ。

 近くに蘇鉄自生地の北限という場所があった。蘇鉄の林の中の急な石段を下りると海を見おろす崖の上に出た。蘇鉄の大きな雌花、堅い実、長い雄花が珍しく、また崖にある御崎神社の景観がよかったが、観光客はいなかった。

 岬から北へ戻る。国道からはずれて細い道をしばらく行くと鵜戸神宮である。厚い砂岩の崖を下りていくと、波打ち際に近い海蝕洞の奥に社殿が造られている。とにかく暑かったが見応えがあった。日南海岸一帯、宮崎市青島付近から鹿児島県志布志町までの約140km、面積46.43平方キロの海岸は、これらの自然によって国定公園になっており、また日本の渚百選にも入っている。

 海岸の砂岩と泥岩が交互に重なった地層は、沈降して浸食された後に少しだけ隆起した。それが一帯の「鬼の洗濯板(洗濯岩)」である。「青島の隆起海床と奇形波蝕痕」として天然記念物に指定されている。

 宮崎空港への途中、泊まったホテルに近い青島にも立ち寄ることにした。小倉さんは泊まった翌朝に島まで歩いてきたという。青島は「日本の地質百選」にも選定されている。また「青島亜熱帯性植物群落」が特別天然記念物に指定されている。歩いて近づいたが、雷注意報が出て海水浴客が陸に上がり始め、雷雲が視覚に入ってきたので、私たちも青島見物を切り上げて帰途についた。

 空港では高級マンゴー「太陽のたまご」などの宮崎の土産物を見て搭乗し、ANA508便は順調に飛行して伊丹に向かった。

◆同窓会◆

○3回 京都大学ホームカミングデイ
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h8/d2/news4/2008/081108_1_1.htm

◆大学の動き◆

○「京都大学オープンキャンパス2008」を開催しました。
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news7/2008/080808_1.htm

○尾池和夫総長が土佐高校生と懇談
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news7/2008/080807_1.htm

○京都大学VBL主催「グローバルリーダー育成カップ2008」の最終選考会・表彰式を開催しました。
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news7/2008/080803_1.htm

○京都府下・京都市域におけるVRE(バンコマイシン耐性腸球菌)の保菌状況に関する疫学調査について
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news7/2008/080731_1.htm

○iPS細胞研究センター(CiRA)を、幹細胞研究支援議員連盟が視察
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news7/2008/080801_2.htm

○農学部総合館中庭デザインコンペ
  選定結果について
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news7/2008/080723_1.htm
  表彰式
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news7/2008/080730_1.htm

○栄誉
・山中 伸弥 教授が京都創造者大賞2008特別賞を受賞
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news7/2008/080805_2.htm

・松本 紘 名誉教授(理事・副学長)が2008年Booker Gold Medalを受賞
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news7/2008/080821_1.htm

○助成金等採択結果等
・文部科学省
  大学病院連携型高度医療人養成推進事業(医学部附属病院)
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news7/2008/080729_1.htm

 専門職大学院等における高度専門職業人養成教育推進プログラム(法学研究科・経営管理教育部)
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news7/2008/080804_1.htm

 平成20年度「原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブ」(3件)
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news7/2008/080805_1.htm

◆研究成果◆

○グローバルに分布するクロロフィルd ~近赤外線を用いた光合成の重要性~
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news6/2008/080801_1.htm

○大きな骨の欠損部の再建に効果的な足場材料を開発
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news6/2008/080724_1.htm

○タンパク質の細胞内品質管理を担う新規還元酵素を発見
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/2008/news6/080725_1.htm

◆お知らせ

○「テクノ愛’08」開催のお知らせと募集案内
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news5/2008/081123_1.htm

◆イベントのお知らせ◆

○総合博物館 2008年春季企画展 「京の宇宙学―千年の伝統と京大が拓く探査の未来―」
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/2008/news4/080831_1.htm

○企画展:「アフリカ、南極、ヒマラヤ」
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news4/2008/080105_1.htm

○京都学生まちづくりコンペ2007(都市デザイン部門)最優秀賞受賞作品展示
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news4/2008/080921_2.htm

○宇治キャンパス公開2008 宇治キャンパスからのメッセージ -未来を拓くみんなの科学-
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news4/2008/081019_1.htm

○学術情報メディアセンターセミナー「大学における e-ラーニング、成功に向けて」
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h12/d1/news4/2008/080829_1.htm

○第4回 由良川フォーラム ~自然と暮らす 自然とつながる~
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news4/2008/080830_1.htm

○京都大学連続公開シンポジウム 「倫理への問いと大学の使命」(第3回) ~「研究の自由」における倫理~
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/2008/news4/080903_1.htm

○第27回 こころの未来セミナー 『言語起源の生物進化学的シナリオ』
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news4/2008/080904_1.htm

○ライフサイエンスセミナー
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h4/d2/news4/2008/080904_1.htm

○第8回 分析・評価技術公開セミナー
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/2008/news4/080910_1.htm

○第2回京都大学地球環境フォーラム - 低炭素革命と日本の選択 -
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/2008/news4/080913_2.htm

○平成20年度京都大学霊長類研究所東京公開講座 「霊長類学の最前線」
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/2008/news4/080913_1.htm

○学術情報メディアセンターセミナー 「日常生活空間における人間行動の観測と分析・モデル化」
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news4/2008/080916_1.htm

○公開シンポジウム「マツタケがつなぐ世界」
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news4/2008/080920_1.htm

○生物多様性を生み出す目に見えない繋がり
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news4/2008/080921_1.htm

○世界の友達と交流できる! パンゲア アクティビティ
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news4/2008/080927_1.htm

○防災カフェ「関西壊滅!?大地震!君は生き残れるか?」
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news4/2008/080927_1.htm

○京都大学防災研究所 平成20年度公開講座 (第19回) "防災研究の新たな地平" -新任教授が熱く語る-
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news4/2008/080930_1.htm

○京都市地域結集型共同研究事業・京都大学ナノメディシン融合教育ユニット 平成20年度活動成果報告会
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news4/2008/080930_2.htm

 >>その他のイベント情報はこちらをご覧ください。
   http://www.kyoto-u.ac.jp/ja?c2=1


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