放線菌が生産する天然物ベルコペプチンの立体化学解明と作用機序解析 -低酸素応答シグナルを標的とした抗がん剤リード化合物の開発へ期待-

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公開日

掛谷秀昭 薬学研究科教授、吉村彩 同博士後期課程学生らの研究グループは、低酸素誘導因子HIFの機能を抑制する化合物として、ストレプトミセス属放線菌が生産する天然物ベルコペプチンを見出し、その立体化学の解明と作用機序に関する有用な知見を得ました。HIFはがん分子標的治療の有望な標的であるため、本研究成果の抗がん剤リード化合物の開発への貢献が期待されます。

本研究成果は、2015年10月20日に米国科学誌「Organic Letters」にオンライン掲載されました。

研究者からのコメント

左から掛谷教授、吉村博士後期課程学生

HIFはがん分子標的治療の有望な標的として注目されています。我々は、HIF阻害剤として微生物代謝産物ベルコペプチンを見出し、その立体化学と作用機序の一部を明らかにしました。今後は構造活性相関研究やケミカルバイオロジー研究を推進することで、ベルコペプチンの抗がん剤リード化合物としての可能性を追求する予定です。

本研究成果のポイント

  • 低酸素誘導因子HIFの機能を抑制する物質として、ストレプトミセス属放線菌が生産するベルコペプチンを見出しました。
  • ベルコペプチンの立体化学を化学的分解実験や核磁気共鳴スペクトル(NMR)などの各種スペクトル解析により決定しました。
  • 各種生化学的手法によりベルコペプチンはmTORC1経路を阻害し、HIF活性を抑制することを明らかにしました。
  • HIFはがん分子標的治療の有望な標的であるため、本研究成果が抗がん剤リード化合物の開発に貢献することが期待されます。

概要

低酸素誘導因子(hypoxia-inducible factor; HIF)は転写因子として低酸素環境下の細胞の恒常性維持に関わる遺伝子群の発現を調節します。HIF-1αとHIF-1βからなるHIFは低酸素環境下のがん細胞の生存や悪性化に対して中心的な役割を果たしています。なかでもHIF-1αは酸素濃度依存的にタンパク質量が調節されているため、がん化学療法の分子標的として注目されています。

本研究グループでは、HIFを阻害する化合物の取得を目的に天然資源ライブラリーを探索(スクリーニング)した結果、ストレプトミセス属放線菌KUSC_A08株が生産するベルコペプチンを見出し、その立体化学の解明と作用機序に関する有用な知見を得ました。

ベルコペプチンによる低酸素応答シグナルの抑制

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1021/acs.orglett.5b02718

Aya Yoshimura, Shinichi Nishimura, Saori Otsuka, Akira Hattori, and Hideaki Kakeya
"Structure Elucidation of Verucopeptin, a HIF-1 Inhibitory Polyketide-Hexapeptide Hybrid Metabolite from an Actinomycete"
Organic Letters, Publication Date (Web): October 20, 2015

  • 京都新聞(12月26日 12面)および日刊工業新聞(10月26日 23面)に掲載されました。