シムケ免疫不全・骨形成不全症の原因遺伝子SMARCAL1は、DNA二重鎖切断損傷からゲノムを守る

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Islam Shamima Keka 医学研究科博士課程学生、笹沼博之 同准教授、武田俊一 同教授、山本卓 広島大学理学部教授、本間正充 国立医薬品食品衛生研究所部長らは、Schimke(シムケ)免疫不全・骨形成不全症(以下、シムケ症と略す)の原因遺伝子であるSMARCAL1の機能解析を行い、二重鎖DNA切断を修復するDNA非相同末端結合経路に重要な機能を持っていることを発見しました。このことにより、シムケ症の治療法の開発につながります。

この研究成果は、現地時間2015年6月18日付けにて英国科学誌「Nucleic Acids Research」誌に掲載されました。

研究者からのコメント

左からKeka博士課程学生、笹沼准教授

I hope our findings will help to explain the reason for severe lymphocytopenia symptoms in SIOD patients. This work should contribute to develop better treatment for the SIOD patients in future. Our findings unveil the possible reasons of developing cancer in SIOD patients.(Keka博士課程学生)

概要

シムケ症は、1971年にSchimkeらにより最初に報告された常染色体性劣性遺伝性多臓器障害です。その臨床症状は、Tリンパ細胞欠損を示す免疫不全ほか、多岐にわたります。2002年にSMARCAL1遺伝子がシムケ症の原因遺伝子である解明されました。しかし、シムケ症の患者さんから樹立した細胞は作られていたものの、その細胞の性質がSMARCAL1遺伝子の欠損によるものか、あるいは他の遺伝的違いによるものかが不明でした。また、SMARCAL1タンパク分子の機能解析からは、なぜシムケ症がTリンパ細胞の欠損を示すかも不明でした。

そこで、本研究グループでは、Smarcal1蛋白質の機能解析を行う目的で、ヒト細胞を使いTALENゲノム編集技術によりSMARCAL1変異細胞を樹立しました。この変異細胞がもとの親株の細胞と異なるのは、SMARCAL1遺伝子に変異があるか無いかのみであり、他の遺伝的違いは一切ありません。この人工的に作製した変異細胞を解析して得た主な成果は以下の通りです。

  • Smarcal1蛋白質は、非相同末端結合経路による重要である。
  • Smarcal1蛋白質は、抗がん剤の一種であるエトポシド(TopII阻害剤)や放射線治療が作る染色体DNA二重鎖切断を修復するのに重要である。
  • SMARCAL1遺伝子欠損による非相同末端経路異常がシムケ症の免疫不全を引き起こす原因になる。


左図に示したように、二重鎖DNAの切断は、二つの経路(相同DNA組換えとDNA非相同末端結合経路)によって修復されます。今回本研究グループではSmarcal1蛋白質が非相同末端経路に重要な機能を担っていることを明らかにしました。右図に示したように、二重鎖切断の末端は開いたり(Step1、左側)閉じたり(Step1、右側)しています。本研究グループが解明したことは、Smarcal1が、二重鎖DNA切断の末端を閉じた形状に戻し、非相同末端結合に必要な修復蛋白質群の結合を促進し、二重鎖DNA切断の修復(切断の再結合)を促進することです。

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1093/nar/gkv621

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/198501

Islam Shamima Keka, Mohiuddin, Yuko Maede, Md Maminur Rahman, Tetsushi
Sakuma, Masamitsu Honma, Takashi Yamamoto, Shunichi Takeda, and Hiroyuki
Sasanuma
"Smarcal1 promotes double-strand-break repair by nonhomologous end-joining"
Nucleic Acids Research, First published online June 18, 2015