超簡単!遺伝子改変動物作製法の開発 -エレクトロポレーション(電気穿孔)法による哺乳類受精卵への ZFN、TALEN、CRISPR-Casの導入に成功-

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公開日

金子武人 医学研究科附属動物実験施設特定講師および広島大学の研究グループは、エレクトロポレーション(電気穿孔)法を用いて、遺伝子改変ラットの作製に世界で初めて成功しました。

本研究内容は、英国科学誌「Scientific Reports」誌のオンライン版に掲載されました。

研究者からのコメント

左から金子特定講師、真下知士 医学研究科附属動物実験施設特定准教授

これまで、遺伝子改変動物の作製には繊細かつ熟練した技術が必要とされ、そのことが研究遂行の妨げになっていました。今回開発したテイク法を用いることにより、簡易に短期間で目的の遺伝子を改変した動物を作製することが可能となりました。この方法で開発された新規系統は、私たちが以前開発したフリーズドライ精子保存法により簡易かつ安全に系統保存することができます(2012年4月10日報告)。

本研究成果は、遺伝子改変動物を必要とする研究の加速化に大いに貢献できるものであり、今後、他の動物種での成功が期待されます。

概要

遺伝子解析研究の発展により、多くの遺伝子の機能が明らかになってきています。現在では、これら遺伝子の機能を生体レベルで評価するために、目的の遺伝子を導入あるいは欠損させた動物(遺伝子改変動物)が作製され、研究に用いられています。遺伝子改変動物は、受精卵へ目的遺伝子を導入したり、ZFN、TALENおよびCRISPR-Casなどの人工制限酵素を導入し、目的遺伝子を破壊することで作製されます。受精卵は直径が0.1mmと極めて小さく、その中に遺伝子を導入するために、マイクロマニピュレーターと呼ばれる特殊な機械が必須です。マイクロマニピュレーターは、遺伝子を導入した微細なガラス針を操作し、顕微鏡下で受精卵へ注入する方法で、その操作は繊細かつ熟練した技術を要するため、遺伝子改変動物を作製できる機関は限定され、研究が制限されているのが現状です。

一方、エレクトロポレーション法は、電気の作用により細胞に微少な穴をあけることで、そこから遺伝子を導入する方法です。この方法は、マイクロマニピュレーション法よりも容易に遺伝子導入が可能です。しかしながら、哺乳類の受精卵は透明帯と呼ばれる殻に守られており、従来のエレクトロポレーション法では透明帯に穴をあけ、そこから遺伝子を導入することは困難でした。また、一度に強い電気パルスを与えて穿孔と遺伝子導入を同時に行うために、受精卵へのダメージも大きいものでした。

本研究では、3ステップの電気穿孔を設定し、1ステップ目の電気パルスで細胞に穴を空け、2および3ステップ目の電気パルスで遺伝子を導入するという段階的な方法で、効率的に受精卵内へ遺伝子を導入することに成功しました。近年、注目されているZFN、TALENおよびCRISPR-Casの導入にも成功し、目的の遺伝子を破壊した(ノックアウト)ラットの作製に成功しました。

本研究で用いたエレクトロポレーション法による遺伝子改変動物作製法はTAKE(テイク)法と命名し、マイクロマニピュレーターや熟練した技術を必要とせずに目的の遺伝子改変動物を短期間で作製することが可能です。また、多くの動物種の受精卵への遺伝子導入にも応用が可能であるため、研究の多様化・加速化が期待されます。


3ステップのエレクトロポレーションの原理

詳しい研究内容について

超簡単!遺伝子改変動物作製法の開発 -エレクトロポレーション(電気穿孔)法による哺乳類受精卵への ZFN、TALEN、CRISPR-Casの導入に成功-

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/srep06382

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/190985

Takehito Kaneko, Tetsushi Sakuma, Takashi Yamamoto & Tomoji Mashimo
"Simple knockout by electroporation of engineered endonucleases into intact rat embryos"
Scientific Reports 4, Article number: 6382 Published 01 October 2014

掲載情報

  • 日刊工業新聞(10月2日 19面)に掲載されました。