多孔性金属錯体がパラジウムの性質を変えた -パラジウムの水素吸蔵量・吸蔵速度が2倍に向上-

ターゲット
公開日

2014年7月14日

北川宏 理学研究科教授の研究グループは、パラジウム金属(Pd)ナノ結晶の表面原子配列を精密にコントロールすることで、水素の吸蔵速度を変えることに成功しました。また、Pdナノ結晶を金属イオンと有機配位子からなる多孔性金属錯体(MOF)で被覆すると、水素吸蔵量は被覆していないPdナノ結晶に比べて2倍になり、それと同時に、水素の吸蔵/放出速度も2倍になることを発見しました。さらに、このような水素吸蔵特性の飛躍的な向上の原因が、Pdナノ結晶とMOFとの界面で起こる電荷移動であることを突きとめました。この新しい材料は、水素の貯蔵材や分離膜、燃料電池の電極触媒のほか、高効率な水素化反応触媒として大いに期待されます。

本研究成果は、英国科学雑誌「Nature Materials」および米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン版で近日中に公開される予定です。

研究者からのコメント

北川教授

年内にもトヨタ自動車株式会社から、燃料電池自動車が市販されると言われています。そのための安全で安心な水素貯蔵体は必要不可欠です。水素吸蔵合金は水素貯蔵材料として古くから注目され、長年研究開発が進められて来ましたが、実用化に向けて決め手になるような材料が無く、現状では研究開発が停滞しています。今回の私たちの発見が、水素吸蔵合金の研究開発の停滞を打破する突破口になればと期待しています。

また、Pdの結晶表面の原子配列を制御することで、さらに高い機能性材料を開発できると考えられます。シェールガス革命による天然ガスやメタンハイドレートなどの炭素資源を有効に活用し、金属ナノ結晶がMOFで被覆した革新的な新材料を利用することで、資源・エネルギー・環境問題を解決し、持続可能な社会実現に向けて大きな貢献が出来るものと期待しています。

概要

パラジウム(Pd)は面心立方格子(fcc)構造を有する白金族元素の一つです。Pdは水素化反応触媒や自動車の排気ガス浄化用の触媒(三元触媒)など、さまざまな触媒として使われています。さらに、燃料電池の電極触媒としても使用されている有用な元素です。

一方で、Pdは自身の約1,000倍の体積の水素を吸蔵することができ、水素吸蔵金属や水素分離膜としても実用化に向けた研究が盛んに行われています。現在、Pdのさらなる性能向上のために、異種金属を混ぜて合金化する手法が用いられています。

今回、本研究グループは、形状制御したPdナノ結晶を作製することにより、Pd結晶表面の原子配列を精密にコントロールし、水素の吸蔵スピードを変えることに成功しました。さらに、Pdナノ結晶の表面を有機配位子と金属イオンからなるMOFで被覆することにより、Pdの水素吸蔵量、水素吸蔵・放出スピードなどの水素吸蔵特性が飛躍的に向上することを発見しました(図)。この研究成果は、ナノ結晶表面の構造制御やMOFによる被覆化により、金属の材料特性が格段に向上することを示しており、今後、さまざまな金属とMOFとの組み合わせにより、革新的な材料が創製されると期待されます。

立方体と八面体のPdナノ結晶および立方体Pdナノ結晶@MOFのTEM写真と水素吸蔵特性の概略図

詳しい研究内容について

多孔性金属錯体がパラジウムの性質を変えた -パラジウムの水素吸蔵量・吸蔵速度が2倍に向上-

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/nmat4030

Guangqin Li, Hirokazu Kobayashi, Jared M. Taylor, Ryuichi Ikeda, Yoshiki Kubota, Kenichi Kato, Masaki Takata, Tomokazu Yamamoto, Shoichi Toh, Syo Matsumura & Hiroshi Kitagawa
"Hydrogen storage in Pd nanocrystals covered with a metal–organic framework"
Nature Materials Published online 13 July 2014

[DOI] http://dx.doi.org/10.1021/ja504699u

"Shape-Dependent Hydrogen-Storage Properties in Pd Nanocrystals: Which Does Hydrogen Prefer, Octahedron (111) or Cube (100)?"
Guangqin Li, Hirokazu Kobayashi, Shun Dekura, Ryuichi Ikeda, Yoshiki Kubota, Kenichi Kato, Masaki Takata, Tomokazu Yamamoto, Syo Matsumura, and Hiroshi Kitagawa
Journal of the American Chemical Society July 14, 2014

掲載情報

  • 京都新聞(7月26日 9面)、日刊工業新聞(7月14日 15面)および日本経済新聞(7月15日 14面)に掲載されました。