生きたマウスの白血球の中で分子活性を可視化することに世界で初めて成功 -非ステロイド性抗炎症薬は白血球を活性化する-

ターゲット
公開日

2014年5月26日

松田道行 生命科学研究科教授らの研究グループは、白血球の運動や炎症反応を制御する細胞外シグナル制御キナーゼとプロテインキナーゼAいうタンパク質の酵素活性を生きたマウスの白血球で観察することに世界で初めて成功しました。さらにこのマウスを使って、インドメサシンなどの非ステロイド性抗炎症薬が白血球を活性化させ、炎症を憎悪させることを見出しました。

本研究内容は、米国科学雑誌「Journal of Experimental Medicine(実験医学雑誌)」(米国東部時間2014年5月19日電子版)に掲載されました。

研究者からのコメント

松田教授

長い間、顕微鏡は細胞の形を見るためのものでした。しかし今や、さまざまな方法で細胞内にあるタンパク質分子の活性をも見ることができます。私たちの研究グループでは、この研究をさらに進めて、タンパク質リン酸化酵素(キナーゼ)の活性を顕微鏡下でリアルタイムに観察することができるマウスを開発し、白血球が血管外へ出る瞬間でのリン酸化酵素活性化の様子を可視化することに成功しました。今後、さまざまな組織で分子の活性をリアルタイムに観察することで、試験管内の研究ではわからなかった新しい発見が生まれるでしょう。また、細胞の動きを見ながら薬剤効果を観察することできますので、創薬研究への展開も期待されます。

概要

炎症反応は生体修復過程の一つであり、私たちの体になくてはならないものです。しかし、同時にその過剰な反応はしばしば私たちの健康を損ないます。そのため、炎症を抑制する抗炎症薬が医療では重要な役割を占めています。炎症反応は、好中球をはじめとする白血球が血管から遊出して壊れた組織や細菌を攻撃するところから始まります。組織や細菌のどんな分子が白血球を呼び寄せるのか、白血球の中でどんな分子が壊れた組織や細菌を攻撃するのに必要なのか、これまでさまざまな研究が試験管内でなされてきました。しかし、そのような生体分子の動態は生化学的に(=試験管の中で)解析できても、生体内で観察する術はほとんどありませんでした。

本研究室では、生きた個体で分子の活性を顕微鏡下に観察するために、特別なマウスを作成しています。本研究では、細胞外シグナル制御キナーゼ活性を観察するEISUKEマウスと、プロテインキナーゼA活性を観察するPKAchuマウスを使って、白血球が血管から出て、壊れた組織や細菌を認識する過程でこの二つのキナーゼがどのような時間・空間制御を受けているかを麻酔下のマウスで観察しました。そして、驚くべきことに、インドメサシンに代表される非ステロイド性抗炎症薬が白血球をむしろ活性させることを見出しました。この結果は、非ステロイド性抗炎症薬腸炎として知られる疾患の原因の一端を解明したものと考えられます。

白血球(好中球)が血管内皮に強く結合すると細胞外シグナル制御キナーゼの活性が上昇することがわかる。

詳しい研究内容について

生きたマウスの白血球の中で分子活性を可視化することに世界で初めて成功 -非ステロイド性抗炎症薬は白血球を活性化する-

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1084/jem.20132112

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/187372

Rei Mizuno, Yuji Kamioka, Kenji Kabashima, Masamichi Imajo, Kenta Sumiyama, Eiji Nakasho, Takeshi Ito, Yoko Hamazaki, Yoshihisa Okuchi, Yoshiharu Sakai, Etsuko Kiyokawa and Michiyuki Matsuda
"In vivo imaging reveals PKA regulation of ERK activity during neutrophil recruitment to inflamed intestines"
Journal of Experimental Medicine Published May 19, 2014

掲載情報

  • 日刊工業新聞(5月27日 23面)に掲載されました。