平成21年度 学部卒業式 式辞 (2010年3月24日)

第25代総長 松本紘

学位授与の様子 本日、学士の学位を授与される2,752名のみなさん、ご卒業おめでとうございます。ご来賓の沢田敏男元総長、井村裕夫元総長、名誉教授、列席の副学長、学部長、部局長をはじめとする教職員一同とともに、みなさんのご卒業を心からお祝いいたします。あわせてご家族、ご友人、関係者の皆様にもお慶び申し上げます。
  京都大学の113年の軌跡において、みなさんを含めて本学の卒業生の累計は、18万5,365名となりました。みなさんの前には18万人を超える先輩が存在することになります。

 みなさんは今後社会のリーダーとして京都大学で培われた人間力を基礎に、人類全体の生存基盤がおびやかされつつあるこの困難な時代に、世界を舞台に未来を切り拓く使命を果たさねばなりません。その使命を果たすためには、これまで習得した知識だけでは十分でないことはみなさんも重々承知されていることと思います。知識はネットワーク化され、一つの体系をなさないと臨機応変に使えるものとはいえません。また、ネットワークをなすのは個別の知識にとどまらず、その周辺にある人間関係も自然にその構成要素となります。人間関係のネットワークは融通無碍なものです。同世代のネットワークに加えて、先輩後輩友人や教師とのネットワーク、更に書物などを通じ時間軸や国境を越えたネットワーク、例えば、過去の巨星もあなたのネットワークの一員になっているかもしれません。「学問とは真実を巡る人間関係である」と私が信ずる所以であります。大学生活を通じて築かれた、時空を超えた知識のネットワークがみなさんの重器です。今後はますますネットワークを広げ、世界が直面する多元的な課題の解決に挑戦していただきたいと思います。
  かつて本学の教授を務めた哲学者・和辻哲郎先生は「成長を欲するものは、まず根を確かにおろさなくてはならない。上に伸びる事をのみを欲するな。まず下に食い入ることを努めよ。」という言葉を残されています。ネットワークはこの根に通じます。根を伸ばし、根を大きく張り、様々のよきものを自らの栄養として貪欲に吸い上げ、常に120%の目標を持ち続け自らを大樹となしてほしいと思います。

 

松本総長  みなさんはこれから社会において多くの試練に直面することになると思いますが、苦難の時にこそ、大学を思い出してください。大学というものは、学生の自学自習を鼓舞し、広い視野と深い教養を身につけるにふさわしい衍沃な土壌です。学生にとって大学は、それぞれが社会で自立できるよう自らを鍛え、強い気迫と意志、人の気持ちがわかる情の豊かさ、深く広い知識、即ち、知、情、意の充実をはかり、体力を強化し、人間力を磨き上げる場所でなければならないと私は考えています。みなさんは大学を卒業して初めて、いかに才能にあふれ、素晴らしい人々に囲まれていたかがわかることでしょう。社会人として旅立つにせよ、進学するにせよ、この卒業式で一つの区切りをつけ、新しいスタートラインに立つみなさんを、京都大学はこれからも応援していきます。卒業するみなさんがときには母校を訪ね、語らい、また同窓会活動の場として、また生涯の学習の場として京都大学を人生の基軸として積極的に活用していただけるよう願っています。
  これからも世界は大きく変貌していくことでしょう。その激動の原動力と対応力はすべて人にかかっています。このことを受け、世界の先進国は人づくりの最終段階ともいうべき高等教育に力を入れて、更なる発展の道を高等教育が生み出す技術革新にかけようとしています。一方、我が国の高等教育に対する財政支出の水準はOECD加盟国中最下位であり、最近5年間の高等教育費の伸びはOECD加盟国で唯一マイナスになっています。その結果、不況にあえぐ家計が高等教育を支えつづけなければならないという現実があります。ご家族の厚い支援に大学として御礼申し上げるとともに、卒業生のみなさんには、これまでのご家族の負担や支援に対し、今日の良き日にぜひ感謝の気持ちを伝えてください。
  本日、みなさんの卒業の記念に風呂敷を用意しました。風呂敷は「包む」、「結ぶ」、「広げる」といった使い方から、「幸せを包む」、「人を結ぶ」、「つきあいや見識を広げる」という意味に通じるといわれています。京都大学を卒業されるみなさんが、人との結びつきを大切にし、更に見識を広げ、それぞれの幸せに包みこまれますように願って、本記念品を贈ります。
  最後になりましたが卒業して、社会で活躍されるみなさんには、様々な場所で、京都大学で身につけた自学自習の精神を活かして活躍しつつ、みなさんの母校である京都大学で研究教育を続ける研究者の応援もお願いします。また、約6割を占めるみなさんは、修士課程に進学され、大学院で学び、研究を続けることになりますが、私は京都大学が優秀な人材を活かせる大学であるように、学内外で必要となる改革を進めていきたいと考えています。
  今後も絶えず自らを省みて、身体を鍛え、こころを磨き、体とこころのバランスを大切にして、ご活躍されることを願い、学士の学位を授与されたみなさんへの私のお祝いの言葉といたします。
  ご卒業おめでとうございます。

会場の様子

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