平成21年度 博士学位授与式 式辞 (2009年9月24日)

第25代総長 松本 紘

学位授与の様子 爽秋(そうしゅう)の本日、新たに156名の京都大学博士が生まれました。誠におめでとうございます。ご列席の理事・副学長、部局長、教職員とともに、課程博士128名、論文博士28名のみなさんに、また、参列されたご家族、ご友人、関係者の皆様にお慶び申しあげます。そのうち留学生は53名、女性は43名でした。1897年の創立以来、京都大学が授与した博士の学位は、みなさんで通算37,031名になります。

 今日はみなさんの「孜孜忽忽」を大いに讃えたいと思います。あまり耳慣れない言葉かもしれませんが、「孜孜忽忽」とは四文字のたたみかける言葉、四字畳語(じょうご)です。第80代内閣総理大臣羽田孜(はたつとむ)氏の名前の孜(つとむ)は「し」とも読み、「孜孜」と重ねて、学問や仕事などに一生懸命励み努力し休まないさまを、忽然という言葉でも使われる、すみやかなさまを表す「忽」(こつ)を重ねた「忽忽」もすみやかに余事を顧みず着実に励むさまを表します。それぞれの歩みを重ね、休まず、余事にとらわれず着実に研鑽を積まれたみなさんに、まさにふさわしい言葉と思います。目標達成のために重ねられてきた精進と研鑽、そしてその目標を達成するまで頑張りぬくという精神の強靱さは、皆さんが今後の人生を生き抜くための大きな力となることでしょう。京都大学の博士という学位に誇りと気概をもって、これからも研究に励んでいただきたいと思います。

 私は、昨年10月1日、京都大学第25代総長に就任しましたが、まもなく1年を迎えようとしています。2004年の国立大学法人化以来、京都大学は、激動する社会の構造変化の渦中にあり、大きな変革の時代を迎えています。また、昨年秋以降の米国金融危機に始まる世界的な同時不況、更に、日本では去る8月30日の衆議院選挙結果にみられるように、新しい政治変革への期待の高まりも見られます。世界と日本、今、ともに大きな変化の潮流の中にあり、将来の環境変化や構造変化に備えた新しい対応が求められていると思います。

 京都大学においても来年、2010年からは、向こう6ヶ年の第二期中期計画期間に入ります。現在、新たな中期計画に向けた準備作業を進めていますが、優秀な博士学位取得者に対する支援策の一環として、次世代の指導的研究者の育成と若手教員ポストの拡充を行う京都大学「白眉プロジェクト」を始動させます。「白眉プロジェクト」は、博士の学位を有する研究者を次世代を担う先見的な研究者に育成することを目的に、各部局の様々な取り組みに加え、優秀な若手研究者を京都大学の准教授、助教として採用し、京都大学白眉研究者の称号を与え、自由な研究環境の中で独創的・先駆的な研究を支援する京都大学独自の新しい任用の仕組みです。この秋、まもなく公募を開始し、2010年早期の採用を目指しています。初年度は、20名程度の採用を予定しており、本日ご出席のみなさんの中からたくさんの白眉研究者が生まれることを大いに期待しています。

 また、より一層の人材活用を図る観点から、去る3月、「京都大学男女共同参画アクションプラン」を策定しました。本アクション・プランは、「多様性こそが今後の教育・研究の活力の源泉であるとの信念の下、男女共同参画を推進し、女性教職員や女子学生を含めた多様な人材がいきいきと活躍できる環境を構築する」ことを目指し、2009年度から向こう5ヶ年、女性が存分に能力を発揮できる大学となるよう実施するものです。近年、本学の女性教員、大学院博士課程に在籍する女子学生は徐々に増えきていますが、さらに女性研究者数を増やすためには、高い志を持った優れた女性研究者にたくさん応募していただく必要があります。本日ここにご出席のみなさんの積極的な応募をお願いします。ここに紹介した新規のプロジェクトなどを通じて、京都大学が魅力・活力・実力ある世界最高水準の大学であり続けられるよう、総長として努力を続けていきたいと思います。
  史記に、「狐疑猶予すれば、後に必ず憂いあり。断じて行えば鬼神もこれを避く。」という言葉があります。努力の後の成功は、この学位取得の今実感されるところと思いますが、それをひとつの励みとして、今後も迷うことなく決断し、自分を信じて未来を切り拓いていっていただきたいと思います。

 最後になりましたが、学位を得られるまでの研鑽の道程において、支援を惜しまれなかったご家族、友人の皆様には、心からの感謝を申しあげたいと思います。

 本日、博士の学位を得られたみなさんの中には、これから学問の世界でさらに研究を進める方、また社会人として、新たな職場で活躍される方などがおられると思いますが、地球社会の調和ある共存に貢献するという基本を忘れることなく、こころを磨き続け、健康に留意され、ますますご活躍されんことを祈念して、私のお祝いの言葉といたします。

 本日は、誠におめでとうございます。

会場の様子