平成20年度 博士学位授与式 式辞(2009年1月23日)

第25代総長 松本 紘

松本総長 本日、新たに119名の京都大学博士が生まれました。まことにおめでとうございます。ご列席の、理事、副学長、各研究科長、学舎長、教職員とともに、課程博士85名、論文博士34名の皆さんに、また参列されたご家族、ご友人、関係の皆様におよろこび申しあげます。今回、海外からの留学生は10名、女性の方は22名でした。

 博士学位を授与されたということは、学問を志した皆さんにとって深い意味があります。今日から一生、世界のどこにいても研究者として認められるという、世界に通用する資格を得たということになります。京都大学の博士という学位に特別の誇りを持って、これからも研究に励んでいただきたいと思います。

 1897年の創立以来、京都大学が授与した博士の学位は、皆さんで通算、36,241名になりました。その中には、本学創立初期、1914年ごろの複数年、ノーベル医学賞候補となっていたといわれる千円札肖像の野口英世博士もいて、1911年に医学博士の学位を京都帝国大学から得ています。また、本日1月23日は、日本で初めて1949年にノーベル賞を受賞された湯川秀樹博士の誕生日でもあります。今年2009年は、湯川博士誕生103年目になります。昨年2008年の日本の学術界の喜ばしい最大の話題のひとつは、6年ぶりに日本出身のノーベル賞受賞者が同時に4名も授与されたことが挙げられると思います。

 皆さんご承知のとおり、受賞者のおひとりである益川敏英京都大学名誉教授は、本学の基礎物理学研究所所長としても活躍され、本学関係者としては、2001年に化学賞を受賞した野依良治博士以来6人目の快挙となります。益川名誉教授は、1973年本学理学部物理学教室の助手時代、当時同じ教室の助手として同僚でもあり、ノーベル賞同時受賞者でもある小林誠博士とともに「小林・益川理論」を提唱し、現在では素粒子物理学の基礎となる「標準理論」として世界中の物理学者に認められ大きな功績をあげたことが評価されています。この受賞の対象論文となった「小林・益川理論」は、湯川秀樹博士が創刊した「Progress of Theoretical Physics」に掲載されたものです。同誌は、本学基礎物理学研究所と日本物理学会が発行しており、今回の受賞により、日本にもノーベル賞を生みだせる雑誌があることを国際的にも示すこととなりました。また、湯川博士、朝永博士以来続く京都大学の基礎物理学分野での研究力の底力と伝統がよい形で継承されている好例と思われます。

 私は、昨年12月上旬、益川名誉教授に同行し、ノーベル賞授賞式典にも参加させていただきました。スウェーデン滞在期間中、カロリンスカ研究所等の関係学術機関を訪問したり、ノーベル賞関係者達に京都大学におけるこれまでの研究内容と研究者の活動などを併せて紹介してきました。

 その中には、一昨年、世界で初めてiPS細胞の樹立に成功した本学、山中伸弥教授による研究、免疫学の第一人者である本庶佑名誉教授などの業績、また、フィールズ賞受賞者、ラスカー賞受賞者など世界的に評価の高い京都大学・日本人研究者の多くの業績についても紹介させていただきました。

 昨年のスウェーデン、ノーベル賞授賞式典訪問を通じて感じたことのひとつは、日本における研究、そして京都大学における研究は、決して欧米諸国にひけをとらない内容を持っており、本学が世界最高水準の研究環境と学問の源流を支える基礎研究領域では、さらに大きな強みを発揮していることであります。このことを踏まえながら、今後、皆さん方の研究分野においても大きな自信をもって、研究の未来を開拓していただきたいと思います。

 

授与の様子 今後の日本と京都大学が世界に果たすべき役割を考えるとき、本日、博士学位を得られた皆さん一人一人が自分から新しい道、新しい考え方を創り出す気概「自我作古」を胸に、大いに自分達が未来を創ってゆくのだと信念と自信を持って欲しいと思います。皆さんの研究活動について、今後も地域や世界の各地に発信する努力を継続していただきたいと思います。

 私は、昨年10月1日、京都大学第25代総長に就任いたしました。2004年の国立大学法人化以来、京都大学は、激動する社会構造変化の渦の中にあり、大きな変革の時代を迎えています。2009年は法人化後6年目に当たり、第一期中期計画の最終年に当たりますが、来年2010年からは、向こう6ヶ年の第二期中期計画年に入ります。現在、新たな中期計画に向けた準備作業を新執行部とともに進めていますが、その中では、皆さんのような優秀な博士学位取得者に対する支援策のひとつとして、次世代の指導的教員育成と若手教員ポストの増設を目指す「白眉プロジェクト」の展開、共同参画社会形成のための女性教職員登用や外国人教職員の積極的登用と勤務条件や環境の整備も目指しています。

 このほか重点事項として、博士課程在籍者に対する経済的支援策の充実、各学術分野におけるトップレベル研究の推進、基礎学術を重視した財政支援の充実、国際・国内共同研究と産官学連携の積極的展開、大学基金の体制整備、同窓会組織の活性化策などを推進することを目指しています。特に、京都大学の国際的地位の向上のための施策充実、グローバルスタンダードの研究拠点総合大学としての施策、これからも、魅力・活力・実力ある京都大学を目指しながら、教育・研究環境をさらに充実させたいと考えています。

 私は、人生を木にたとえることができると思います。大木が育つには、肥沃な大地が必要です。土壌を富ますことなく、外見のみを整え、栄養を与えるだけでは大木は育ちません。自らをさらに肥沃な大地とするために、また人間力を豊かなものとするためにも、単に研究領域の専門に留まらず、これまで以上に皆さんが自身を広く深く耕していただきたいと思います。皆さんが、京都大学の博士として、凜とした気概をもち、既成概念にとらわれない課題を自ら発しながら、課題解決への道程を切り拓いていかれることを総長として願っています。

 最後になりましたが、本日、博士の学位を得られた皆さんは、これからさらに学問の世界に進んで、世界を驚かすような研究成果を発表する可能性を持っています。また、社会人として新たな職場で目覚ましい活躍をされる方もいると思います。今日の学位授与に至る過程での経験を活かしながら、さまざまな形でご活躍を祈っています。また、皆さんが学位論文をまとめる過程で得た多くの知識を広く市民に伝えることも、皆さんにとってこれから大きな仕事になるということも忘れないでいただきたいと思います。さらに、学位を得られるまでの研鑽の中で、多くの支援を惜しまなかったご家族、友人の皆様には、心からの感謝を申しあげたいと思います。

 皆さんが、これからも世界の平和と人類の福祉に貢献するという基本を忘れることなく、こころを研き続け、からだの健康を大切にして、大いなるご活躍を願って、お祝いの言葉といたします。

 本日は、まことにおめでとうございます。

会場の様子