京大の発明

京大惑星の地下には、発明者たちの夢見る未来世界が秘密裏に存在します。
さぁ、タイムマシーンに乗って、発明品の時空を探検しよう。

※本コンテンツは取材当時の情報に基づいた内容となっております。
また未来に関する内容は、あくまで予想であり、事実と異なる可能性

20XX

動物を犠牲にしないで薬が作れる時代に!かつては人間の薬の効果を調べるために、多くの実験動物が犠牲になったが、いまは人間の体の機能を小さなチップの上に再現する『ボディ・オン・チップ』が普及したおかげで、動物が実験のために命を落とすことが無くなった。人間も、副作用がなく、かつ一人一人個別に効く“テーラーメイド薬”が安価に作られるようになり、誰もがより健康な生活を送れるようになった。

絶滅危惧動物の 薬作りにも
2020

どの組織にどんな薬が効くか簡単に調べられるキットが実用化!人体すべてがオールインワンとなったチップの実用化はまだ難しいが、臓器ごとに薬の効果を試せる『ボディ・オン・チップ』のキットは実用化された。例えば「心臓」キットなら、すでに心臓の細胞がチップに入っており、研究者はパッケージの封を切ればすぐに研究にとりかかることができる。他に肝臓や腎臓、肺などなど……。これら『ボディ・オン・チップ』のキットにより、創薬にかかるコストや時間が大幅に削減された。

細胞の大量培養の キーワードは『布』
2017

抗ガン剤の副作用 を再現する 『ボディ・オン・チップ』 の開発に成功 人間の体の中の仕組みを再現した『ボディ・オン・チップ』に、人間のがん細胞と正常な心筋細胞を入れ、抗がん剤をがん細胞に投与したところ、がん細胞は死滅したが、心筋細胞にダメージを与えた様子が観察された。つまり、抗がん剤による副作用が起きる仕組みが再現されたのだ。これは、従来の細胞培養プレートなどでの実験では難しかったこと。また、チップ上で複数の細胞組織をつなぎ、相互作用の確認に成功した世界初の例となる。これで『ボディ・オン・チップ』の実用化に大きく一歩近づいた。

技術者の力を結集 チップの中に 人の体が再現?!
2010

マイクロ流路と iPS細胞を 組み合わせて、 ヒトを模倣した システムを作れ! 2009年に「マイクロ流路」上でのES細胞の培養に成功(世界初)。そして1年後の2010年にはiPS細胞も問題なく培養できるようになった。マイクロ流路は人体に近い環境を作ることができる。一方、iPS細胞は人体のあらゆる組織に変化することが可能だ。つまり二つを組み合わせれば、ヒトを模倣したシステムが作れるのではいか? ヒト自身を小さなデバイスの中に再現する──ミクロの世界の壮大なチャレンジが始まった!

発見のターニングポイント 越えなければ いけない壁 !?
2009

マイクロ流路と iPS細胞を 組み合わせて 人体システムを作れ! 研究スタートから3年。ついにマイクロ流路装置でのES細胞の培養に成功した。それは世界初の快挙だった。そして1年後の2010年には、iPS細胞も培養できるように。iPS細胞は人体のあらゆる臓器細胞に変化することが可能。それは、マイクロ流路内に人体を再現できる可能性があることを意味した。『ボディ・オン・チップ』のアイデアが生まれた瞬間だった。

マイクロ流路とは?
2006

『ボディ・オン・チップ』 の基となる研究を アメリカでスタート 半導体などの超微細加工技術を用いて作られた、マイクロミリメートル単位の微細な立体回路を「マイクロ流路」という。少ない試材で効率的に化学反応を起こせることから、主に化学物質の合成などに使われてきたが、それを、“細胞の培養に用いることができないか?”と研究を始めたのが、当時アメリカのカリフォルニア大学でマイクロ流路の研究開発に従事していた亀井先生。平面の培養皿より人間の体内環境に近い立体的なマイクロ流路の中ならば、より良質な細胞を作ることができるのでは?と考えたからだ。これは後の『ボディ・オン・チップ』につながる研究だが、まだこの時は“チップ上に人間の体内を再現”するという発想はなかった……。

1本の流路は 髪の毛より細い!

ボディ・オン・チップの生みの親 亀井謙一郎先生に聞く 亀井謙一郎(工学博士)京都大学高等研究院 物質–細胞統合システム拠点准教授 プロフィール 2003年東京工業大学大学院生命理工学研究科生命情報専攻博士課程修了。同年〜2010年カリフォルニア大学ロサンゼルス校分子医学薬理学専攻にポストドクターとして在籍。同大学カリフォルニア・ナノシステム研究所にも在籍。2010年京都大学物質—細胞統合システム拠点(iCeMS)特定拠点助教等を経て、2018年4月より現職。趣味は「ガンプラづくり」「スキューバダイビング」。

■研究の魅力とは? 「人体という何億年もかけて作られた究極の造形物に、どこまで近いものを自分たちの手で作ることができるか。それは魅力的であるし、非常にチャレンジングなことでもありますね。しかし最先端の工業的手法や化学的方法を駆使すれば、全く不可能ではないと思っています。もし壁にぶつかっても、知恵を絞って新しい方法を見つけ出せばいい。しかし、そのためには人間の構造そのものについても知らなくてはならない。つまり幅広い知識が求められる、非常にやりがいのある研究分野ですね」

■先生のようになるためには? 「本来私はエンジニアです。大学院も工学で卒業したのですが、アメリカでポスドク(ポストドクター・博士研究員)になる際、細胞培養というバイオの分野と関わることになりました。そのとき、生物学の研究室に足を運び、生物学の基礎を学んだことは今も生きています。工学は誰かの役に立つものを作るための学問。包丁職人が料理を全く知らなければ良い包丁は作れませんよね。あと、これはあまり関係ないかもしれませんが、小学校に入ったころから“ガンプラ”などプラモデルをたくさん作っていましたそのうち設計図通りに作るだけでは物足りなくなり、自分でいじくって改造したくなりました。それでラジコンの方に行ったのですが、自分の手で何かを作り出す喜びは、このころに覚えたのかもしれませんね。そもそも、科学者ってどういう人間なのか、普段どんなことをしているのか、一般の人はわかりませんよね。そういう垣根を取り払いたくて、いま、大学に一般の人を招いてトークショーをしたり、高校に出張授業に行ったりしています。出張授業では最後に参加した高校生に研究発表してもらうのですが、大人にはない発想が飛び出したりして面白いですね。そうしたイベントを通して、若いうちから科学者や研究者と触れ合っておくと、「なんだ普通の人間じゃないか」「自分でもなれるかも!」というふうに考えられると思うので、おすすめです」

■発明のために一番大事なことは? 「この発明には、工学的なアプローチと生物学的アプローチの両方が必要でした。細胞のことを知らなければ、良い細胞を培養するためのマイクロ流路は作れないからです。今は異なる分野の共同研究が増えていますから、一つの分野を深掘りするだけでなく、幅広い知識を身につけ、それらをバランスよく駆使していくことが、新しいブレイクスルーを生み出すためにはとても重要じゃないかなと思います」

■これからチャレンジしたい研究 「興味はいっぱいあるんですが、一つは絶滅危惧種を救うために様々な種のiPS細胞を準備して、そのためのデバイスを作りたいですね。あと、マイクロ流路のデバイスはものすごく小さいので、宇宙に持って行ってもらえないかなとも思っています。宇宙線の悪影響など人体では実験し難しいことも『ボディ・オン・チップ』ならできるはず。実は大学に入るときロケットが作りたかったので、そのときの“宇宙への夢”を叶えたいなという思いもあるんです(笑)」

■京都大学で研究する魅力 「私がいま在籍している物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)は、物質-細胞統合科学という新たな学問の分野を創り出し、国際的な研究拠点を目指しています。つまり、工学系と細胞系が一つになった研究機関ということですね。これこそが京大の魅力ではないでしょうか。普通の研究所だと研究対象の幅が狭められてしまう可能性もあるのですが、ここはジャンルを超えた融合研究をどんどんしてくださいというスタンスなので、かなり自由にやらせてもらっています。また、いろんな人と知り合いながらやることができるので、とても刺激になりますね」