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総長の言葉

京都大学は創立以来、自由の学風のもと対話を根幹とした自主独立と創造の精神を涵養し、多元的な課題の解決に挑戦して、地球社会の調和ある共存に貢献すべく、質の高い高等教育と先端的学術研究を推進してきました。学問を志す人々を広く国内外から受け入れ、国際社会で活躍できる能力を養うとともに、多様な研究の発展と、その成果を世界共通の資産として社会に還元する責務は、ますます重要になりつつあります。

一方、地球環境の悪化や民族間、宗教間の対立の激化、国際資源競争や金融危機、社会格差や生活の不安などの20世紀的課題は、解決されないまま21世紀に持ち越され、一層問題が大きくなっており、世界の情勢とわが国を取り巻く状況は急速に変化しています。わが国の人口動態の変化と基礎的財政収支の不均衡にともない、国立大学は、新たな運営形態や組織改革を求められるようになりました。特に、国からの運営費交付金は大学改革促進係数等によって毎年減少し、本学を取り巻く財政状況は一層厳しくなりつつあります。

そこで、第3期中期目標・中期計画を見据えた改革の加速期間であった平成26年度に、大学が直面している状況を正しく認識した上で、その改革に向けて指針を提示し、今後の実行計画を立てることにいたしました。

まず私は、こうした現況に鑑み、京都大学が歩む指針として以下に述べる「WINDOW構想」を平成27年度に打ち出しました。大学を社会や世界に開く窓として位置づけ、有能な学生や若い研究者の能力を高め、それぞれの活躍の場へと送り出す役割を大学全体の共通のミッションとして位置づけたいと思ったからです。大学の教育とは、知識の蓄積と理解の向上だけを目指すものではなく、習得した知識や技術を用いていかに新しい発想や発見を生み出せるようになるかが問われるものです。その創造の精神を教職員と学生が一体となって高めるところにこそ、イノベーションが生まれるのです。すべての学生がみな同じ目標に向かって能力を高めたとしてもイノベーションには結び付かないでしょう。違う能力が出会い、そこで切磋琢磨する場所が与えられることによって、新しい考えが生み出されていくのです。京都大学では、単に競争的な環境を作るのではなく、分野を超えて異なる能力や発想に出会い、対話を楽しみ協力関係を形作る場を提供していきたいと考えています。そういった出会いや話し合いの場を通じて野生的で賢い学生を育て、背中をそっと押して彼らが活躍できる世界に、開いた窓から送り出すことが、私たち京都大学の教職員の共通の夢であり、目標であってほしいと思います。その「窓」にちなんで、WINDOWという標語を作りました。

そしてこの度、「WINDOW構想」の改定を行いました。同構想のこれまでの実績や社会環境の変化を踏まえて、京都大学が今後より一層注力する施策を検討し、新たに盛り込んでいます。また、平成29年度に指定国立大学法人*に指定され、新たに開始した多数の試みも取り入れました。

本構想では、新たな方針・施策だけでなく、継続して取り組むものについても、その理念や内容を十分に踏まえながら、さらに発展させようと考えております。今後も引き続き、皆様の積極的なご意見を頂戴したいと思っております。

京都大学総長 山極 壽一