防災研究所創立五十周年記念式典祝辞

平成十三年四月十八日

本日ここに京都大学防災研究所創立五十周年記念式典が挙行されるに当たり、一言お祝いの言葉を申し上げます。

防災研究所は、京都大学の附置研究所として、第二次世界大戦後間もない昭和二十六年に設置されました。当時は、国土が荒廃していたのに加えて、大型台風や地震が相次いで襲ってきて、わが国の自然災害の歴史の中でも特異といえるような受難時代でありました。

このような状況下にあって、本学は学部の枠を越えた災害予防と軽減の方策に関する研究の重要性を訴え、その研究を行ってきた結果が認められて、「災害の学理とその応用の研究」を目的とする防災研究所が京都大学に附置されることになったものであります。発足当初はわずか三小研究部門というささやかなものでありましたが、逐次整備充実がはかられ、主として、理学と工学を融合する立場から、洪水・高潮、台風、地震、火山噴火、土砂災害等わが国で発生する各種の自然災害に関する基礎研究を手がけるまでに発展致しました。また、その研究成果が実用に供され、災害軽減に寄与された例も多数に上っています。さらに、学生として、あるいは教官として、かつて防災研究所で学び、今は他の舞台で活躍されている優秀な人材も多数に上っております。

ところで、災害の様相や規模、影響は被災する側の社会の構造によっても変化致します。高齢化や人口の都市集中に伴う社会構造の変化、交通、情報通信、電力等のライフラインの高度化・複雑化などによって、災害研究も従来の理工学的研究のみでは不十分となり、社会科学、情報科学、人文科学なども取り込んだ総合的な防災学の確立が必要になっています。防災研究所では、かねてから、このような災害の進化に対応した研究・教育のあり方に意を注いでまいり、平成八年、新しい要請に対応する新部門の設立とともに、従来の小部門制を改めて大部門化し、同時に全国共同利用の研究所へと全面的な改組を行いました。これにより、専任教授定員三十四の京都大学で最大の附置研究所に発展いたしました。

この改組直前に不幸にも「阪神淡路大震災」が発生しましたが、まさにこれによって防災研究所がもくろんでいる防災学の必要性・緊急性が露わになりました。その後、共同利用研の利点を生かして、共同研究、研究集会が活発に開かれ、都市地震災害に関する研究が飛躍的に進展することになりました。昨年は、また、東海地方で記録的な豪雨があり、都市豪雨災害に関しても活発に研究が進められているのであります。今や防災研究所は名実共に防災学研究のCOEとして活躍している訳で、さらなる発展に向けて所員各位のご尽力をお願い致します。

さて、二十一世紀を迎えて、地球規模の環境変化が取り沙汰されております。環境悪化の原因はほとんど人為によっているのでありますが、度重なる国際会議をもってしても、解決どころか悪化の一途であると言っても過言ではないようです。このような環境の変化は、災害の原因となる台風や集中豪雨をより凶暴化し、より頻繁化することが懸念されています。また、海面上昇は災害に対する脆弱性を増加させます。反対に旱魃に悩まされる地域も増えて行くかも知れません。このような環境の変化は、当然、わが国の災害を変質させますが、世界には、より深刻な影響を受ける地域が数多くあります。国際貢献の視点での研究が重要であると思われます。また、視点は異なりますが、最近わが国では、ダムなどの人工に反対し、自然を重視する風潮が増加してきております。人々が安全で、安心して自然豊かな環境の下で生活できることは理想であります。二十一世紀のキーワードの一つであり、最も重要であると思われる「環境」と共生できる防災といった視点での研究にも、今後是非力を注いでいただきたいと思います。

終わりに当たりまして、防災研究所の今日の発展に寄与してこられました各位の不断のご努力、ご精進に対して深く敬意を表しますとともに、世界の災害防止・軽減を目指して、防災研究所が今後一層研究を推進させ、人類に対して貢献されることを希望してお祝いの言葉と致します。