セクション

第1回京都大学理学研究科21世紀COEシンポジウム (2003年12月20日)

尾池 和夫

第1回京都大学理学研究科21世紀COEシンポジウムの開催にあたって、5つのCOEプログラムのスタートを祝い、京都大学を代表して挨拶申し上げます。
「理学を志す君たちに語る、21世紀理学研究の将来像」と題されているこのシンポジウムは、その文字の通り、理学を志す若い方たちに向かって、現在、わが京都大学で世界の先端を走っている、理学の各分野の第1線の研究者たちが、その夢を語る企画であります。

理学研究科長の笹尾先生が、誇らしくいわれるように、本日の第1回のシンポジウムで語られる5つの分野は、京都大学理学研究科の持つ5つの専攻の一つひとつに対応する分野であり、5つの専攻のすべてが、文部科学省による21世紀COEプログラムの研究拠点として選定されているということが、理学研究科のみならず、この京都大学の誇りでもあります。

この21世紀COEプログラムは、日本の大学の研究と教育の水準を高め、国際的な競争力を一段と強化することを目的として、大学を支援する事業といわれています。大学からの申請をもとに、21世紀COEプログラム委員会の評価によって、研究のポテンシャルが高い水準にあるという観点から選定され、採択されたものです。

京都大学の場合には、平成14年度、2002年度には、募集された生命科学、化学・材料科学、情報・電気・電子、人文科学、学際・複合・新領域、の5分野のすべてに対して申請し、11件が採択されました。

また平成15年度、2003年度には、5分野、すなわち、医学系、数学・物理学・地球科学、機械・土木・建築その他工学、社会科学、学際・複合・新領域の募集に対して申請をして、11件が採択されました。14年度と15年度あわせて22件の採択であり、現在京都大学としては、22の研究教育拠点の形成を目的として、これらのプログラムが走っているわけであります。

もとより理学は、あらゆる学問分野の基礎となるものであり、本日紹介される理学研究科のプログラム以外の分野においても、当然ながら理学の歴史と蓄積が、その発展を支えているということができるのであります。とくに学際・複合・新領域の分野では、そのような発展の出発点にある分野が見られ、理学の分野からの具体的な展開の状況を見ることができます。

もちろん採択された分野のみならず、その周辺の分野においても、またそのほかの分野においても、同様に世界的な研究教育の拠点を目指して、京都大学では、3000人の教員と、2万2000人の学生たちが、日夜学問に励んでいることは、申し上げるまでもありません。この5分野に続いて、次の段階には、また新しい分野が拠点としてスタートすることになるのを期待しており、本日のこの理学の5分野のシンポジウムが、京都大学のあらゆる分野の発展のきっかけとなることも、私は期待しております。

日本では、わが国独自の文化の長い歴史と蓄積をもとにして、欧米型の実証的科学の発展が、18世紀後半から始まりました。解剖学をはじめとして、西洋医学が移入され、杉田玄白らの「解体新書」ができました。この頃からの医学や物理学などを中心とする蘭学塾が明治の科学教育に発展しました。

さらに、たとえば日本の自然の観察の基本となる地図に関しては、伊能忠敬が日本列島の測量を始めたのは、1800年でありました。歩測で海岸に沿って距離を測って地図を完成し、リアス式海岸では綱を引いて、海を渡る距離を測りました。地球の外周を4万キロと計算しましたが、今知られている外周にくらべて、0.1パーセントの誤差であったといわれ、その精密さには驚かされます。

また、1835年(天保6)年には、宇田川榕庵の近代植物学書「植学啓原」が出版され、さらに1839年(天保10)年には、日本で初めての化学書である「舎密開宗(せいみかいそう)」が刊行されました。榕庵が訳した「細胞」「水素」「窒素」「酸素」などの訳語は、今もそのまま使われております。

1872年(明治5年)、文部省が出した学制には、小学校の算術、地学、理学、幾何学、博物学、化学、天球学があり、中学校では、数学、地学、理学、幾何学、代数学、博物学、化学、生理学、重学(ちょうがく:力学)、動物学、植物学、地質学、鉱山学、星学があげられました。それがやがて明治の末には、数学、地理学、博物学、物理学、化学に整理されました。そして1940年代の大きな改革を通して今の分野ができました。

京都大学の歴史の中では、1897年に京都大学の創設と同時に化学教室が設置されましたので、そのおかげで理学研究科も106年の歴史を誇ることができるのであります。

理学は多様な自然現象を人間の眼でとらえて、その本質を理解しようとする学問であります。その成果が、わたしたちの日常の生活に、すぐに役立つかどうかということではなく、わたしたちが自然をどれだけ理解することができるかということが大切であります。そのことが人類の次の世代に、知の遺産を伝えることになります。このような基礎科学とその応用の分野が適切に配置されてこそ、人類の将来の幸せが保証されるのであります。

日本ではどちらかというと応用に重きが置かれて、基礎研究が軽視される傾向が続いたことを反省する必要があるという意見があります。たとえば、理学部と工学部の規模を比べると、アメリカでは1対1、急速な発展を指向する中国でも1対4、それに対して、日本では1対8といわれます。もちろん理学と工学とを単純に分けることはできません。たとえば、地球学と地球科学と地球工学という言葉があります。これらはそれぞれどう違うのだろうか、あるいはどのような関係にあるのだろうか。これからの理学と工学の、お互いに車の両輪となる発展のためにも、今日のシンポジウムを、このような観点からも注目していただきたいと思います。

また、理学の分野をすすめる手法として、理論科学の分野、実験科学の分野、それに野外科学の分野があり、それらが見事に融合しあって、研究を進めていくプロセスがあります。そのプロセスそのものが学問の醍醐味でもあり、これからの理学を志して本日参加して下さった若い方々には、その点もよく学んでほしいと思っています。

報道でご存じの通り、今日にも財務省の予算原案が内示され、24日には閣議決定が行われようとしています。国立大学法人への運営費交付金の取り扱いについて、効率化計数が適用された場合の大きな影響が懸念され、国立大学の予算が削減される可能性が懸念されています。そのようなことがないよう強く望むという要望書が、国立大学協会理事会からも、京都大学の各部局長からも、文部科学大臣、財務大臣に提出されています。そのような日本の将来に対する憂慮も、一方で持ちながら、とくに基礎科学の分野の支援体制の重要性も考えつつ、今日のシンポジウムを注目していただきたいと思います。

本日は多くの方々のご参加をいただき、ありがとうございました。

(京都大学百周年時計台記念館 百周年記念ホールにて)